男女間抗争と魔導の目覚め 7
「あいつだわ。聞いた通りの風貌よ」
比呂彦達は近くの大樹の陰に身を潜めていた。目的の闇市の商人が見える。商人はフードを被っていて細かな姿形はわからないが、唯一剥き出しになった右腕が機械化されており、機獣族だとわかる。機獣族は獣人の中でも体が強靭で、かつ、さらなる力を求め、さらなる英知を掴もうとする者が、体の一部をインプラント技術によって機械化して馴染ませている。その効果は絶大だが技術がまだ進んでいない事もあり、寿命が著しく短くなったり、命を落とす事も少なくない。この機械化の技術は、獣人以外の者が受けると体力的に保つ事ができずに絶命してしまう。それ程に、体に負担がかかるのだ。故に、この手術に成功した獣人は栄誉として新しい種族として扱われる。
「やっぱり、機獣族ね。厄介だわ。少なくともフィジカルの機械化はしているようね。後は、インテリジェンスに手を出しているかどうかだけど...ここからじゃ見えないわね」
「どうするの?」
「そうね。まずは旧魔導人形が売られているかどうか。そして、私があいつに勝てるかどうかね」
「やっぱり、そうなるんだ。そうだよね。お金全く持ってないもんね」
「んー。どう考えてもあなたが邪魔ね。逃げるにしてもあなたじゃ着いて来れないだろうし、多分あなたを庇ってでは勝つのは無理ね。でもそれ程強いのよ、機獣族って」
「じゃあどうすれば良いんだよう。そんな事わかりきってる事なんだから、今更言わなくったって...」
「だから、あなたを一時的に強くしようって思っているの。魔法でね。ちょっとこっちにいらっしゃい」
サラは手招きする。2度目の魔法付与に少し躊躇するが、そんな時間もない。
「その魔法で最初っから僕を強くしてくれれば良かったんじゃないの...」
「あなた、もうちょっと考えてから物を言いなさい。毎日毎日あなたに魔法付与しなくちゃいけないの? そこまで私は甘くないわよ」
「はい。後ろ向いて」
サラは少し呆れた感じで比呂彦を後ろ向きにさせた。流石に少しピリピリしているのもあるのだろう。言葉の棘が強くなる。比呂彦は左の肩甲骨、心臓の部分に暖かい手の感触を感じた。後ろではサラが古代語を唱えている。段々と手が当てられている所が暖かくなり、それが心臓を伝って体全体に広がっている感じがする。
「はい、終わりよ。これから説明するからちゃんと聞くのよ。一時的にとはいえ、魔法が使える体になったんだから」
「わかった」
「強化内容は2つあって、一つは基礎体力強化。筋力、体力、速力、耐久いろいろね。注意すべき事は急に力を出したりしない事。例えば、今いきなり全力で走ろうとしたら、そこらへんの木に激突して死にはしないけど気絶はするわ。物をつかんだり握手する時も気をつける事。そこらへんにある物試しに握ってみなさい。ほらっ」
サラは比呂彦に手の平に収まる程度の石を少し強めに投げた。比呂彦は慌てて取ろうとするが、石の速度が思ったほどゆっくり見えたので案外簡単に捕れ、反動の痛みも感じなかった。そして、少し力を入れて握るだけで石が砕けた。比呂彦は一度に起きたいろいろな体の変化に衝撃を受けている。
「ンフフわかった? でも、お試しはそこまでよ。魔法は使った分だけ消費する。覚えてるでしょう?そしてもう一つは一撃必殺よ。前置きが必要だから言っておくけど、今から私が言う言葉を復唱してはダメよ! 発動してしまうから。その言葉は"放出"よ。覚えた? これは、ここぞという時に使いなさい。相手に手の平を向けて叫ぶだけよ。さて」
サラは一通り説明を終えた後、前置きを置いて本格的な作戦を説明しだした。
「では、作戦を発表するわね。私が上手い事言って魔石を奪って逃げるから、あなたは思いっきりあいつにぶつかりなさい。その隙に私がもう一発ぶち込んだ後、あなたに石を渡すから急いで転送魔法陣がある所に逃げるのよ。私も後から行くから。作戦名は....何でもいいわ」
「いい? 放出は本当に危険な時だけ使うのよ?」
いつも通りざっくりなサラの作戦に、サラ自身はどう思っているのかが気になる。多分、自信満々に「完璧よ!」と答えるに違いない。
「あと、私が帰って来なかった場合、魔法陣に魔力流せば転送できるから。魔力の流し方は....言葉で表すのは難しいわね。雰囲気よ雰囲気。気合いでやりなさい」
「嫌だよ! サラを置いて帰るなんて。それだけは僕も絶対に譲らないから」
比呂彦は強い意思を維持するために、それなりな顔に繕いで意地を通す。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ンフフまあ、もしもの話よ。もしも、ね」
サラはウィンクを決めると颯爽と作戦を決行しに、その機獣族の露店へと向かった。




