季節廻る国と四季の女王様
双子の伝説は――実はまだ終わっていなかったのです。
ゾーマ様とエステル様、伝説の双子の娘と同じ名前を持つ2人には、どのような結末が待っているのでしょうか。2人仲良く暮らすことは、できないのでしょうか。
小国セイズーン。そこには4人の王女様がおりました。
王女様はそれぞれ、季節を意味する春、夏、秋、冬と名付けられ、不思議なおまじないを使うことができる王妃様のもとですくすくと成長していかれました。しかし王妃様が3、4人目の娘を産んでから数日後、彼女は突然天に召されてしまったのです。
王妃様が天に召されたその訳は、この国を乗っ取らんとする悪い魔女が王妃様にかけた「死の魔法」でした。王妃様はおまじないを使うことはできても、邪悪な魔法を跳ね返すだけの大きな力は持っていませんでしたので、そのまま倒れて死んでしまったのです。こうして王妃様は天に召されてしまったわけですが、娘たちは王妃様が死んでからもすくすくと成長していかれました。
国を乗っ取らんとする悪い魔女には、次の計画というものがありました。それは、このセイズーンを豊かにする「季節」を奪うことでした。そしてあわよくば、その力を自分のものにしてしまいたかったのでしょう。季節を持つ4人はいつしかその名前の通り、春夏秋冬それぞれの「女王様」と呼ばれるようになっていました。まず魔女は言葉巧みに“春をつれさる悪魔”と春の女王レンテ様を“恋仲”にしてしまったのでした。愛し合う2人は季節から逃げ出してしまいます。
次に魔女は秋の女王エレスト様が、レンテ様を探すために街へおりてきたときを狙っていました。エレスト様を拐かし、この国に暑いだけの夏と寒いだけの冬だけを、もたらそうとしていました。でも、その計画は勇敢な長女、夏の女王ゾーマ様に阻まれてしまうのでした。彼女はお触れを見て、エレスト様と妹のレンテ様を探しに行かれましたし、エレスト様がさらわれてからも、自らその春をつれさる悪魔と話し、春の力を手にしたというではありませんか。使い魔から話を聞いた魔女は、計画が失敗したことに怒り狂いました。それだけではありません、ゾーマ様は王妃様よりも大きな力を持っていましたので、季節を穏やかにするまじないをいとも簡単に、使えるようになってしまったのです。魔女もそんな大きな力を持つ彼女を、殺せるような魔法は使えないのでした。
これは魔女にとってそれはそれは大きな“誤算”でした。これでは季節が廻らなくなって困ることもなく、いつかは春の力も秋も、冬の力も手に入れて、まじないができる夏の女王レンテ様こそが、この国の王になってしまうのですから。だから魔女は、残していた切り札を使うことにしました。夏の女王様は大変優秀なお姉さまで、双子の妹であるエレスト様が、それを羨んでいたことを、知っていたからです。
アリフは呪術師様から聞いた、街はずれの湖に向かっていました。呪術師様は全てを知っておられます、アリフに彼女はこう言いました。
「あなたが夏の女王を愛していることはよくわかっています。あなたは彼女を支えることができる大きな男。あのお触れは、あなたが夏の女王と添い遂げるために存在するのです」
「でも呪術師様、俺はそんな」
「もちろん、あなたのためだけではありません。すべては私のせいなのです。全てを取り戻さなければならないだけなのです。わがままな私を、どうか許してください」
アリフはゾーマ様と添い遂げるだなんて恐れ多いことだと言いましたが、呪術師様はこう続けられました。呪術師様の失敗とは、一体何だったのでしょうか。アリフは不思議に思いながらも、“きょうよう”のない自分にはわからないことなのだと思い、呪術師様の言うとおりにしていました。
湖に着くと、そこにはゾーマ様そっくりの娘がいました。双子のエレスト様です。長く赤い髪は湖の中で揺れていました。微笑むエレスト様を見ているうちにゾーマ様を思い出したアリフは、燃え盛る石炭のように顔を真っ赤にしました。
「あなたは誰ですか。私の姉はどこですか」
「俺はあなたのお姉さま、ゾーマ様の従者で」
「姉はどこですか」
「ゾーマ様は塔の中にいて出てこれないんで」
「あなたは何をしに来たの」
「あなたを連れ戻しに来たんで」
「本当に、そう?」
「もちろんで」
エレスト様はアリフに近づき、美しいほほえみで“魅了”しようとしました。
「エレスト様、俺はあなたを何とも思わないんで」
「あら、どうして?私は姉と同じ顔なのに」
同じ顔、同じような姿をしていれば、エレスト様はゾーマ様そっくりでした。でもアリフはさっきまで石炭のように赤くしていた顔を、更に赤くして怒りだしてしまいました。
「ゾーマ様は俺たちの手を握り、ぽかぽかにしてくれる。心の優しい、あったかい女王様だ。お前のこの手は湖の底のように冷たく、優しくないんで。俺の女王様はずっとゾーマ様だけでね」
