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持たざる万能魔導陣師  作者: 水戸 松平
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男女間抗争と魔導の目覚め 12

「ん......んあ.....ふぁあ.......」


 比呂彦は久しぶりに心地よい寝起きを体験した。誰かにどやされる事もなく、いきなり頬を引っ叩かれる事もなく、横腹を殴られる事もない。素晴らしい朝を迎えたと思っていたが


「おはよう、ウェクジェクト。優雅なお目覚めね」


「ウェ、ウェルトシュタインだよ.......」


 と反射的にお約束に答えていた。目の前にはサラが仁王立ちで構えており、その手には深い紫色の石が2つ握られている。


「時間がないわ。早く実験を始めましょ」


 そう言うと、サラは比呂彦の腕を引っ張って強引に立たせた。


「はい、これ持って立ってなさい。最後にアジャストさせないといけないから」


 比呂彦は何が何だかわからないまま言われた通り両手に石を持ち突っ立った。


「大変だったんだから。あの後、ご両親に事情を話して許してもらった後、魔力を貯める魔石が無い事に気付いて採ってきて.....」


 サラは比呂彦の頭に手を置いて集中しながら、苦労話を話してくる。とても器用だ。


「はいこれ、昼ごはんよ。特別に食べさせてあげるんだから」


 と言うと、サラはおにぎりを無理やり比呂彦の口に押し込んできた。

 今が昼という事もそうだが、いきなりおにぎりを詰め込まれた事による驚きでむせ返った。


「ゴッホゴッホ...ゴホゴホ...」


「ちょっと!汚いじゃない!」


 比呂彦は理不尽にもビンタされた。なおかつ汚れを服で拭かれもした。


「ちょっと.....待っ...ゴッホゴホ.....」


「しっかり立ちなさい。時間ないのよ。わかっているの?」


 サラは比呂彦の頭を掴んで強引に姿勢を正した。比呂彦はただされるがままにしているしかなかった。


「もう少しよ。なるべくリラックスした状態でね」


 少しの間を置いた後、「はい、いいわよ」の声とともにサラが一歩後ろに下がる。


「これで下準備は完了ね。その魔石に飛び込むようなイメージを持って集中してみなさい。面白い事になるから」


 比呂彦は嫌な予感を感じながらも石に集中して、頭から吸い込まれるようなイメージを作り込んだ。


「呼吸をまず整えなさい。鼻から吸って口から出すの。そして海に飛び込む...いや、海そのものになるイメージね」


 寝起きや、先ほどの理不尽な事もあってなかなか集中出来なかったが、サラのナビゲーション通りにやっていくと心が落ち着いていき、もう一時間近く経過したんじゃないかというような感覚を得た時、比呂彦の世界が突然広がった。

 

 脳が海に溶けて無くなると同時に広がるような、脳にぬるま湯をぶっかけられてそのまま融解していくような感覚に陥り、少しクラっとなるがサラがしっかりと支えてくれた。


「んふふ♪成功したようね。一応原理を説明しておくと、その右手の魔石があなたの脳とリンクしているの。で、ある一定のリラックス状態に入ると脳に発生する電気信号を検知して魔石が反応し、左手のもう一つの魔石と脳を繋げるの」

「魔法を使用する時の順序としては、まず集中することで右の魔石とリンクさせて左手の魔石と脳を繋げる。その中から使いたい魔法を選び出し、展開するイメージをする。そうすると、こっちの右の魔石の方に溜めてある魔力を消費して実際に魔法が展開されるの」

「要するに、右の魔石が燃料タンクで、左の魔石が道具箱だと思っていればいいわ」


 比呂彦はリンクが切れないように集中しながら、サラの話にも一生懸命注意を向けていた。


「そんな頑張らなくてもいいわよ。一度繋がったらひどく集中が切れない限り途切れないわ。逆に、リンクを切りたい時はだらければいいのよ」


 比呂彦はサラの言う通り、少しずつ周りにも気を周してみてもリンクが切れることはなかった。


「本当だ。なんか......すごい。すごいよ! あっ、途切れた」


「そうね。これからは集中する練習もしないといけないわね。でも、今やるべきことは道具箱に道具を入れることよ。魔力は特別に入れておいたわ。次からは自分の力で貯めなさい」


「ありがとう、サラ。でも道具って魔法陣でしょ? どうやって書くの?」


「それを今から説明するわ。まず、もう一度リンクしなさい」


 比呂彦は言われた通り、もう一度集中する。サラに言われたことを思い出しながら呼吸を意識して整える。するとまた、脳が蕩けるような感覚が比呂彦を襲った。

 サラは、比呂彦が集中している間に何やら紙に絵を描き始めた。


「で、出来たよ」


 比呂彦は慣れない様子でたどたどしくサラに告げる。


「あら、なかなか早いわね。やるじゃない。じゃあ、座って説明するわね。その状態を維持していなさい」


 そう言うとサラは、絵を描いた紙を床に広げて説明を始める。


「まず、今から作る魔法陣の説明からね。自己強化系と拘束系の2つよ。自己強化系は言葉の通り自分の筋力・体力・速力その他諸々だけど、今回は耐久力と筋力よ。そして拘束系は、相手の体に直接展開して動きを拘束する魔法ね。この絵を見て」


 サラは紙の右上に書かれた絵を指差した。そこには、円を基本とした幾何学模様の魔法陣が描かれていた。


「この絵をそっくりそのまま床に書きなさい。大きさは自由に変えられるけど、最初に書いた大きさが基準になるから直径60cm位がちょうどいいわよ」

(なに)で書くかというと、その魔石に蓄えられた魔力を指先に集中させて書くの。で、黒・青・赤で色分けされているでしょう。今言った順番で、その箇所に魔力を強さを変えて注入するのよ。まず、指先に魔力を集中してみなさい」


