ウィッチのお仕置きと夏休み導入
パァン
比呂彦は帰宅して自室に戻り、サラの姿を確認すると自然と笑みがこみ上げてきた。
サラも比呂彦の笑みに呼応して笑い、ハイタッチを交わした。
「うまくいったのね!」
「うん! もう完璧だった!」
比呂彦はサラに事の顛末のすべてを話した。
魔法陣を練習以上のクオリティーで展開できた事。
真由美との関係が戻った事。
阿蘇弥とも形式として仲直りした事。
三廏先輩が異様に優しく接してくれた事。
唯一の犠牲者、姓先輩が運良く生きていた事。
そして、関係者全員謹慎をくらった事。
「よくやったわ。さすが私の弟子よ! 謹慎って言っても、もう明後日から夏休みじゃない。なら、今日から夏休みって事ね。そろそろあの駄論文の倉庫に行ってみようと思っていた所よ」
サラは次の予定を楽しそうに話している。
しかし比呂彦は、まだサラには言っていないことがあった。
楽しんでいるサラに水を差したくはないのだが、そのまま事実を告げた。
「えーと....そのう、その見つかった先生の中にウィッチ族の先生がいて、で、その先生に1週間で合計2000歩しか歩く事が出来ない呪いをかけられて、学校からここまでで1000歩近く消費してしまったから後1週間を1000歩以内で過ごさないといけなくなってるんだよね....」
「ふうん。面白い呪いね。まあ、その程度の呪いならすぐ解けるわ。ここに座りなさい」
サラが得意げな様子で手招きしてくる。サラは立った状態で、床に座っている比呂彦の目の前に掌を向け、何やら古代語を唱えているようだ。もちろん、比呂彦が声を聞こうとすると靄がかかる。
そうした時間が5分10分と過ぎていく。そして、ふと時計を見てみると30分も経っていた。比呂彦はとっさにサラの顔を見てみると、その美しい顔が難しい苦悶の表情になりながらブツブツと言っている。
「サラ! 大丈夫!?」
「え....ええ。そうね、なかなか厄介だわ」
サラは一度休憩を入れるため、比呂彦のベッドに座り込む。
そして、現在どのような状況なのかを比呂彦に告げる。
「まず、直接呪いを解こうとするとその先生がそれを知覚できる仕様になっているわ。それに伴って攻撃性のある魔法が放出される事になってるの。なかなか強力よ。多分、あなたぐらいの人間なら数日間気絶するぐらいの魔力ね」
「で、ダミーを作ってその呪いに似た物と入れ替えるやり方で治そうとしてたんだけど、異常なほど強力にあなたと一体化しているわ。あなた一体どんな風に呪いをかけられたの?」
あのサラが、軽い放心状態で比呂彦に問いかけてくる。
比呂彦は当時の風景を思い出すために、左上の虚空を見つめながら記憶を探り出す。
「え〜と....。なんか変な種を飲まされただけかな.....」
「種! 種を飲まされたの!?」
サラは悲嘆の言葉を漏らした後、後ろに倒れこんだ。
「あ〜。無理ね。その先生頭おかしいわ。だってそれ拷問するときのやり方だもの」
比呂彦はサラの”拷問”と言う言葉に驚きはしなかった。
何故ならコリーナ女教師だから。それだけで納得できる。
「じゃあ、1週間外出出来ないどころか、家でもろくに歩くことができないんだね」
「そのようね。やるじゃない。一度会ってみたいわね、そのウィッチ族の先生に」
サラにここまで言わせるとは。やはりコリーナ女教師は只者ではなかったようだ。
呪いを解くことは出来なかったが、比呂彦は何故か誇らしかった。
「何よ。呪いを解けなかったからってバカにしてるの?」
「そんなことないよ! サラには感謝してるよ。いろんなことやってくれて....ありがとう」
比呂彦は本心から礼を言った。その方が無難にすむと思ったわけで決してない。
サラは少し照れながら、それを隠すように疑うような素振りを見せた。
「本当に? まあ、それならいいんだけど...」
あまり見ないサラの生彩を欠く態度に疑問を持ったが、下から母からの夕食の準備ができたという声が聞こえてきたため、比呂彦達は1階に夕食を食べに降りていった。
「夏休みの間、ずっとリンクした状態を保ちなさい」
サラが、姉や母のデレデレ待遇をたっぷりと堪能した後、比呂彦の部屋に戻ってきて直ぐの第一声である。
「リンクする事が基本よ。リンク出来なければあなたは何も出来ないんだから」
比呂彦は読んでいた魔法の教本から一旦目を外し、サラのいつもの突然な物言いに慣れた感じで疑問点を述べた。
「寝てるときはどうなるの?」
「寝てる時は、変な夢を見ない限り起きてる時より平静な状態よ」
「そんなの運次第だよ」
「その運を実力にするための修行よ。もちろん、リンクが途切れるたびに罰ゲームね。ンフフ」
そう、修行はこれから本格的に始まるのだ。更に言葉を続ける。
「後、呪いが解けたら基礎体力トレーニング開始ね。魔力の補充も一人で出来るようになってもらわないといけないし。魔法陣の構造も勉強しないといけないし。その前に、魔導の基礎をもう一度叩き込んでおかないといけないわね。そういえば........」
次から次へと修行内容が増えていっている。その姿はとても楽しみに満ちており、邪魔を出来る雰囲気ではなかった。比呂彦は、嬉々とした表情で語るサラの姿を見つめながら、その期待に応えてあげたいという気持ちが湧き上がってくるのを自覚していた。




