季節廻る国と双子の伝説
ところで、この季節廻る国には古い伝説がありました。長い間誰も話さなかったので、小さい子どもたちはその話を知りませんでしたし、若者は聞いたこともありません。年老いた女たちが、糸紬の合間に手伝いに来る娘たちにだけ話していたことなので、この話を知っている人はわずかでした。この伝説は「双子」にまつわるお話だったのです。そう、まるで夏の女王ゾーマ様と、秋の女王エステル様のような、双子のお話でした。
呪術師様もお供となったゾーマ様の旅は、城に戻る、という報せが王様に届いたとき、終わったのかと思われました。季節は夏の日がカンカンに照るはずの時期でしたので、城に戻られたゾーマ様は真っ先に塔の中に入られました。
冬の女王、ウィンテール様はこうして季節の塔からお出になられました。国中は幸せに包まれ、急にやってきた温かい、暑い季節に、多くの人は慌てて田植えの準備を始めるのでした。
ウィンテール様は塔からお出になるとき、姉であるゾーマ様に尋ねました。
「お姉さまはどうしてお帰りになられたのですか」
ウィンテール様はてっきり、春の女王レンテ様が戻ってくるとばかり思っていたのです。ゾーマ様は彼女の旅がどのようなもので、レンテ様がどうして城に帰りたくなかったのかを伝えました。
「あぁ、わたくしは一体どれだけ罪深いことをレンテにしてしまったのでしょうか」
ウィンテール様もレンテ様も、季節を持つ娘として苦しんでいたのです。しかしウィンテール様は自らの苦しみばかりにとらわれてしまっていたので、レンテ様も持っておられた苦しみなど、知らなかったのです。長い冬の間、自分の涙が吹雪をもたらすと我慢していたウィンテール様の目からは、涙が幾粒も流れ、塔の中は氷漬けになってしまいました。
「あぁ……ごめんなさいゾーマお姉さま、私、私」
「いいのです」
ゾーマ様は、季節を持つ娘として、そして一番上の姉として、塔の中のことや季節の魔法についてもよく知っておられました。季節の娘は城の中にいれば穏やかに過ごせますが、塔の中では少しでも悲しみをこぼすと塔の外の、国の季節を狂わせてしまうのです。だから、いつも女王様たちは“緊張感”をもって過ごされていました。
ゾーマ様は夏の力で、ゆっくりと塔の中の氷を溶かして、ウィンテール様は城にお戻りになられました。こうして、ゾーマ様は塔の中に入られ、季節廻る国に夏がやってきました。春のない夏は今までありませんでしたが、長い長い冬から解放された国の人々は口々にゾーマ様をほめたたえました。
しかしその“賛美”は、ゾーマ様にとって心苦しいものでした。
春のレンテ様を連れ戻すというお触れの約束は守れなかったのですから。
そしてまだ、秋のエレスト様は見つかっていないのですから、次の季節は廻って来ないことを知っているので、ゾーマ様はなおさら心苦しく思われました。
ある夜。やっと月が顔を出され、夜の星が輝き始めたころ。ゾーマ様は小窓から、塔の下に立つアリフに声をかけました。それはきれいなきれいな歌声でした。アリフを呼ぶためにゾーマ様は羊飼いたちしか知らない、呼びかけの歌を歌ったのです。
羊飼いだったアリフは、ゾーマ様に生涯仕えると誓いました。そして羊飼いでしたから、耳はとても良いので、すぐにその歌を聞いて塔の下にやってきます。ゾーマ様は小さな声で歌を歌った後、小さな小さな声で、アリフに頼みごとをしました。
「ねぇアリフ、あなたは私のために何ができるの」
「女王様、そりゃもちろんなんでもです。地獄の火で焼かれ、干上がった湖の周りで飲まず食わずで生きろと言われても、女王様のためならできるってもんで」
「そんな悲しいことは言わないで、アリフ」
「あぁ、心優しい女王様にはお辛いことでした、申し訳ないことを言ってしまったもんで」
ゾーマ様は、アリフに呪術師様に手紙を渡すよう頼みました。それから、王妃様のお部屋へ行き、「双子」の伝説の話を探すように伝えました。
「女王様の頼みならば、すぐにでも」
夜は生き物も人も皆寝てしまっています。でもアリフだけはその目を爛々と光らせて、呪術師様のもとへ手紙を届け、女王様に頼まれたからと言ってお城に入りました。そして太陽が月と交替され、顔を出したときには、塔に戻ってきていました。
「女王様、女王様。朝は早いが起きてくだされ。失礼なのはわかっているが、女王様、そりゃお急ぎになられていたから急いでもってきたんで」
目を覚ましたゾーマ様は喜ばれ、とてもきれいに笑ったので、アリフはまた、燃え盛る石炭のように顔を赤くしました。その日はゾーマ様がとても喜ばれたので、青い空で温かく太陽が見守ってくれるとても天気の良い一日になりましたので、人々もとても喜びました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次の更新は今週中にと思いますが未定です。ただ、12月25日のクリスマスまでには完結させる予定です。