男女間抗争と魔導の目覚め 14
「夏休みまで残り1日です。最後まで、勉学に励みなさい。以上です。さようなら」
いつもの淡々としたコリーナ女教師の挨拶が終わり、放課後が訪れる。
阿蘇弥は先生の号令の後、直ぐに真由美の腕を引っ張って強引に教室を出て行った。
「大丈夫なの? 本当に行くの?」
沙耶がいつにもなくソワソワしながら比呂彦を心配する。
「うん、行くよ。今度こそ真由美を取り返してくる。皆は、危ないから来なくてもいいから」
「はぁ? そんな事させるわけないだろ! 俺たちも行くに決まってんじゃねえか!今度はお前一人に背負わせねえからな」
昇が比呂彦の肩を抱いて熱く語る。
「そうだよ! お前一人カッコ付けんな! 真由美ちゃんは皆の真由美ちゃんだ!」
「俺たち全員で助けるんだ!」
「俺も行く! 阿蘇弥をブン殴ってやるんだ!」
「僕も行くよ! 僕も真由美ちゃんを助けたい」
「俺も!」「俺も!」「僕も!」「私達も!」
......
その数、比呂彦と昇、その他20名の男子と沙耶・蛇抜姉妹の女性3人による間々真由美防衛隊が再び結成された。
◯
間々真由美防衛隊は第二体育倉庫にいた。しかし、全員ではなく、中と外に人数を2分した。
内部は比呂彦と蛇抜姉妹を中心とした6名で構成され、外部は昇と沙耶を中心とした17名が待機している。内部の人員が少ないのは倉庫の中の広さの関係である。そして、メンバーの中に蛇抜姉妹が選ばれたのは真由美と特に仲が良かった為だ。
少しの時間が経った後、外が騒がしくなった。ガヤガヤとした騒音とも言える声の塊は、男と女両方含んでいた。その騒音に、更に昇達の声も合わさっていった。
「おいオメェラか! 俺たちの真由美ちゃんにちょっかい出してんのは!」
「あぁん! 先に手を出してきたのはお前らだろうが!」
相手は上級生だろうに昇が奮闘している。と言うより多分ガチ切れしている。
比呂彦は乱闘になる前に自ら外に出て場を収めようとする。
「ちょっと待って! 俺たちは話し合いをしに来たんだ! 喧嘩をしに来たんじゃない!」
「はぁ? 俺は殴り合いの喧嘩をしに来たんだけどな。どうなってんだ阿蘇弥」
気性の荒そうな喋り方をするのは6年の姓 晋策だ。
「今更話し合いをまだしようっていうのかい? 何を話し合うっていうの? 言っただろ、どっちが真由美を守れるか。殴り合いで決めようって事に決まってるじゃないか」
「いいのかそれで」
「あ? いいに決まってるだろ。お前達が僕達に勝てるわけがないからな。こっちには6年生もいるんだ」
阿蘇弥はヘラヘラと笑いながら両手を広げて自信が集めたメンバーを誇示する。阿蘇弥が率いるメンバーは、姓先輩以外は全員女性で固めており、4年生の約30名に5年生7人、6年生3人の計42人である。真由美は5年生の屈強な格闘女子に守られ、その一人三廏 明日香の名前は度々聞いた事がある。
「そういう事を言ってるんじゃない。対外的にそういう事を大きな声で言ってて良いのかって言ってるんだ。バカ。場所を考えろ」
「あはは。そうだね。そうだったね。先生に聞かれたら大変だ。特にコリーナ先生に聞かれたらたまったもんじゃない」
「そうやってコリーナ先生を小馬鹿にする言い方もやめろ。先生もお前の相手をするのは嫌だろうな」
「.............わかったよ。早く入ろう。ガッツリと好きなだけ話し合いをしようじゃないか」
そう言うと阿蘇弥は、姓先輩と真由美とそれを守る三廏先輩含む3人と順子の7名で倉庫に入っていく。
比呂彦もメンバーに昇を加えた7名で倉庫に入った。
◯
「俺達からの要望は真由美をみんなに返して欲しい。それだけだ。別にお前から真由美を奪おうって言ってるんじゃない。真由美は物じゃないんだ。もっと自由にしてあげろ」
