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持たざる万能魔導陣師  作者: 水戸 松平
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小さなエルフと魔導陣師への誘い 5

「ンフフとても面白いお母様をお持ちになっているのね」


 サラはとても上機嫌だ。


「私の手を握って離さなかったわ! まあ、作法はなってないけれど私が相手じゃ仕方がないわね」


 サラはとても上機嫌だ。


「ンフフまた会いたいわね。帰りにもう一度挨拶しようかしら」


 サラはとても上機嫌だ。が、それはとても危ないので


「ダメだよ! また周りの人たちに迷惑かけちゃうよ!」


「ん〜。どうしようかしら」


 満面の笑みが絶望を助長させる。どうにか気を逸らそうと話を扉の話に戻した。


「でさ! 扉はどうだったの? 何か見つかった?」


「そうよ!いい作戦を思いついたのよ! ンフフ名付けて『プロヴォークアンドウェイ』PW作戦よ」


 思った以上に食いつきが良い事に安堵し話を促した。


「ぷろぼーく? 僕はなにをすればいいの?」


「ンフフやる気十分ね。 その名の通り、挑発して逃げるそれだけでいいわ」


「え。もしかして!」


 最悪の想像が頭をよぎり、それをまるで比呂彦の心を読んだような言葉がサラの口から放たれる。


「そうよ! あのドワーフを挑発して扉の前まで逃げる。そして殴ってきた所をあなたが避けて代わりに扉を粉砕してもらうのよ。で、色々騒がしい内に内部調査してしまおうという事よ」


「避けられなかったらどうするの!?」


「それはもう扉があなたの頭に変わるだけよ。さあ、早速行きましょ♪」


 有無を言わせぬ強引さに負け、さっきより少しひんやりとした感触に比呂彦の右腕は引っ張られていった。


  ◯


(扉の話に戻すんじゃなかった!)


 3分前の自分を殴ってやりたい。前門には気の立っているドワーフ、後門には悪戯大好きなエルフという史上最悪の状況だ。


「なんでもいいから相手を怒らせなさい。さっきのお返しに蹴りの一発でもお見舞いすればいいのよ」


 サラは無責任な事を....。仕返しに思った事を口にした。


「サラって無責任な事をサラッと言うよね」


 轟沈したエルフの少女を後にして、比呂彦はドワーフに蹴りを入れる覚悟をした。


「おい! そこのお前!」


 ドワーフはあの騒動の後、地下3階のウォータータンクが近くに置いてある机に陣取っていた。 

 比呂彦は机に座って静かに水を飲んでいるドワーフを人差し指で差し、覚悟を決めて大声でドワーフに吹っ掛けた。しかし、よく見てみるとドワーフは意気消沈している様子で反応は薄く、こちらを見た後また水を啜り始めた。


「......」


 大声を出した後に異様に静かになったので声が出しにくい状況になってしまった。

 とっさに後ろを見るが、未だエルフの少女はうずくまったまま動きそうもない。


(こうなったらやるしかない)


 腹を括った僕はドワーフに近づいていき蹴る箇所を見定めながら狙いをつける。


(すごい筋肉だ! 僕が蹴った所で何の意味もなさそう)


 ゴツゴツとした筋肉に見惚れて触りそうになる衝動を抑えながら近づいていき、途中で何かが足に当たった。


(ん? なんだ? 斧? なんでこんな所に斧が置いてあるの? このドワーフのおじさんが持ち込んだの? 斧なんか図書館に持ち込んでいいの?)


 比呂彦はその異様に磨かれてピカピカな片斧を手に取り


(でもこれならあのドワーフにも一撃入れられるかも。刃は危ないから反対側で殴れば大丈夫だよね)


 片斧を無造作に持ち上げ


 そして


 体勢を崩した。


 ドス


 鈍い音がし、僕が目を開けてみると背中に片斧の刃が刺さったドワーフが机にうつ伏せに倒れている。血は滲むだけで流れてなく、うめき声が図書館中に響き渡った。


「う" か" あ" あ" あ" あ" ぁ ぁ ぁ ーーーーーーーーーー!!!」


 比呂彦は恐怖で足に力が入らなくなりその場で尻餅をつく。その瞬間ドワーフが立ち上がりその反動で片斧も外れ地面に落ちた。


「このガキィ!! なにしとんじゃーー!!」


胸ぐらを掴まれ持ち上げられたが、痛みに怯み手から落とされた。


「ぐぇ!」


 逃げる隙が出来たが足がすくんで全く動けない。そもそも逃げていいのかもわからない。パニック状態である。そうしている内にドワーフの踏みつけが襲ってくる。ドワーフの足の裏を見上げ、どうする事も出来ない状況の中、左腕が身に覚えのある感触に掴まれ、幼いが凛とした声に導かれた。


「コッチよ!」


 瞬間、彼女がいなければ僕がいたであろう場所にドワーフの強烈な踏みつけが炸裂していた。窮地は脱したものの罪悪感から全く逃げる気になれない僕に気づいたエルフの少女は


「何? 気にしてるの? 大丈夫よ。ああいう刃物は入館時にちゃんとプロテクトされてるから、切れ味は全くないわ。でも、ま、あの重さの斧なら骨はいってるかもね」


「何にしてもグッジョブよ。これ以上ない戦果だわ」


 罪悪感どころか楽しんでいる彼女にエルフの怖さを感じた僕だが、逆にリサを頼もしく思い足取りが少し軽くなった。

 

 僕は転げ落ちそうになりながら階段を降りた後サラと別れて扉へと向かった。扉の前にドワーフの男を連れて来るまでが僕の役目だ。その後の事はサラがなんとかしてくれる。そう思えるほどに今のサラは頼もしい存在だ。


「待てコ"ラ"ーー!! クソガキーー!!!」


 ドワーフが上から僕の居場所を見つけ追いかける。しかし、ドワーフは平均身長が他種族に比べ半分に満たない。ゆえに足も短く、移動速度が極端に低い。サラはそんなドワーフが、扉に着く前に図書員に捕まる事を防ぐ役割だ。


「あっ!」パタリ


「ごめんなさい。すごい恐ろしい方が追ってくるの! 怖い! 助けて!」ギュッ


「了解しました。対象のドワーフは既に補足しております。状況的にあなたはもう安全と判断できます」


「いやぁー! 怖い! 助けて!」ギュッ


という具合である。


そう、エルフの少女はとても上機嫌であった。


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