表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
持たざる万能魔導陣師  作者: 水戸 松平
32/32

拳道部合宿 拳道部の断罪者 5

 夏にもかかわらず涼しげな空気が漂う山頂。

 薄い空気を伝わって若者たちの掛け声が聞こえて来る。


「ちょっと練習の補助してくれ」


「はい!」


「誰か柔軟の相手してもらいたい」


「はい!」


 比呂彦含めるマネージャー4人全員が多様な業務に駆られている。

 特に厳しいのは水汲みで、宿舎と練習場を往復しなければならない。

 一度に運べるのもバケツ2杯分ほどなので、常に補給し続けなければならない。


「次は私の番ですね。ではここは頼みましたよ」


 ヴィラは担っている業務をさっさと終わらせ、空のバケツを持って下山していった。

 ヴィラは昨日と同じように比呂彦と接してくれている。そして他のマネージャーもだ。

 何も思っていない訳はないだろうが、それはマネージャーが辞めていくのに慣れているためなのだろうか。

 比呂彦はその善意かどうかもわからない思惑にすがるしかなかった。

 どうにかミースに挑戦権を戻してあげたいという強い気持ちはあったが、そのために最終日に姉と戦わなければいけない。そのプレッシャーに耐えるためにも、それ以外の事は出来るだけ排除しておきたかったからだ。

 

 比呂彦は姉の練習姿をしっかりと目に刻みつけていた。今ならサラが魔法陣の使用の許可を与えた意味がわかる。美里は、少なくとも比呂彦が見ている間、一度も攻撃を当てられている様子がなかった。拳をいなし、次の瞬間には相手が宙を舞っている。比呂彦がいつも感じている姉とは違い、自分から攻撃するタイプではないようだ。ある部員が奇を狙って低いタックルをかまそうとした所、タイミングを見事合わせられて膝で頭を畳にめり込まされていた。容赦ない技に身震いする。

 マネージャーとして、手当てをするために畳で伸びている部員の元へ向かう。そのままだと邪魔になるので頭を揺らさないようしかし迅速に部員を運ぶ。


「練習でしょ!?やりすぎなんじゃないの?」


 比呂彦は姉の暴力的なやり方を非難する。

 

「お前に技を見せる為にワザとやっているんだ。じゃないと勝負にならんからな。今のうちに対策を立てておけ」


 そっけない言葉を放つ。その言葉の通り次の相対者に対して今まで見たことない技を繰り出し、膝をつかせている。

 比呂彦は姉の挑発にも思える言葉には一切見向きもせず、姉の繰り出す技を何度も頭の中で繰り返し、記憶にとどめた。

 どうにかして練習の時間を取らないと...

 誰か練習相手になってくれないかな...

 と思いながら、ちらりとサラの方を見ると部長と手合わせしている最中だった。


  ◯ 


 サラ楽しんでいる様子で、背が180ある細身の青年が繰り出す力強い技を捌いている。

 部長は体格差のあるサラに対して容赦なく責め立てていた。低すぎるサラの体格に合わせる為、腰を深く落とし半身を基本とした姿勢で技を繰り出していた。

 部長は技を出すたびに、足を強く踏み出し気合いの雄叫びをあげた。それは普段の力ない声で部員をまとめている姿とはかけ離れていた。

 ”三草二木”と書かれたユニフォームをが肌に張り付き、場内の熱が身を蒸気させている。それほど二人の戦いが白熱していた。


 部長がフェイントを織り交ぜつつ本命のローキックでサラの足を払いに行く。

 サラはそれを左足で踏みつけ、引くも引かれぬ殴り合いを挑んでいった。

 体格差のせいでサラは部長より半身以上前に身を傾けなければならない。

 サラは半身前進し、それを拒むように打ち込んでくる部長の手刀を防ぎきっている。

 容赦なくサラの目を狙った右の一撃を、更に身を前に傾けることで回避したと同時に左手で部長の左肩に掌底をかまし左腕の動きを先制する。その動きがサラにひねりを与え、その力を利用して部長の目を見据えながら右の拳をぶち込んだ。

 のけぞった部長が、サラに入れられた左脇を抑えながら力なく崩れていく。

 そして、サラが部長の手を取り起き上がらせると、休憩も置かず試合を開始した。


「なにやってんのサラは...」


 その疑問に答える人は誰もいない。

 それぞれ試合をしている人以外皆、サラと部長の試合に目を釘付けにされていた。

 そうしている間にも姉による被害者が続々と増え、一人での手当てが精一杯になってきた。


「テーピングはもうちょっと強く締めた方がいいよ」


 手当てにあたふたしていた比呂彦に三廏(みんまや)先輩が声をかけてきた。

 三廏先輩は健康的に汗をかいて髪もぐっしょりと濡れている。

 比呂彦は手元にあったタオルを手渡した。


「すごい汗じゃないですか! これ使ってください!」


「いや、まあ、貰っておくね。ありがとう」


 三廏先輩がタオルを受け取り体の中を豪快に拭いていく。

 最後に顔を拭った後、縁側から外に出てタオルを絞る。すると、ボトボトと水が落ちる音がした。

 比呂彦の元に戻ってくるとテーピングを指差し


「ちょっと貸してみて、私が教えてあげる」


 テーピングを受け取ると手際よく負傷した部員に巻いていく。

 