 比呂彦は指先を目の前に掲げ集中した。少しずつ指先が暖かくなってくる。このまま腕を思いっきり突き出したらビームでも撃てるんじゃないかと空想したが、集中が切れそうになったので妄想をやめた。


 「はい、そこで止めて」とサラが言うが、止めるのに少しの時間を要し、指先に溜めすぎた魔力を少し戻す羽目になった。


「それが黒線に必要な魔力量よ。体で覚えなさい。それじゃあ、床に大体直径60cmになるぐらいの大きさでこの通り書きなさい」


「う.....うん。わかった....」


 比呂彦はぎこちなく屁っ()り腰になりながら答える。ゆっくりと集中が途切れないように座り、絵を参考に書き出した。


「あなた絵が下手ね。円もまともに書けないの?」


 サラはあまりの比呂彦の絵の下手さに愕然としていた。


「円って意外と書くの難しいんだよ!絵なんか描いたことないし」


 「しょうがないわね」とサラが言った後、油性ペンでフローリングの床に直接魔法陣を書き出した。


「ちょっと! 何やってんの! ダメだよ!」


 比呂彦はサラの肩を掴んで止めようとするが、突き飛ばされる。


「あなたが悪いのよ。それに集中が切れてるわ。もう一度作り直しなさい」


 有無を言わせぬサラの言葉に従うしかなかった。

 その後、サラの書いた魔法陣に沿って比呂彦が魔法陣を描き、自己強化系と拘束系の三つの魔法陣を完成させた。


「次は魔法陣を魔石に取り込むやり方よ。これはリンクした後に、魔石を魔法陣に触れさせるだけで取り込めるわ。そういうプログラムが組み込まれてるから」


 比呂彦はその通りに、魔石を魔法陣に触れさせると魔法陣が魔石の中に吸収されていった。


「すごい! でも.....」


「でも何よ」


「下書きが消えてない! 母ちゃんに怒られるよ!」


「そんな事? そんなもの、私の魔法でどうにでもなるわ」


 サラが何かをつぶやくと、不自然な風を感じると同時に下書きの魔法陣が綺麗さっぱり無くなっていた。


「感謝しなさい」


 比呂彦は何故か理不尽な何かを感じたが、とりあえず礼を述べておいた。


「早速展開の練習よ。もう一度リンクしてさっき言ったみたいにイメージしなさい。最初に展開するのは耐久力強化の魔法陣ね。自分の足元に展開して見せなさい」


 比呂彦は、サラに言われた事を脳内で反芻してイメージを作り出し、脳内に漂っている魔法陣を選んで展開した。魔法陣は上手く足元に展開され、その瞬間身体中に熱が走った。


「続けて筋力強化の魔法陣を展開しなさい」


 サラが間髪入れずに次の課題を投じる。比呂彦はさっきと同じ要領で筋力強化の魔法陣を足元に展開した。すると、さっきと同じように全身に熱が走った。


「ンフフ上出来よ。注意事項としては順番がとても大事という事ね。先に耐久力強化をする事で、筋力強化に対する衝撃に耐えれる体になれるの。耐久力強化をやらずに筋力強化だけやると体が耐えきれずに破壊されるから注意ね」


「わかった!」


「よろしい。では次の拘束系魔法陣の展開に移りましょうか。これはなかなか汎用性が高いわよ」


 そう言うとサラは、両手両足を広げXの体制になった。


「私の手足に魔法陣を展開してみなさい。結構難しいわよ」


 比呂彦はまた頭の中にある拘束用魔法陣に手を伸ばし、サラの左手首を狙って展開した。が、思っていた以上に手前に展開された。サラの「もう一度」と言う言葉とともに魔法陣を展開したがそれでもまだ手前だった。再びサラの「もう一度」と言う言葉に思い切って少し奥をイメージして展開したが、室外に展開してしまっていた。その後何度もなんども思考錯誤してようやくサラの四肢全てに拘束魔法陣を展開し終える事ができた


「まあ、そんなものね。これは明日の実践で使うには無理があるかもしれないわね」


 サラは拘束されたまま評価を述べる。その姿は少し滑稽だが、サラがやっていると少し加虐性が刺激される。比呂彦はサラに近づいていき、くすぐり攻撃を決行した。


「ちょっと......なに....んふふふ........ちょっとやめて........ふふははははは....」

 

 比呂彦は日頃の理不尽の仕返しにここぞとばかり攻め立てた。ノリノリである。口で「こちょこちょこちょこちょ」と言うぐらいノリノリである。しかし、それもすぐに終わりお告げる。サラが力づくで拘束魔法陣を破壊した後、何か言葉をつぶやき比呂彦の動きが止められた。


「ンフフどうなるかわかっているんでしょうね.....」


 比呂彦は口も動かす事ができないまま地獄の責め苦を受ける事となった。

 その後もサラのスパルタな特訓がが夜遅くまで続いた。


  ◯


「ここまでね。もう寝なさい。明日に響くわよ」


「明日......魔法の力で真由美を助けられるのかな.....」


 比呂彦は弱気になっていた。魔法習得が本当に真由美を助ける事につながるのかと


「何を言ってるの。魔法はただ単に相手に言葉を通す為の道具よ。肝心なのはあなたの思い。あなたの気持ちをぶつければ、きっと真由美も答えてくれるわ」


「そうだよね。ありがとう、サラ」


 サラが見守る中、心身ともに疲れ切った比呂彦は倒れるように眠り込んだ。


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