引き込む男
俺は大賀埼竜矢、今年の春からこの駅で働く新米駅員さんだぜ!今をときめくホープな俺は、退勤前のホームの掃除も欠かさないんだぜ!
「やぁ、大賀埼くん精が出るねぇ~」
にこやかに語り掛けてくれるこの人は、俺の上司の上条先輩だぜ!常に優しく微笑んでいて、褒めて伸ばすのがモットーの頼れる先輩なんだぜ!
「上条先輩!お疲れ様です!」
「はっはっは、大賀埼くんは身体が柔らかいんだねぇ。しかしそんな顔と脛がくっつくまで頭を下げなくてもいいんだよ?」
尊敬のあまり前屈レベルのお辞儀をしてしまったんだぜ!そんなおっちょこちょいな俺をいつも褒めてくれて、有り難いんだぜ!
【ドサッ】
ん?すぐ近くから何か音がしたんだぜ。見ると線路に人が落ちてるんだぜッ‼い、急いで助けるんだぜ‼
「待て‼大賀埼‼」
慌ててホームから降りようとした俺を、先輩が止めるんだぜ!強く肩をつかんで、すごい形相なんだぜ!……はっ!そうか!まずは緊急停止ボタンだぜ!
「いや、大賀埼くん、そうじゃない。あれは助けなくていいんだ。あれは生きている人間じゃないからね」
先輩が渋い表情で線路を見ながら言うんだぜ。俺も見ると、落ちた男はいつの間にか血まみれになっていて、恨めしそうな目でこちらを眺めていたんだぜ……
男はしばらく俺達を見つめた後、残念そうに肩を落とすと、ゆっくりと消えていったぜ……
その直後、特急列車が通過したんだぜ。
一つ隣のホームを。
「……ね?助ける必要なかったろう」
「ホントだぜ!さすが上条先輩だぜ!」
先輩は優しく微笑んだんだぜ。めでたしめでたし!