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持たざる万能魔導陣師  作者: 水戸 松平
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ウィッチの秘密そして再び 1

「起きなさい」


 まどろみの中、聞き覚えのある声が僕を呼んでいる。


「早く起きなさい」


 うるさいなぁと思いながらもう少しだけと思い更にまどろみの奥深くへと行こうとした時、突然サラの顔を思い出し勢いよく起き上がる。


「サラ!」


 瞼がまだしっかりと開かないが、僕は周りを急いで確認しサラの存在を認識しようとした。

 が、そこにあるのは母の姿だった。


「サラちゃん!? どこ? どこ!?」


 母は未だにサラにご執心だ。母の探知能力にも引っかからない事を見ると図書館にもうサラが居ないという事を強く実感させられる。


「いや....サラならもう帰ったよ。母ちゃんによろしくって言ってた」


 実際には言ってないが、もう一度会いたいとは言ってたし良いよね。とは思ったものの、その言葉も何もかもが全て夢だったんじゃないかと思うほど非日常な出会いに混乱しかけていたが、服の中に隠し持った論文の紙の手触りがそのエルフの少女との出来事を証明してくれたおかげで、夢では無かったんだと強く感じさせてくれた。


  ◯


 比呂彦達は図書館を後にした。

 館外に出てもそこには大自然が広がっていた。

 建物は植物と一体化したものや植物そのものが建物になっているものもある。

 人間が迷うと二度と戻る事ができないと言われているため、寄り道せずに帰る事となる。


 人が長距離の移動に使う手段に蒸気汽関車がある。全種族の中の物好きが集まって人間種でも利用できるようにと言う建前で、原始的な蒸気を利用した乗り物を復活させた。蒸気機関車はとても大好評で人間以外の種族の利用も多く、ヤマトにおいて観光名物の一つになっている。


「最後にサラちゃんを一目見ておきたかったわ。本当残念ね」


「まだ言ってるの? でもまた図書館に行けば会えるかもよ? だからさ、もっと沢山図書館行こうよ!」


 そうね〜

 と母はサラの事を思い出しているのかニヤニヤしている。


「まあ、そんなに沢山行けるわけじゃないけどもう少し頻度を上げましょうか」


 僕は心の中でガッツポーズをして、初めてサラに感謝した。


 ヤマトまでの約2時間の間、流れる風景を見るだけとなった僕は、蒸気機館車のガタンガタンと一定のリズムを刻む振動に心地よさを覚え、再び夢の世界へと誘われた。


  ◯


「ごちそうさま!」


 夕食を終えた僕は自身の食器を流し台に持って行った後、駆け足で階段を駆け上り自分の部屋に向かった。


 自室に閉じ籠ると、入って右奥にあるベッドにダイブして枕の下に隠しておいた論文を取り出し、寝転びながら上に掲げて眺めた。


「サラにまた会えるのかな...」


 天井の光を眩しく思い、論文で光を遮る。あれだけ大変な目に会ったにもかかわらず、また会いたいと思えるほどサラは魅力的な雰囲気をかもし出していた。

 そして僕は、この論文で魔法を習得する事がサラに再び会える事に繋がるはずだと強く思い、眠気に食われるまで論文を読み込んだ。


  ◯


「比呂。おい比呂。遅れるぞ。起きろ」


 言葉は穏やかだが、穏やかではない衝撃が横腹に突き刺さる。


「がはぁ...!?」


「な、なに!? 何が起こったの!?」


「何も起こってはいない。まあ、私は朝からお前を起こしに来させられて怒っているがな」


 淡々と低い声で話すこの女性は姉の八陣 美里(みさと)だ。艶のある黒髪に禍々とした黒い瞳を持つ日に焼けた肌を持つ。姉は自慢の綺麗な長い髪をポニーテールで決めて、服装もしっかりと着替えて学校に行く準備は万端だ。


「早く起きろ。私はもう行くからな。遅れても知らないぞ」


 そう言うと美里はドアを閉めずに僕の部屋をあっけなく出て行った。


 昨日、正確には今日の深夜遅くまで起きていたので全く寝た気がしない。体にだるさは残るが、開けられたドアの感じにイジらしさを覚えたので仕方なしに起きる事にした。


 「比呂彦、電気付けっ放しで寝てたでしょう。お姉ちゃん言ってたわよ。電気代もったいないんだからしっかり消して眠りなさい」


 階段を降りてリビングに行くと朝から母に叱られる。比呂彦が「わかってるよ」と少し強めに言うと母の癇に障ったのかお説教タイムの前兆となる余波を感じた。ヤバイ雰囲気を感じ取った為、そそくさと歯を磨きに洗面場へと急いだ。


  ◯


「じゃあ行くねー」


 学校に行く準備が出来た僕は、颯爽と家を飛び出し慣れ親しんだ登校路を歩んだ。

 美里には「遅れるぞ」と言われたが、時間的には全く問題なく、美里が部活動の朝練のせいで異常に早いだけだ。


「よー! 比呂彦。おはよー」


「比呂彦くんおはよう」


「「八陣くんおはようございます」」


 登校路を歩いていけば勿論同じ学校の人達も徐々に増えていく。

 後ろから現れた比呂彦に築いたクラスメイト達が挨拶をかけてくる。


「おはよう。みんな」


「おはよう比呂! なに? 寝不足? 元気ないよ!」


 元気良く挨拶した後、活発な男の子のフィニー=アーガストが比呂彦の背中を叩いてくる。

 フィニーは比呂彦の背中を叩いた後、持前の運動神経で走り去っていった。


「うはは! じゃあな!」


「ちょっと! ひどいじゃない! 比呂彦くんも何か言ってやりなよ!」


 肩甲骨を覆い隠す程伸びたロングヘアを振り乱して、アメリア=クロークが比呂彦の代わりにフィニーに怒ってくれている。

 

 アメリアは黙って何も言わない比呂彦に矛先を変え、「男らしくない!」と叱咤する。


「八陣くんは優しいんだよ。だから怒らないであげて」


 比呂彦をアメリアからの口撃から守ってくれたのは、クラスでもしっかりとした常識を持つ少し大人びた感じの女の子の宮野腰 雅(みやのこし みやび)だ。


「優しいだけじゃ男の人はいけないんです。みや姉さん」


 優しい声で厳しく物申す女の子は宮野腰 嫋(みやのこし たお)、雅の双子の妹だ。嫋は姿形こそ雅と何一つ変わらないが、その言葉は刺々しい。


「確かにそうですけど。でも今のは八陣くんは何も悪くないです。悪いのは橋立くんです。教室で説教すべきです」


「いやいや、そんな事しなくてもいいよ!フィニーはいつもああでしょ。いつも構っていると疲れちゃうよ」


「あら、大人な発言ですね」


「あんたがそれでいいならいいけど、男なら時にはバシッと言わないといけない時もあるのよ」

「じゃっ! 私先に行くから」


 アメリアは比呂彦に一言苦言を呈した後、その長い髪をなびかせながら歩くスピードを速めて先に行った。


「私達は歩くのが遅いので八陣くんは先に行ってください」


「そうよ。みや姉さんとの登校時間を邪魔しないでよね」


 雅が頑張って場を和ませようと笑顔を作り出すが、嫋の僕に対する嫌悪感の強い視線を消す事はできなかった。


「じゃあ先に行くよ。また教室で」


「「はい、また教室で」」


 言葉は同じだが、異なる感情の籠った言葉を背に受けて二人を後にした。

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