第13回 「双子」
帝国の文化水準の高さは目を見張るものがあったが、何より驚いたのはテレビやラジオなどメディアが非常に充実していることだった。テレビのチャンネルは30以上あり、スポーツだけでも6チャンネルあるらしい。ラジオは好きな時に好きなジャンルの音楽を聴くことができ、オンラインの動画や音楽配信サービスまである。しかもそれは全て国営企業が賄っており、帝国に住んでいれば誰でも無料で利用できるようだ。
一方で通信技術に関しては未発達であり、 SNS や検索サイトが存在しないのですぐに知りたい情報を得られない不便さはあった。ただ電子メールは使えるようで、オリガは宿舎に着くなりリヒャルトから渡されたガラケーのような通信機器で家族にメールを送っていた。意外に思ったが、冷徹そうなリヒャルトにも人の心があったようだ。通信網もやはり国営で、帝国領内のほぼ全ての都市で利用できる。こちらも通信費は無料だが、端末の購入にはマイナンバーのような国民 ID が必要らしい。つまり外国人の僕には所有できないので少し残念だ。
アシュレイが帰ってきたのはようやく午前0時を過ぎた頃だった。持ち合わせがなく食事もままならなかった僕たちは満を持して出迎えたが、玄関の扉を開けるとそこにはスーパーモデルが二人いた。この世界には太陽さえ2つ存在するのかと錯覚したが、双子であることはすぐに悟った。もう一人の名はマリアと言い、アシュレイから瘴気を除いたような大人しそうな美少女だった。
それからヴィンデとクレアというもう一組の双子が僕の同僚として紹介された。彼女たちも金髪で青い目をしており、年頃も僕たちと近いようだった。スーパーモデルたちに比べると背が小さく丸顔で特別美人というわけではないだろうが、クラスで4番目に人気がありそうな可愛らしく愛嬌のあるキャラクターだった。同じクラスの女子とさえ口をきいたことがなかった僕にとっては眩しすぎてかなり気後れするほどである。
「君の容姿はイースタシアに似て猿のようね。」
マリアは僕に言った。アシュレイと異なりわざと怒りを煽っている感じには捉えられなかったが、それがかえって僕の自尊心を抉った。ヴィンデとクレアは一般的な常識を弁えているようで、二人して「失礼よ。」とマリアをたしなめた。しかし当の本人は「何がいけないのかわからない」というような顔をしていた。
「君が異世界人だということは博士から聞いているわ。よろしくね。」
ヴィンデとクレアのどちらかが言った。アシュレイにはすでに面識があったためもう一方も相対的に判別ができたが、初対面の二人に関しては全くわからない。それにしても魔術師になるには双子の姉妹である必要があるのだろうか。まだ会ったことのない残りの二人も双子なのだろうか。
「彼はとても面白いのよ。クレアもきっと気に入ると思うわ。」
アシュレイが全く的を射ていない紹介の仕方をしたが、そのおかげで先の発言の主がクレアだとわかった。ただ彼女の「きっと気に入る」という理由を察するに、どちらの姉妹も僕を「喋る犬」のような認識で捉えているのではないかという危惧をも生じさせた。




