走る人体模型
夜の学校。
とりわけ小学校というのは、幾つになっても怖いものである。
今年晴れて小学校の教師になれた俺は、新米らしく泊まり込みで学校を見回るという面倒くさい仕事を押し付けられていた。
《………タ……タタ…》
廊下から、誰かの足音が聞こえてくる。
「またあいつか…」
俺はため息をつくと、宿舎室のドアを開けた。
「うるさいぞ田中!!」
俺が注意すると、廊下を走っていた人体模型がこちらを向いた。
「あ、里中先生!こんばんは!」
彼、人体模型の田中は、心臓を動かすため日夜こうして校内を走り回っている。
「いや~いい汗かいたぁww汗腺ないけどw」
「元気なのはいいけど、宿舎室の前はコースから外してくれないか?」
俺は額に手をあてつつ訊いてみる。
「駄目ですよww見回りもかねてるんですから!」
田中が《どん》と胸を叩く。叩いた拍子に腎臓が外れ、田中は慌てて拾いあげた。
(…初めてこいつを見たときは怖かったなぁ)
カクカクと人じゃない動きをする田中を見て、しみじみと思い出す。
なにせ見回りの最中に後ろから迫ってきたからな。うん、怖かった。
「ふー危ない危ない、これがないとお酒が飲めなくなるところだった…もとから飲めないんだけどね!」
「うん、あとアルコール分解するのは肝臓な」
今日も田中は元気です。
めでたしめでたしノシ