序 二
鮫島七右衛門がぬえと名乗る娘に出くわしたのは、 年が明けて小正月も過ぎたある日の事。
行き先を思い付かず、街道を逸れて林のなかをぶらぶらしていた。
藪を抜けると、どうやらどこぞの寺内の敷地らしく、大きく拓けた庭に出た。
警固の者にでも見咎められては面倒…と思ったが、見渡してみると、まるきり線香の香りもしなければ人気も無い。ごく最近無住になったものとみえ、煤けているが荒れてはいない。
どうやら本堂の裏手らしきところからぐるりと建物伝いに表に回る。
無住になる程であるから格式は高くあるまい。
とりあえず水でも遣って人心地着こうと井戸の脇まで足を運ぶ。
(今日はここいらで手を打つとするかの…)
顔を洗って首筋を拭うと、要は面倒臭くなってきた。屋根が有る事自体が僥倖である。 よし、ここにしよう。
とすればやはり本堂に上がり込んで仏の前で過ごすのがせめてもの気休めになろうか。 ひとつ拝んで戸を開ける。
閉める。
驚いた。
こんどはうっすらと開けてみる。
やはり居る。
気配はまるで感じなかった。
しかしながら。
確かに、複数、居る。
坊主頭であったなら、なにもこれ程驚きはしない。
いや、せめて頭があったなら。
死んで居るのだから気配がないのは当然だが。死臭も無いとはどういうことか。 死んで居るのだから気配がないのは当然だが。死臭も無いとはどういうことか。
辻褄が合わぬ。
無住の寺の本堂に、首無しの体が八つ。
妖か。
まさか。 人形?
意味が判らぬ。
下手人は?
とうに居るまい。
ならばせめて弔うのが一宿の義理であろう。
南無阿弥陀仏。
観音様だった。