男女間抗争と魔導の目覚め 1
「何でいるの!?」
「悲しいわ。比呂彦君にそんな事言われるなんて。シクシク」
「シクシク」としっかり発音したサラは姉の美里に抱きついた。
サラに洗脳されたと言っても過言ではない僕以外の八陣家は、一斉に比呂彦に非難の声を浴びせる。
「お前無神経だな。死ね」
とサラの頭を撫でながらもいつものように冷酷に近い無表情で美里は死を宣告し、
「今晩のご飯抜きね。早く風呂入って寝なさい」
いつもは優しい母も、姉に受け継がせたであろう冷淡な表情で言い放つ。
「悪い奴に追われていた所を、お前を当てにしてここまで来たんだぞ!うお"お"お"ぉぉーー!!なんと健気な!!」
父はサラの嘘であろう話を信じ込んで号泣している。
「いえ、私が悪いんです。一度会っただけなのに家まで押しかけてしまって。少しの間でしたけれどありがとうございました」
そう言って立ち去ろうとするサラを美里がガッチリとホールドする。
「お前がいるとサラは気を使うらしい。サラは私の部屋に連れて行く」
「ちょっと!独り占めは卑怯よ!サラちゃんはみんなのサラちゃんなんだから」
ここでもまた女の戦いが生じる。疲れ切った比呂彦は風呂も入らず、絶望感と共に自身の部屋に逃げ込んだ。
◯
「起きなさい」
頬に強い衝撃を受ける。まどろみが強制的に排除され、暗闇の中、何者かに馬乗りされていることに気づく。
最近、強引に起こされることが多いなと思いながらも、聞き覚えのある声に予想はついていた。
「サラ!?ちょっと何してんの!ここ、僕の部屋だよ!」
「しー!静かにして。そんな事関係ないでしょ。もうこの家は全部私のモノみたいなものなんだし。んふふ♪」
相変わらず自分勝手なエルフの少女に比呂彦は返す言葉が見つからなかった。
「それよりあなた、魔法を舐めてるの?こんな早くにもう寝てるだなんて、やる気ないのかしら」
夜目で暗さに順応し始めた比呂彦は時計を手に取り見えるように顔に近づけた。
「もう夜の1時だよ!もう寝る時間だよ!」
「私は現在の時間を言っているんじゃなくて、あなたが寝たであろう時間を言っているのよ。あなた、9時に寝てるんですってね。お姉様から聞いたわよ。本当子供ね」
「子供だよ!それに今日はいろいろあったから疲れてたんだよ」
「あらそう、でもそんな事言ってたらいつまでたっても魔法の習得は無理よ。日々の積み重ねが肝心よ。人間はエルフのように怠惰ではないんでしょ?んふふ♪」
根に持っていた。
そう言うとサラは比呂彦の上からどいて(パチン)と部屋の明かりを点けた。
「スイッチで光を灯すなんて初めてだわ。趣があるわね」
この生活が普通の比呂彦からは到底出てこないであろう感想が漏れた。
「変な事に興味持つんだねサラって」
「そうかしら。でも興味を持たなくなったらそれでおしまいよ。さあ、もうぐっすり寝たでしょ。今から修行開始よ。早く起きなさい」
「えー、まだ少ししか寝てないよ!サラは眠くないの?」
「エルフは3日間は眠らなくても大丈夫なの。それに寝る時間も短時間なのよ。早速勉強になったわね。さあ、早く始めましょ」
相変わらず強引なサラに腕を引っ張られて机に座らされる。
「さあ、どこまで予習が進んでいるのか見せてもらいましょうか。んふふ♪」
こうしてサラのスパルタ教育が始まった。
「いい?人間が魔法を使う為には魔法陣を利用するしかないの、それも間接的にね」
「でも、その間接的に利用するっていうのがイマイチピンと来ないんだよ。事前に造った魔法陣をある空間に入れておいて、その空間を自分の頭とリンクさせて自在に展開するってのは分かったけど、そのリンクする為にも魔法が必要になってくるんじゃないの?」
「そうね、まあそこが現実的ではないと思った箇所なんだけれど、でもこの著者のアリス=マクーハンはしっかりと答えを導き出していたわ」
サラは論文をめくり目的のページへとたどり着く。
「ここね、「亜空間共鳴装置の発動は、魔導人形に使われる電子プログラムを基礎とした、新しい人間種に適応し直したシステムの再構築が一番の近道である。」」
「明確には示唆されてはないけれど、あなたがしなければいけない事は提示されているわ。」
「どういうこと?全くはっきりしてなくてわからないよ」
「それはしょうがないわ。なんせ、あの駄論文の倉庫にあったものなんだから。要するにまず、魔導人形を手に入れなければいけない。これは確定ね」
「魔導人形ってあの図書員とかの?」
「そうよ。でも市販されているのを買うのはかなり高いわ。よって、狙うは旧魔導人形ね」
「やっぱりそうなるんだね↓。旧魔導人形って確か闇市とかで売られてるって言ってたよね。もっと高くなるんじゃないの?」
「まあそうなのだけれど、欲しいのはプログラムを記憶してある魔石のみよ。きっと容易に手に入るわ。さあ、早速行きましょう!あてはあるわ!」
サラは新しい冒険の始まりに気分が高揚したのか比呂彦の肩を強く叩き爛々とした深く青い瞳で僕を見つめてきた。
比呂彦は、サラが無茶を言っているのにも関わらず断りを入れるのが申し訳なくなってしまう。
「え〜と...学校があるから今すぐにはいけないよ?」
瞬間、この世の終わりのような顔をするサラはとても表情豊かなんだと感心するほどだ。
「そ.....そうだったわね。あなたたちは決められた教育システムに縛られているんだったわね。本当...旧時代的だわ」
更なる事実を突きつけるのは心苦しいが、心を鬼と化して告げた。
「でさ、次の休みまで4日あるからそれまで行けないよ」
サラの瞳から光が失われていく。ふらふらと歩き出し音も立てずベットに潜り込み眠りだした。
「3日寝ないんじゃなかったの?」
「今がその3日目よ!」
そう言うとサラは本当に眠り始めた。微かに聞こえる寝息を立てて。