「姉がうらやましいわ」
小さく呟いたエレスト様の周りに、魔女のしるしである使い魔がやってきました。アリフは既に、こんな小さな魔物よりもずっと大きくて強い「春をつれさる悪魔」と闘っていましたから、魔物に負けることはありません。するとエレスト様は魔女のような老婆に姿を変え、険しい顔でアリフを睨み付けたのでした。
「エレスト様、一体どうしてそんなお姿になっちまったもんで」
「エレストはもうおらんよ」
「あなたが邪悪な魔女ですか」
「人はそう呼ぶ」
声はしゃがれており、エレスト様はもういないと聞くとアリフは魔女に向かっていきました。魔女と言っても主のゾーマ様にとって大切なエレスト様。でも今目の前にいるのは邪悪な魔女なのですから、そんな魔女は殺さなければなりません。呪術師様からもらっていた銀色の長剣を、アリフはその魔女の心臓に深く深く突き刺しました。
魔女は酷く耳鳴りするような叫び声をあげ、消えていきました。
そして魔女が消えたと同時に、呪術師様がアリフの前に姿を現しました。
「アリフ、どうもありがとう、これであなたは英雄になれた。王様はあなたの願いをかなえてくれるでしょう。私はこれでやっと、愛する人が待つところに行けます」
「俺にはさっぱり分からねぇんだ、なんせ“きょうよう”がないからな」
「どうか、この水をあなたの大切な女王様にお渡しください。その水があれば、もう塔に入る必要はありません。春も、夏も、秋も、冬も。全てゾーマ様が、力を得ることができるのです」
そう言うなり、呪術師様は先ほど魔女を突き刺した長い銀の剣で、自分の心臓を突き刺してしまわれました。すると、若い娘の様な“いでたち”をしていた彼女は、さきほどの魔女の様な老婆になって消えてしまいました。
アリフは訳が分かりません。長い剣と呪術師様からもらった水の入った瓶を持ち、まずは主のもとに戻ります。ゾーマ様はアリフがいなくなってから、5回ほど月と挨拶をし太陽に祈っていましたので、アリフが帰ると涙をこぼして喜びました。
「本当にさっぱり俺にはわからねぇ。魔女もそうだが、呪術師様は一体どこに消えてしまったんで」
「アリフ、あなたにはわからなくても良いことがあるのかもしれません」
「それはどういう意味で?」
「これは双子にしかわからない、とても難しい心なのです」
アリフは結局、何もわかりません。でも、魔女と呪術師様が消えてしまった後には、秋の力を失ったエレスト様が倒れていました。エレスト様を背負って城に戻れば、ちょうど同じくらいにウィンテール様が倒れてしまったそうでした。太陽と月が空を交替される様子を見ていたウィンテール様は、自分の冬の力がごっそりいなくなってしまったことに気が付きます。アリフはその自分の見たまま聞いたままを、全部ゾーマ様に話しました。
「双子の伝説がやっと終わったのです」
ゾーマ様は双子の伝説の話を知ってから見せなかった笑顔を見せてくれたのでした。アリフはまた、燃え盛る石炭のように顔を真っ赤にし、かっか、かっかと笑いました。
そのあとはどうなったか、ですか?
ゾーマ様は全ての季節の力を手に入れました。おまじないを使うこともできますし悪い魔女ももういませんから、ゾーマ様はもう塔に入る必要はありません。おまじないで「冬ののろい」も解かれたウィンテール様は小国セイズーンの左横にある、大きな国の王子様のお妃さまになりました。エステル様は魔女になりましたが、2度と悪意のある魔法は使わないと誓い、人を助ける呪術師になりました。春のレンテ様は今でもあの悪魔と、遠い山の上で静かに暮らしているそうです。
アリフは王様から褒美として願いを1つ叶えてもらうことになりました。
「こうして、季節廻る国には平和が訪れ、1人の四季の女王様が誕生したのでした」
「ねぇお母さま、お父さまは“きょうよう”がないのに、どうしてお母さまと結婚できたの?」
「それはね」
お母さまは、【私】の髪をそっと撫でてから、こう言いました。
「“きょうよう”がなくたって、誰かのために一生懸命になれる。そんな、心も体も大きい人だったからなのですよ」
今日も、季節廻る国「セイズーン」は四季の女王様、その旦那様、そして可愛らしいお姫様がお城でいつまでも笑っていらっしゃるのでした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今日(1/16)が冬童話の締め切りということを失念しておりました。
そして、作者本人はこの結末に満足しておりません…が、とりあえず完結とさせていただきます。
また後日、本篇で全て明かしきれていないために「?」状態になっている読者様がいるかもしれませんので、整理されたこの物語の全てと、番外編で春と冬の双子様たちのお話を掲載させていただきますので、もう少しお付き合いいただければと思います。