小さなエルフと魔導陣師への誘い 4
「サラってすごくサラサラしてるね」
非常事態ではあるがそのおかげで初めてサラに触れる事ができ、その感触に衝撃を受けてしまい思いつくまま言葉を発していた。
図書員に感知される前に最下階に降りる事が出来た事で少し歩みを緩めたリサは突然止まり。
「サラがサラサラ....サラだからサラサラ......んふ..んふふふ」
エルフの少女は突然顔を両手で覆い隠し、プルプル震えている。そして、それが収まるのに長い時を要した。
「...ふぅ。なかなかやるわね。.....んふ。さすが....私の弟子よ」
キリッとした端整な顔をしているが言動がやや不安定である。どうやらダジャレに対して極端に弱いようだ。
「それはそうとして!」
声を大きく出せない代わりに空中に正拳突きをして気を引き締める。
「これはチャンスよ。今、図書員の注意は私達に向いてないわ。なぜなら、私達が待機を警告されたのにも関わらずここまで移動できたのが証拠よ。これは推測だけどね」
サラは右の人差し指を自身の眼前に力強く掲げ、その自身に満ちた透き通る群青色の瞳をより一層輝かせ言葉を放った。
「魔導人形がある一定以上の能力を持てない事はさっき話したわよね。しかし、図書員の魔導人形は高いサーチ能力を持っている。という事は、その高い能力を発揮するためにある特定の事を破棄している筈よ。多分それはまだ魔法をうまく使えないであろう者、もしくはとある事情で魔法を使えなくなってしまった者を対象外にする事で容量を確保していると推測できない?」
「確かにそうかもしれないけど、扉の警備は逆に強くなったんじゃないの?」
「物は試しよ。まだ扉の警備が強くなったというのは根拠のない推測でしかないわ」
サラはそう言い放つと、また僕の左腕にサラサラとした感触が伝わってきた。
◯
サラは扉に手を添えブツブツと念仏のように何かを唱えている。どうやらサラの予想は的中したようで、サラの奇怪な行動に対して反応を示す図書員は誰一人いない。
話し掛けられる雰囲気ではない状態で少し退屈していた事もあり、母の事を思い出し少しだけならと思いサラの元を離れ母を捜す事にした。
「大丈夫かな。でも魔法使えないから大丈夫だよね」
母がいつも居る定位置に向かい、無事このような時にもいつものように手芸に励んでいる母を見つけ声をかけようとした瞬間
「どうなっとるんじゃー!! はよう外に出せ!!」
聞き覚えのある怒声に頭の疼きを思い出す。
「ワシの検査がもう終わったんならはよ帰らせてくれや!! 仕事があるんじゃ!!!」
「いいえ。それはできません。全ての異常を確認するまでは誰一人ここを出る事はできません。他のお客様の迷惑になりますのでお静かに席にお座りください」
感情がプログラムされていない図書員の魔導人形は冷静、冷徹とも言えるプログラムされた音声でドワーフの男に注意を喚起する。
「なんだとぉ!!!」
淡々とした口調に、更に逆上して顔が真っ赤に変化させ腕を振り上げたが、ギリギリの所で動きを止め明後日の方に空振りさせた。そして、近くにある椅子を蹴り飛ばした後奥に消えていった。
「大丈夫だった?」
さっき頭を殴られたドワーフの姿を見て、トラウマとなりかけている出来事をフラッシュバックして硬直していた僕の耳に母の声流れてきた。
「え..あ...うん。元気だよ!」
頭をさすりながらなんとか笑顔を作り出し、母がいつもどうりな事に安堵した。
「目が腫れてるわよ! 何かあったの?」
自然と笑顔が固まりこれ以上ボロが出ないように後ろを向いて言い訳を考え放った。
「あ、いやこれは...そう! 頭をぶつけたの! ちょっと余所見をして歩いてたから」
言葉を放った後、前を見ると物言いたげなエルフの少女が待ち構えていた。
「ウェリージェンヌ! そのお方はあなたのお母様?」
100点満点のしかし今の僕なら悪い予感しかしない笑みを浮かべて、母の前では恥ずかしいお約束になりつつあるやり取りを催促してくる。
(恥ずかしいけど、最初の否定する所だけなら問題ないよね)
妥協点を見つけ言葉を発しようとしたその時
「なにその可愛い子! エルフ? キャーーーー!!」
母の人格が崩壊した。
そう、母は大の可愛いモノ好きである。趣味の手芸も可愛い文様で溢れかえっている。
周りがざわつき図書員もジロリとこちらに視線を移す中、それでも母の興奮は収まらない。それほどにサラというエルフの少女は美しさの途上にある可愛さを持っているのだ。
「母ちゃん! 母ちゃん落ち着いて!! 周りのみんなに迷惑だよ!」
母の肩を強く揺らし、ようやく正気を取り戻した。が、未だ鼻息荒くサラから目が離せないらしい。
「ンフフ素晴らしいお母様ですね。比呂彦君と仲良くさせてもらってます」
そう言ってサラは母に握手を求めるために手を伸ばした。
これはさすがにやばいと思い
「いいよ、そんなk」
瞬間吹き飛ばされた。
「はい! こちらこそよろしくお願いしますぅ!」
母は今までに見せたことのない機敏のある動きでサラの小さい手にしがみついた。
比呂彦は「こんなのってないよ」と呟くほかなかった。