第20回 「存在意義」
「ところで僕は何をすれば良いのですか。」
就職を斡旋して下さるのは有り難いが、チートスキル未取得の僕に出来ることがあまりにも少なすぎる。
「異世界人を名乗る少年の出現に、政府でもかなり話題になっているらしい。特に “Smart Phone” というデバイスは研究者の間で争奪戦になっていたそうだね。中には君を解剖して異世界の生態系を研究したいなどという声もあったそうだ。しかしDNA鑑定を行った結果、特殊な血統でも進化を遂げた人類でもなく典型的なイースタシア人種と判明した。君はあまりにも平凡で利用価値がなさすぎたんだ。むしろ、君の存在を野放しにしておくと我が国のイデオロギーに反する主義や哲学を持ち込む危険すらある。親衛隊ではどこかの収容所に放り込んでおけばいいという主張が大勢を占めていたようだね。」
日本史の授業で習った江戸幕府も遭難した外国人を出島に監禁したらしいが、考えることはどの世界も同じであるようだ。もちろん僕はシーボルトと違い何の取り柄もないのだが。せめて人体実験の対象にならなかっただけマシと考えねばなるまい。
「ところで君の、教授という渾名は海軍内で付けられたそうだね。彼らが当初は君をイースタシアの科学者だと思っていたからだそうだが。確かに我々が押収した所持品から察するに、君は高い教養を身につけているはずだ。そこで、タカセ教授。我々に異世界について講義をしてくれないか。そういった分野の専門は我々以外には存在しないからね。」
「博士、ここは魔法を専門とするセクションだったはずです。そこがどうして異世界の情報など知りたがるのですか。魔法がいくら超次元の現象といっても、異世界の流行ファッションなどを知っても何の役にも立ちはしないでしょう。」
そう言うと博士はしばらく沈黙の後、なぜか「手品を見せるよ。」と言ってソファーから立ち上がり、机からトランプを取り出した。それから手慣れた手つきで数回シャッフルすると、「好きなカードを引いてくれ。」と僕に差し出した。僕の質問に対する答えとこの手品に関連性を見出すことはできなかったが、とにかく僕は言われるままにカードを引いた。
手に取ったカードには「ダイヤの8」が書かれていた。博士は覚えた絵柄をカードの山札の上に置くよう促し、慣れた手つきで山札を半分に分け、それを更に半分に分け、4つの山札が出来るとそれをまた1つの山札に戻した。
「実は私にも魔法が使えるんだ。私の能力は異次元に干渉することで過去の残留思念を読み取る、いわゆるサイコメトリーという能力だ。」
そう言って博士は山札を全て表に広げ、手のひらをかざした。しばらくそのポーズを取った後「君が引いたカードはダイヤの8だね。」と言い当て、僕が「当たりです。」と答えると、博士は得意げに目を細めながら「これがサイコメトリーだ。」とあごの下で手を合わせた。
「さて、タカセ教授。この手品はもちろん魔法なんかじゃない。ではどんなトリックが使われているか少し考えてみてくれたまえ。」
手品は嫌いではないし、テレビなどで見ていて「トリックを見破ってやろう」と試みたことも一度や二度ではなかった。だが考えるのが面倒になり「不思議なものだ」と感心するだけなのが常日頃である。見たところカードに細工しているわけではなさそうで、カードの色、カードの向き、材質など一応見てみたが全くわからなかった。
「君は今、答えの手がかりを探し出そうとしている。実は、異次元への干渉を試みる際の脳の働きと同じでもあるんだ。目に見えないものを探そうとしているのだからね。」
そして博士はダイヤの8の隣にあるカードを手に取り、「キーアイテムはこれだ。」と言った。つまり、山札の一番上のカードさえ覚えていれば、その上に乗せるカードが何でも簡単に見つけることができるのだそうだ。言われてみれば実に簡単なトリックである。
「さあ、目に見える手がかりが見つかった。また同じ手品を何度繰り返してもトリックさえわかってしまえばもう手がかりを見失うことはないだろう。言いたいことはわかるね、我々にとって目に見える異世界への手がかりとは何だい。」
それはつまり僕だ。難しいことはわからないが、恐らく僕が異世界の情報を与えれば与えるほど具体的なイメージがしやすくなり、よりパワーアップするという理屈なのではないだろうか。例えば魔法課の監督がシュナイダー博士だとすると、実におこがましいことではあるが僕はコーチに当たるのではないか。




