さいはての内側の話
知ってた。全部、知ってた。あなたの声も。あなたの顔も。吟味しなくても分かる。ずっと焦がれていたから。
ここに来ちゃうなんてねえ。駄目だよ。わたしの任期はあと数年なんだから、そうしたらあなたの子供に生まれ変わろうと思ったのに。駄目だよ。もう死んでしまっては。
でも嬉しかったんだ。わたしのために死のうとしてくれたこと。本当はこんな考え捨てるべきだ。でも、彼がまだわたしを覚えてくれていたこと、わたしを愛してくれていたこと。嬉しくないわけ、ないんだ。
名前を言いたかった。会えて嬉しいって言いたかった。でも禁止されている。わたしは死んだんだ。これは生まれ変わるまでの期間の仕事だ。仕事に私情を持ち込んではいけない。神であり天使であり、そういう存在は平等に人に接さなくてはいけないのだから。私情を挟んだら、フェアな判断が出来ないでしょう。
わたしは情が移らないようつっけんどんな態度で自殺者に接していた。そう、平等に接していた。でも、まさか彼が来るなんて。彼につっけんどんな態度で接さなくてはいけないなんて。平等って罪だ。そして自分に怒った。どうして最初こんな態度でいこうと思ったんだろう。
後悔しても遅い。でも、わたしは彼に会えただけ幸福者だ。そう考えよう。
ああ、嬉しかったなあ。もっともっと話したかったなあ。何度も溢れだしそうになったけど、なんとか耐えたわたし偉い。
わたしとの約束思い出してくれたね。ていうか今まで忘れていたなんて許せない。生きなさいよもっと。わたしもっと生きたかったよ。でもこれは運命だから。だからわたしの分まで生きて。じゃないと許さない。許さないよ。だって。
さあ、次の人が来るんだから。そろそろ思いに浸るのはやめよう。本当日本って自殺者多いよね。何か改善しないのかな? ああ、ほらまた来た。相当思い詰めている。大丈夫か。
――――だって。雨宮香織は菅貞慶吾を愛しているんだから。
言いたかったけど、言えなかったから飲み込んだ。仕事に私情を持ち込んではいけない。だってもう次の人が来てる。でもその分涙が止まらなくて、次の人に大丈夫ですかと心配されたのは、また別のはなし。