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序・血塗れの娘

おはようございます。こんにちは。こんばんは。 虚空蒼月と申します。初投稿なのに初連載です。生活時間の都合上、いつの間にか更新します。 はじめはじゃんじゃんけなしてください。そのあと生易しくして下さい。時代小説のつもりは無いので時代考証ぶっちぎりです。イメージ全開です。戦闘があればやはり血は流れますが極力残虐にならないようにしたいと思います。 まずはお試しあれ。

 ……そのむすめの死顔は、驚く程に安らかであった。

 亡骸のすぐ側には、只、茫然と立尽くす若い男。むすめよりも幾分幼さの残るその若者は、こめかみが引き吊る程に奥歯を噛み締め、そして、己を責めて居る態。

娘の亡骸に外傷は無い。が、喀血したものとみえるおびただしい血。

 意地ずくに生き抜いた娘は、病であった。

《…間に合わなかった…!》


 宿場町をつい出たばかりの街道である。空は何処までも碧く高く、しかし、暖かな日の昼過ぎに、枝垂桜のその下で娘は息を引き取った。


戻ることも出来た筈だ。


 しばらく自分を待って合流する事も出来た筈だ。


 なのに何故。

「こんな処でッ!」


 見れば、辺りの死骸はいずれも頸筋を一太刀に始末している。その数、十七、八体。なにかを護り、そして娘…ぬえと云っていた…は、病に倒れた。


――――――――


「ねェ、おサムライさん。…もし……もしもわたしがおっんだらサァ…、」


と、向い合せに腰掛けた処で、にやにやしながらぬえは切り出した。


「わたしの荷を開けて、見苦しいもんは捨てておくんなさいな。おんなが行き倒れたあとに恥ィ掻くのァぞっとしないやね」

「なにを云やがる、縁起でもねえ。そんなに死んだ後が拙けれァ、生きてるウチに捨てっちまいな」


と、これもまたにやにやしながら若い浪人…まだ幼さの残る顔立ちである…鮫島七右衛門は応えた。


「…嫌ですよ七右衛門様。生きてるあいだはせいぜい遣いますのサ。」

 ふた月程前に同道する様になってから、幾度か繰り返したやり取りである。しかしその実、七右衛門はぬえの云うところの見苦しいモノが何かは知らない。


 中途半端な侍の、しかも二人目の妾腹の、更に七番目の末っ子に生まれ、憐れな母と貧しさに因る、義理と呼ぶのも不愉快な親族からの理不尽な虐待の末、喧嘩と道場破りに明け暮れて、さむらいなのか野良犬なのか判らぬ暮しをするうちに、ぐれているのも莫加馬鹿しく、せめて納得、合点、得心して野垂れ死にでもなんでもしてやれ、とばかりに出奔したのが十八の秋。二年前の事である。

 武士の気位等は生まれつき持ち得ない育ちのお陰で、ふらふらしながら百姓、猟師、漁師らの手伝いをしては旅を続けている。


 一方、ぬえは、奉公先の武家が断絶したとかで暇を出され、故郷へ帰ろうと思って居たら、彼女は奉公人であるのに、その家に貸し付けた借金とやらの取り立ての為にわざわざ呼び出された高利貸しの屋敷で、主の妾にされかけたところを自らの手で張り倒し、それだけならまだしも、床の間の飾りからなにからをひととおりぶち壊してそのまま用水路の舟で逃げだしてきた程の美貌が災いしてか、故郷へ戻る道すがら似た様な騒動を起こしながらやはり半年近くになると云う。


――色々と偽りであろう。


ただ、そういう事にしておいてくれ、という心情だけは無理のある明るさから汲み取る事が出来た。


 出会ったときはその冗談の様な身の上噺などよりも、十八の齢より不必要に老成してしまった血まみれの、しかしそれでも年頃の、うつくしいむすめが、そこには居たのだから。




《続く》


かわいそうなだけっての嫌なんです。

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