序 参 在りたい在り方
事の次第は兎も角も、八体の首無しの体が何なのか、とりあえず念仏混じりに手を合わせ、本堂の中を見渡してみる。
袈裟も衣も着ては居ない。何か願掛けの講中か。
といって掛け金を争った様子も無く、中央奥に有る観音像を囲む様にがらんとした堂内に倒れているばかり。
男ばかり八人、裾をはだけて息絶えて居た。
(こいつァどうやら…)
「御察しのとおりでございますよ、お侍様」
不意に声がした。
驚いて振り向くと、七右衛門よりやや年上であろうか、引詰め髪のおんなが立っていた。
「こりァおどろかしちまってあいすいませんねェ。 でもねぐらをお探しなんでしたら、こんな外道の転がってるとこだけァおやめなさいまし。」
名乗りもせずに女は云った。
「そいつァどういうこったい?」
七右衛門も気にせず問う。
「寄ってたかってむすめをどうにかしちまおうとした病犬どもサ。観音様の罰ですョ」
「するてェとおまえさん、こいつらに…?」
「まさか。無理矢理貸し付けた借金とやらのカタにかっさらった娘を 叩き売る前に嬲りもんにしようてェ とこへ通り掛りましたのサ」
「じゃあ殺ったのァおめえか?」
「…性分でしてねェ…寄ってたかってってのがどうにも。ほっとけないものァ放っとけないんです」
「…そうか。そういう事なら仕方がねえ…てなわけにもいかねえんだろうが、ハナシは解る。いいウデだな。」
「…そりァどうも。…で、どうなさいます…? わたしをお縄にでもなさいますか?」
すうっと目が細くなる。
「どうもしねえよ。殺ってるとこも見てやしねえし、こんなおかしなホトケも見た事がねえ。突き出し様がねえだろう」
それに、と七右衛門は続けた。
「おれならこんなもんじゃすまさねえ」
「…ありがとうございます。なにしろお宿をお探しなら、もちっと先に宿場がございます。あつかましい様ですがそこで、も少し噺を聞いちゃいただけませんか」
「まァかまやしねえが、…おォそうだ、おれは鮫島七右衛門と云う」
礼儀知らずと侮られるのも嫌なので先に名乗ると、女はあらいやだ、と笑って。
「いきおいでわたしばっかり喋っちまってあいすいませんね」
口数を恥じる様に名乗った。
「わたしァ、ぬえ、ってんです」 それが別れの始まりだった。