男女間抗争と魔導の目覚め 3
「魔法を扱うのには十分な注意が必要よ」
ベットに腰掛ける比呂彦を前に弁を振るっているのはサラである。サラは図書館で本を借りてきたのか、その本を比呂彦の教本とし魔術の基礎を叩き込んでいる。
「魔法の発動には魔力が必要なの。それは魔法の規模や距離、対象の状態によって必要な魔力は変わってくるわ」
「例えばこの消しゴム。これを魔法で浮かすとしましょう。その場合、足元で浮かすのと、ここから2m離れた所で浮かすのとでは魔力の消費量は変わってくるの。もちろん遠い方が消費量が大きいわ」
「対象の状態というのは簡単な例で言うと「硬さ」ね。硬い方が壊しにくく、壊すのにさらなる力が必要になるの。これは規模にも関係してくるわ。どれだけエネルギーを少なく対象を破壊できるかが問題ね」
サラは例として使った消しゴムを比呂彦に放り投げた。比呂彦は受け取った消しゴムをマジマジと見て強く握ったり上に放ったりしている。
「魔力の消費による弊害はその割合によるけど、0に近づくほど空腹感と倦怠感が強くなってくるわ。0になると死にはしないけど、精神力がよほど強くない限り気絶するわね。まあ、魔力を0にするのはバカのする事だから、あなたはそうならないように気をつけなさい」
「魔力の補給は、魔術師なら食事して寝れば自然と供給できるわ。で、あなたがこれからにおいて奔走するであろう魔石などに魔力を補充する場合、魔法で魔力を内包している対象物から魔力を吸い取る方法が一つ。そしてもう一つが、大量の魔力で満ちた所に魔石を放置する事。この二つでしょうね。魔法で吸い取る方法は今は出来ないから、今は魔力で満ちた場所を探す事が先決よ。まあ先ず補充する魔石が必要なんだけどね」
「そんな所聞いた事ないよ。ここらへんにあったかな?」
「あるわけないでしょ。ウィッチ族は人間の突然変異で出来た種族って事は知ってるわよね? その原因がその大量の魔力が充満した土地に住んでいたせいよ。だから「魔人内戦」で提供された土地はそういう所からは離れているの。」
「ここから一番近い所で.....そうね.....1000㎞近く離れた所の霊峰ハンドルージュが近いわ。人間が利用出来る移動手段だと一ヶ月以上かかるわね。まぁ大変」
「大変って、夏休み全部使っても帰ってこれないよ」
「心配しないで、大丈夫よ。ハンドルージュとは違うけど、別の魔力で満ちている所の近くに生体用転送魔法陣を書いてあるからそれを使えばいいわ。特別よ。でも、それ以外には深く立ち入らない事ね。命の保証は出来ないから」
「わかった。約束する」
「後....そうね、あなた達人間種が魔法の世界に入る前に知っておかなければいけない事があるわ。それは、古代語の存在よ。現在主流となっている魔法は第二の魔法言語と言われている「マギ」ね。「マギ」は古代語から元々人間種が使っていた言語に魔力を乗せられるように、エルフ族が古代語を使って魔法をかけたものよ。なぜそんな事をしたかわかる?」
「えっと...人間にも魔法を使えるようにしたかったから?」
「でも、人間種は魔法を使えないのよ?魔法を使えない、という事は魔力がないという事。魔力が無くなるとどうなるか覚えてる?」
「お腹がすごく空いて、気絶する」
「そうよ。でもね、古代語で魔法を発動した場合そのセイフティが無くなるの。つまり、魔力が枯渇しても発動は止まらずにその代わりに命まで奪ってしまうのよ」
「だから、魔力を持っている人はその分使えるけれど、魔力を持たない人間種は古代語を唱えるだけで死んでしまうわ」
「これはすごく大事な事よ!だから、あの駄論文の倉庫に万が一も無いと思うけど古代語についての研究しているものがあっても見てはダメよ!勿論古代語に関する書物全てよ!わかった?」
「わかった!約束する」
「ンフフよろしい、ウェイディーンハルト!」
気分を良くしたのか、ここに来て初めてお約束を催促してくる。
「ウェルトシュタインだよ!」
密かに用意していたため二日経っても名前は覚えていた。
「古代語とマギの違いだけど。古代語は口に出すだけで強制的に魔法を発動してしまうのに対して、マギは言葉に魔力を乗せないといけないの。だから人間がマギで話す事は可能よ。元々人間の言葉だしね」
「ちなみに、エルフ族は皆、古代語を扱うわ。勿論私もね」
「じゃあ図書館で使ったやつもそうなんだ」
「そうよ。あなた、私が唱えている言葉か聞き取れなかったでしょう。あれは、言葉にプロテクトをかけて何を言っているかわからなくしているのよ。だから別に、私が古代語を唱える時に耳を防がなくてもいいわ」
「そうだ! あなたが古代語を認識でき無いようにする魔法をかけておいた方がいいわね。ちょっといらっしゃい」
そう言うと比呂彦はベッドから立ち上がり、手招きするサラの前に立った。
するとサラは比呂彦の顔を両手で掴み、おでこを合わせて魔法の詠唱を始めた。サラが言った通り、言葉を聞こうとすると靄がかかって聞き取れない。そうしている間に詠唱が終わりサラは比呂彦から少し離れた。
「これで大丈夫よ。サラ様を信じなさい!」
サラはとても自信満々だ。しかし、図書館での出来事も考えると少し不安だ。
「今日はこれぐらいかしら。何か質問はある?」
なんだかんだ言いつつサラの説明は丁寧で分かりやすかった。なので、別の疑問をぶつける事にした。
「えーと、図書館の時の事なんだけど.....どうやって僕を助けてくれたの?」
「あれね....。簡単よ。扉が壊れると警報が鳴るだろうと推測して、あのドワーフの男が斧でドアを破壊する瞬間に、私が破壊してついでにあなたを助けたの。すごいスピードと威力でね。で、扉を壊したのをドワーフのせいにしたのよ。さすが私ね♪」
サラの態度にあのドワーフの男が可哀想になってきた。実際、ちょっかいをかけたのは自分達でドワーフは何も悪くないのだ。あの後どうなったのだろう。子供って恐ろしい。
「今日はここまでね。よく頑張ったわ。もう寝なさい。2時よ」
時間を言われ、よく今まで眠たくならなかったなと感心する。それほど魔法とは魅力的なのだ。
「サラはどうするの?」
「私はやらないといけない事がたくさんあるから、気にせず眠ってればいいわ。魔法で眠らせてあげましょうか?」
「いやいいよ。魔力は大切にしないと」
「早速勉強の成果が出たわね! ンフフおやすみなさい」
そう言い残した後、サラは電気を消して部屋から出て行った。




