夏の女王様のお髪
夏の女王様のお髪は大変きれいです。塔の中で、毎日やることがなくなると、きれいな夏の景色を見て、ゆっくりゆっくり髪を梳くからです。夏の湖が大好きな女王様は、たとえ自分が塔の中で、夏の湖に足をつけることができなくても、それをする子どもの姿を、塔の小窓から見ているのです。そして子どもの笑顔を見て、自分が夏を持って来られてよかったと、それはうれしくなって髪を梳くのです。
ゾーマ様は本当に明るく大きな口を開けて笑われました。すると森の木も、今にも氷漬けになりそうに弱っていましたが、もう少し負けないぞ、と葉から雪をふるいおとしました。暖炉の炎もかっかかっか、と嬉しそうに踊ります。人はみな、ゾーマ様の美しさにほれ込んでしまいました。
特に従者となったアリフはゾーマ様の太陽の心にあたためられて、かっか、かっかしていました。それはもう、周りの人々が燃え盛る石炭のようだ!と驚くくらいに、顔が赤くなっていたのでした。
村の中に笑顔がもどったとき、白い髪の美しい娘が現れました。ゾーマ様は悪い魔女にそっくりな顔だちをした娘を見て、途端に懐刀、を取り出しました。しかし村の人はこちらは呪術師さまでございます、と娘さんをゾーマ様に紹介したのでした。
「お目にかかるのは、これで2度目でございますね、夏の女王、ゾーマ様」
そしてゾーマ様は、初めて、この若い娘のような彼女がすでに数百年も生きているご長寿であること、そしてゾーマ様と双子の妹、エステル様が生まれたときに「おまじない」をしたものであることを知りました。
ゾーマ様は早速呪術師に、魔女の居場所と妹の居場所をたずねました。
「呪術師さま、どうか私の“片割れ”をお探しください。そしてこの国を操らんとする悪い魔女の居場所を、この私に教えてくださいませ」
「ゾーマ様、たとえあなたが季節の女王だとしても、“代償”がなければなりません」
呪術というのは厄介なもので、誰かの“ため”になる術はどれも、その術を完成させるために、何か大切なものを差し出さなければならないのです。反対に、悪い魔女が使う魔術というものは便利なもので、誰かを傷つける術はどれも、たった一言さえ言ってしまえば完成するのです。
ゾーマ様は今まで従者アリフの前でも外さなかった頭巾を取り、肩まであった髪を、刀で切りました。呪術師は、その髪を受け取りました。
「私の髪の毛は、長い間、塔の中で何度も何度も梳いておりました。私には夏の力があるように、私の髪にもそのかけらが残っているかもしれません。どうか、これは大切なものといえないのでしょうか」
「大切なもの、そうでございましょう。あなたのきれいな心がこもっておりますもの」
「もちろんですとも、もちろん、大切です。そうですとも、女王様のきれいな御髪を、あぁ、なんてこった」
従者のアリフはその大きなクマのような体を横にゆすって、なんて可哀想な女王様だ、と女王様を抱え上げ、膝にのせて泣きました。髪がみじかくなられたゾーマ様は小さな美しい少年のようで、アリフはますます彼女を不憫に思いました。大きなクマのような男が小さな夏の女王様を膝にのせて泣く姿を見ると、なぜだか村の人たちもとたんに悲しくなって、みな泣きました。
「あぁ、女は皆髪を大事に伸ばすもんだ!そんな女の宝を差し出しになられた夏の女王様の心に、答えないとしたらこの世には神様なんていやしないんだ」
「私たちに太陽のあたたかい力をくれた女王様を、苦しめる輩は早く出てこい」
呪術師様は、“しんせい”な水鏡から、秋の女王様の居場所と、魔女の居場所を探し出しました。そして彼女は言ったのです。
「ゾーマ様、あなたはまずその足で城に戻らなければなりません。えぇ、まずは戻らなければすべては見られないでしょう」
呪術師様は、秋の女王様を救いに行く旅のお供になることにしました。呪術師様はしんせいな水鏡の中に見たできごとを、ゾーマ様には伝えませんでした。それはゾーマ様にとって、本当に本当にお辛いことだったからです。
次の更新はしばらく空きます、すみません。改稿作業ほか、折り返し地点を過ぎましたこの作品の構成を再考するために時間をいただきます。1週間後15日に、別作品「シロエとクマ」と同時刻に更新予定です。
※物語に矛盾が生じる可能性があるため、一部表現を追記しました。特に物語の大筋を変える変更ではありません。また、感想にて指摘をいただきました誤字を訂正いたしました(12月8日)
※再度誤字を訂正しました、予定通り次回更新は15日のままです(12月12日)




