王様の第二のお触れ
双子様の物語はもう少しでおしまいです。
双子様――春と冬の女王様たちは、互いの苦しみを一番理解できる立場にいたのにも関わらず、もう2度と再会することはありません。偉大な双子の伝説に残らない、双子様となってしまいました。
そしてもう1組の双子様――夏と秋の女王様たちは、かつての悲しい双子の娘の物語にならぬよう、互いに思いやりを持たなければ、偉大なことはもう誰にも成しえないのです。
もうすぐ夏が終わり、ゾーマ様が塔からでてくるという噂が流れ始めました。いつもよりも長い夏を持っていたセイズーンですが、そんなある日、王様からお触れが出されました。
王様は朝一番で兵隊に命じ、塔の前にお触れを出したのです。それはとても“いれい”のけつだんでしたが、王様が間違えるはずがないと、人々はそのお触れを読んで驚いても“いけん”を言うことはありませんでした。
【秋の女王エレストは、魔女と契約をしたことが分かった。魔女と契約したエレストもまた魔女。エレストを捕らえた者には褒美として、どんな願いも1つ叶えることとする】
塔の小窓からは、黄色のお髪が短くさっぱりとされたゾーマ様が、悲しそうにお触れを見ています。アリフもいつものような元気はありません。それだけではありません、アリフの周りには、城からやってきた多くの兵隊が、ゾーマ様を守るように立っていました。もうゾーマ様を守るのはアリフと、少しだけの兵隊ではありません。
ゾーマ様は王妃様のお部屋からたくさんの御本をアリフに持ってきてもらい、王妃様が残していた“まじない”の勉強をしていました。そして夏の季節を春のように穏やかにするまじないや、秋のように涼やかにするまじないを見つけ、この長い夏の間に豊かな実りや人々が困らぬよう、まじないをかけていらしたのです。呪術師様も、とても勉強熱心なゾーマ様をよく褒めてくださいましたし、ゾーマ様のおかげでこの小さなセイズーンという国は救われたのだと、人は口々にそう言いました。
王妃様のようにまじないができる女王様は今までいませんでした。でもそのまじないができるようになった今、ゾーマ様は特別な存在として、その命を狙われてしまう恐れがありました。だからもう、ゾーマ様を守る兵隊は、王様自らが選んだ“精鋭”たちで、馬も乗りこなし剣も達者な強い男たちになっていました。
「ゾーマ様、ゾ―マ様」
お触れが出されたその夜、塔の周りには兵隊が隙間なく立っていました。アリフは兵隊の輪の外から、羊飼いのよく通る大きな声でゾーマ様を呼びました。歌っていらしたゾーマ様は小窓から顔を出し、アリフの言葉に耳を傾けました。
「ゾーマ様、俺の大切な女王様。俺は今日限りでゾーマ様の“護衛”の役目をやめさせていただくんで」
「まぁ、それは一体どういうことなの?」
ゾーマ様が今一番信頼している従者はこのアリフなのです。輪になり取り囲んでいた兵隊も驚いて、アリフに詰め寄りました。するとアリフは大きな体を反らして、大きな拳で胸元をどんっと叩いたのです。
「このアリフ、ゾーマ様のためにエレスト様に会いにいくんで。だから護衛の役目を、少しの間やめさせていただきたいのです」
「わかったわ、アリフ。でも絶対にまた私のもとに帰ってきてくださいね」
「女王様、そりゃもちろんです。地獄の針で体中を突かれ、凍った湖の周りで飲まず食わずで生きろと言われても、女王様のためなら戻ってくるもんです」
「そんな悲しいことは言わないで、アリフ」
「あぁ、やっぱり心優しい女王様にはお辛い言葉で」
こうしてアリフは、エレスト様を探す旅に出ていきました。
しばらくして、ゾーマ様は少し前に春の悪魔から聞かされた「春のまじない」を試しました。呪術師様に見守ってもらいながら、夏の女王様は春の女王、レンテ様の涙を口にして春の力を手に入れたのでした。
次回で完結です。次回は通常の話よりも長くなります。