第19回 「種明かし」
「私は神の存在を信じてはいないが、君が見たのが夢ではないとすると、僕も改宗せねばなるまいね。」
やはり僕は「使命」のようなものを予感していたが、はっきりした確証は得ていなかった。博士も現状は何も把握していないのだろう。次に、僕は魔法について講釈を受けることにした。
「この宇宙が多次元で構成されていることはわかってくれたかな。」
「はい、なんとなくわかります。」
「よろしい。では、人が他の次元に干渉できるとすれば、どんな方法を使えばいいだろうか。」
わかるわけがなかった。それこそ、魔法を使う他にあるまい。
「光だ。」
博士は言った。
「彼女たちの魔法の正体は、光なんだよ。」
そして博士は「まだ全てが解明されているわけではないが」と魔法の種明かしを始めた。
「例えば君は仲の良い友人の心理を言葉抜きに読み取ったり、初めて訪れる場所をなぜか記憶していた経験はないかね。」
「そうですね、具体的には覚えていないですが、あったような気がします。」
いわゆる「以心伝心」や「デジャヴ」といった類のものだろう。気にしたことはなかったが、確かに僕にも経験があった。
「もしそれが特殊能力だったとすると、身体のどの器官が関わっていると思うかね。」
「もちろん脳でしょうね。全て知覚に関係していますから。」
「その通り。ところで脳は電気活動で機能しているのは知っているはずだ。ということは、君の特殊能力にはどうやら電気が関わっているらしい。」
「それなら電気が探知機のように第六感を働かせるのでしょうか。」
「確かに惜しいけど、少し違う。光に変換するんだ。ほら、豆電球と同じ要領さ。そうすることで、異次元を跨ぎ物理法則では有り得ないようなポイントにアクセスすることができる。」
「つまりそれが魔法の正体ということでしょうか。」
「その通り。彼女たち姉妹はその特殊能力をより高度で自在にコントロールできるんだ。もちろん能力には個人差がある。いや、個性と言ったほうが正しいかも知れない。」
博士が言うには、マルティナとカタリナは時間、アシュレイとマリアは生物、ヴィンデとクレアは時空を操る能力があるらしい。 RPG の固有スキルのようなものか。
「それは双子でなければならないのですか。」
「良い質問だ。帝国ではこれまで何十年も実験が繰り返され、何百人もの被験者がいた。もちろん、双子以外もだ。だけど成功したのは彼女たちだけだったのさ。つまり、あの子たちには相当な金がかかっている。」
「だから待遇が良いというか、軍隊の中でも特別扱いされているのですね。」
「それに我々は成果を出している。」
博士は組んでいた足を解き、前屈みの姿勢で僕を静止した。常に戯けた態度を崩さなかった彼の豹変に、次に発せられる彼の言葉の重さを予感して僕は固唾を飲んだ。
「タカセ教授、この世界で最も必要なスキルは何か知っているか。」
「魔法ですか。」
「違う。」
「科学技術の知識ですか。」
「違う。」
「では組織を束ねる求心力でしょうか。」
「見当外れもいい所だ。」
思った以上に辛辣な答え合わせに驚いたが、ならばイノベーションだろうか、それともダイバーシティーだろうか。ところでこの世界にドラッカーはいるのだろうか。
「この世界で最も必要なのは、コミュニケーション能力だ。」
至って真面目な顔で語る博士に思わず吹き出してしまった。これだけの科学力と広大な国土がある帝国で、必要スキルがコミュニケーション能力とはお笑い種である。帝国ではコミュニケーション能力で階級が決まるのだろうか。コミュニケーション能力で偉大な発明が生まれるならアインシュタインはいらないだろう。
「笑い事ではないよ。いくらどれだけ素晴らしい芸術家も、優秀な科学者も、稀代の名将もこの国ではコミュニケーション能力がなければ地位も名誉も名声も何も得られない。それが現状だ。」
最悪だな、と僕は思った。ただ、中学から高校までスクールカーストを経験した僕にとってよくわかる話だった。確かにカースト上位に食い込むには高いコミュニケーション能力を必要とした。いくら勉強ができてスポーツが得意でもオタクなら文句なしに底辺である。ただし僕のいた世界では、そのシステムを大人になっても続けているなんてさすがに考えられない。
「僕もあの子達を守るために、結構頑張っているんだよ。」
そう言って博士はやけに爽やかな笑顔を見せた。