「はい! 一つできました」


 テーピングを巻かれた足をポンと叩く。


「テーピングは固定するために撒くから、キツイだろうな位がちょうどいいの。動いてる間に多少緩むからね」


 巻き方のポイントを教えながら次の負傷者にテーピングを巻いている。


「部位によってもどこをキツくするかとかがあるからある程度の知識は必要だよ」


 と言っている間に巻き終えていた。

 一通り終わったところで三廏先輩は座って比呂彦に足を向けてくる。


「じゃあ私で練習しようか。右足からお願いね」


「先輩はどこか痛めてるんですか?」


「違うよ。テーピングは怪我防止のためにも巻くんだよ」


 比呂彦は、突き出された右足を手に取りテーピングを当てていく。


「にしてもサラちゃん強いね。あの部長をボコボコにしてるなんて。顔には出してないけどかなりムキになってると思うよ」


 にひひとイタズラに笑っている。

 

「比呂彦君はサラちゃんから武道を習ってたの?すごい強かったよね」


 第二体育倉庫での出来事を思い出す。


「まあ、そんな感じですね。一方的に教えてもらってる形です」


「ふ〜ん、いつから?どんな風に教えてもらっているの?」


「え、え〜と...」


 魔法を教えてもらってるなんて言えないよね

 三廏先輩の質問にどういう風に答えていいのか解らず言葉が詰まってしまう。


「ああ、ごめんごめん。秘密だよね。ごめんね困らせちゃって」


 笑いながら謝る。


「でも、本当に強いよね。いつも静かなのに戦いになると超がつくほど攻撃的だし。エルフってすごいなぁ」


 サラに対して”静か”と言う評価に苦笑いしかできなかった。

 

「あの、部長って副部長より強いんですよね」


 どうしても知りたかったことを思い切って聞いてみることにした。

 戦うに当たって姉が拳道部の中でどの位置にいるのか知る必要があった。

 一見ミーハーに見える三廏先輩なら嬉々として話すだろうと思っていたが、実際は眉間にしわを寄せ身震いした後ゆっくりと答えた。


「美里先輩は...比べるまでもなく部長より強いわ。別に部長が弱いっていうわけじゃなくて、どちらかといえば強いんだけれど...。まあ、別格ね」


 言葉尻が萎んでいく。

 何があったのか見当がつくようなつかないような。

 比呂彦は後五日後に戦うであろう姉の評価に意気消沈しかけていた。


「本当に戦うの?お姉さんと」


 心配した顔で確認してくる。

 比呂彦は沈みかけた意志を無理やりすくい上げて虚勢を張った。


「もちろんです。絶対勝ってミースさんの挑戦権を取り戻します!」


 言葉と同時に場内に叩きつけられる音が鳴り響いた。

 さらに、負傷者が増えていく。

 

「そ、そう。それなら応援するわ。何か出来ることがあれば言ってね」


 三廏先輩は怯えた様子で答えた。

 比呂彦は”何か”という言葉に反応した。

 何か...なに...何でもって事だよね...

 この反応を見る限り無理だと思ったが、一か八かお願いしてみる事にした。


「あのう、練習相手になってもらえませんか!」


「練習相手って...もしかして美里先輩との勝負の?」


「はい、そうです。練習相手が今いなくて困っているんです」


 できる限りの困った顔を作った。


「えっ!サラちゃんに手伝って貰えばいいんじゃ...」


 引きつった笑顔で言い返す。


「サラはお姉ちゃんに好かれてるから、今回手伝ってくれないらしくて...。三廏先輩なら噂になるぐらい強いしすごい助かるかなって」


 うなり声を上げるほど悩んでいる。

 比呂彦はこのチャンスを逃さないためにできるだけゆっくりテーピングを巻く。

 

「お願いします! ミースさんにもう一度笑って欲しいんです」


 三廏先輩は深く考え込む。

 そして、美里の方向を一度見てから覚悟を決めるように比呂彦を見つめてきた。


「...分かったわ。あの時もあなた真由美ちゃんっていう子を助けようとしてたわね。本当凄いよ」


 三廏先輩が手を伸ばし、握手を求めてきた。


「こちらこそお願いするわ。一緒にお姉さんを倒しましょう」


「はい!宜しくお願いします! ありがとうございます!」


 強く手を取り合う。

 それと同時にけたたましく畳が鳴る音が練習場に鳴り響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