比呂彦と阿蘇弥達は3mほど間を空けて対面している。真由美は後ろに隠され姿が見えない。
比呂彦は深く集中する事を意識しながらリンク状態に持って行った。
「それこそお前達の傲慢さ。そんな事真由美は望んでないんだよ。僕と一緒にいた方が楽しいし、それに安全だ」
「そんな事ないよう! ママちんいつものように笑わなくなったし、よそよそしくなったし全然楽しそうじゃないよう!」
蛇抜姉妹の姉相良に続いて妹の成良も反論?をする。
「そうだそうだ! ママちんを返せ! クソナル野郎!」
「お前達二人は真由美からよく宿題見してもらってるから困ってるだけだろ」
「そうだけどさぁ〜。ほら! 比呂くんちゃんも言ってやって!」
蛇抜姉妹に任せていたら悪い方向に行きそうだったので話を引き取っておく事にした。
「お前のそういう実利でしか物を考えてない所がダメなんだ。実際二人は真由美の事をいっぱい笑わせてあげてたし、真由美も楽しい時間を過ごす事が出来ていた!真由美が悩んでいた時も二人が一番最初に気づいて助けてあげられていた!それなのに今はどうだ!お前はそれで真由美を幸せにしていると言えるのか!」
「........て」
「ああ、もちろんだ!お前達といるよりはずっと幸せだよ!いつも一緒にいる事で孤独感を感じさせないし、いつも面白い話で真由美を楽しませている!お前達なんてもういらないんだよ!ゴミ共」
「.....や...て」
「だから、それはお前が勝手に決める事じゃねぇ!! もっと客観的に見ろよ! お前すげぇ気持ち悪いぞ!!」
「なんだと、昇! お前もいつも良いとこばっか取りやがっ.....」
「もう、やめて!!」
ただの罵り合いに発展しそうな所で真由美が大声で叫んだ。
「もう、いや。......なんでこうなるの。ただ皆と仲良くしたいだけなのに」
「もうほっといてよ。こんな事になるぐらいだったら....ほっといてよ.........グス」
沈黙が流れる。真由美の言葉に昇や蛇抜姉妹が戸惑ってしまう。
「だそうだ。わかったか。お前達のせいで真由美が泣いている。仲間としてお前達をこのまま返すわけにはいかないな...」
嘲笑う阿蘇弥の言葉に合わせて他5人が前に出てくる。その威圧感は中々な物だ。
比呂彦側は既に萎縮している人がほとんどだ。
比呂彦は皆を守るように前に踏み出し、サラの言葉を思い出して己の信念を強く保つ。
そして言葉を放った。
「ほっとけない........ほっとけないよ。友達だもん。親友だもん。泣いてる親友をほっとけないよ」
「真由美。お前は俺達が真由美を助けようとする事で痛い目に合うのが嫌なんだよな。大切な友達が傷つく所を見たくないんだよな」
「俺もそうだ。俺も嫌だ。真由美が泣いてる所なんて見たくない。だから」
「だから.......今からお前の不安を取り除いてやる。上級生相手でも俺たちが大丈夫な所を見せてやる。」
「そこで待ってろ。すぐ迎えに行くから」
「お? やっと乱闘か? じゃあ早速ぶっ殺す!!!」
姓先輩が雄叫びをあげて突っ込んでくる。まさに狂人だ。
比呂彦は冷静だった。倉庫内に入ってリンクしたのも一度も途切れていない。比呂彦はサラに教わったように耐久力強化の魔法陣を足元に展開した後、筋力強化の魔法陣を足元に展開した。身体中に熱い波動が2重に伝わってくる。
後は、拳を放つだけだ体を右にひねり、脇を締めてタイミングを図って正拳をブチ込んだ。
比呂彦は拳に余り感触を感じなかった。「余り」という事なので少しは感じた事になる。
そして、その感触の原因となる姓先輩は"ゴッ"という鈍い音を発しながら奥に置かれた巨大なマットに突っ込んでいった。その後、音沙汰は無かった。
倉庫の中にいる皆が驚愕している。いや、ただ一人比呂彦だけが冷静な面持ちで次に拳をぶちかます相手を選んでいる。比呂彦は気分の高揚を感じていたが、集中が切れないように注意しながら前に足を踏み出す。
阿蘇弥達の比呂彦を見る目は最早恐怖に変わっていた。しかし、ただ一人順子だけは違った。前回の比呂彦を沈めた事を忘れられないのだろう。恐怖を凌駕する興奮状態にあるようだ。順子は比呂彦がもう一歩を踏み出すと同時にクルッと左回転し、顔面向けて鋭い回し蹴りを放った。
比呂彦はなおも冷静だった。サラに常に冷静でいる事を何度も口うるさく言われたという事もあるが、単に今の自分がどれだけの衝撃に耐えられるのかという好奇心を満たしたいという欲求に支配されていたからでもある。結果としては、順子は比呂彦に「余り」にも満たない感触しか与える事はできなかった。
その後、順子は狼狽して真の入っていない打撃を何度も繰り出すが遂に疲れ切ってしまう。
「な....なんなの......どういう事」
「どけ」
比呂彦は冷たく言い放つ。既に戦意喪失している相手を痛めつけるつもりはない。こちらはあくまで話し合いを求めているのだ。順子は比呂彦の言葉に応じ、腰を抜かした様子で足を引きずりながら隅に移動していく。
「ひぃー! たすけて!」
阿蘇弥は体面も気にせずに三廏先輩の後ろに避難する。
他二人も腰を抜かしており、まともに戦えるのは三廏先輩ただ一人だ。
「どいてくれれば何もしませんよ」
「逃げられるわけないだろ。ここで逃げたら、一生の恥だ」
比呂彦はつまらない意地・義理だと思ったが、断腸の思いで三廏先輩にぶちかます覚悟を決めた。
「比呂! やれー!」
「比呂ろんやっちゃえー!」
「八陣くんいけー!」
後ろでは興奮で軽いトランス状態に入っているのか異様に高いテンションの歓声が聞こえる。
比呂彦は姓先輩にやった時と同じように体をひねり、正拳をブチ込んだ。
「ちょっと待った!!」
瞬間、三廏先輩が大きく待ったをかける。その顔は先程よりも驚いているように見える
「君、君の名前はなんと言うんだ」
比呂彦は突然の問いに疑問を感じたが、深く考えずに名前を教えてあげた。
「八陣 比呂彦です」
「そ....そうだったのか。弟がいるとは聞いていたが、君だったなんて....」
そう言うと、三廏先輩はくるりと後ろを向いてこうべを垂れた後
「すまんな阿蘇弥。私は美里先輩を敵に回したくはない。故に辞退させてもらう」
「お前達もそうだろう。ばれたら先輩に殺されるぞ」
腰を抜かしている二人が顔を青ざめながらコクコク頷いている。
余程怖い目に会ってきたようだ。かわいそうに。
「という事だ。悪く思わないでくれ」
そう言い残した三廏先輩達は倉庫を出ていくわけではなく、昇達のいる所で座り込んだ。
どうやら姉のおかげで三廏先輩をゲットしてしまったらしい。
「さあ、阿蘇弥。どうされたいか、自分で決めろ。そのまま自分の意志を貫くか、それとも力に屈するか」
「あ.....ああ..あ...」
阿蘇弥は不安定に言葉にならない何かが漏れている。
そして、思いついたかのように真由美の後ろに飛びつき背中にしがみついた。
「殴れるものなら殴ってみろ。真由美に当てずに殴られるんならな!」
阿蘇弥はどこまでいっても阿蘇弥だった。
比呂彦は今日は使う気の無かった魔法陣を脳内で手に取り、展開するイメージを作った。
「え........あ...が.......」
阿蘇弥の幾つかの関節に魔法陣が展開された。拘束用魔法陣で動きを拘束したのである。
「真由美....立てる?」
「うん....グス.......ごめんなさい....」
身動きの取れない阿蘇弥を外に比呂彦は真由美の手を取った。
「こういう時は謝るんじゃなくて『ありがとう』の方が嬉しいな」
「うん...ごめん...んふふ....グス..じゃなくて.......ありがとう。比呂君」
「どういたしまして」
こうして男女間抗争は一応の終息を得たのでした。




