ウィッチの秘密そして再び 4
「以上で終わりです。早く帰宅しなさい」
服を着た全裸という新しい属性を確立したコリーナ女教師は、元のフードを被った姿に戻りいつものように帰宅を促す。
「え!これで終わりですか!何もされないんですか!」
何故か無意識に罰を望んでいる自分がいた。
「そうです。また以前のような事件を起こしてしまうとクビになるそうですから。クックックックック。残念です」
笑い方も不気味という事を伝え忘れていたなと思ったが、コリーナ女教師のこの不気味さが良いという結論に至りあえて言わない事にした。
比呂彦はしっかりと挨拶をした後、コリーナ女教師の研究室を後にした。季節は夏という事もあり校舎内はまだ真っ暗にはなっていない。外を見るともう自主練に励む人の姿はもうなかった。比呂彦は本格的に暗くなる前に急いで帰路に着いた。
◯
「よぉ!比呂君!生きて帰ってきたんだな!」
校舎を出て校門を通り過ぎようとした時にいや〜な声がした。直ぐに阿蘇弥という事に気づいたが、気が緩んでいた所為かつい反応してしまった。
「ああ。....そうだよ」
阿蘇弥の方に顔を向けるとその取り巻きの女の子朱星 望と足柄 美玲、千厩 泉、長久手 真奈美の四人と更に真由美の姿があった。
僕は真由美の姿にガックリときたが、表情には出さずに阿蘇弥を避けるように校門を通過した。しかし、阿蘇弥はベッタリと僕の肩に手を這わせて引き寄せてきた。
「ねぇ〜、比呂ちゃ〜ん。コリーナ先生に何されたか教えてよ〜」
反射的に身震いが身体を襲い、しゃがみ込んでそれをくぐり抜けた後、足に力を入れてウサギのように飛んで距離をとった。
「やめろよ!馴れ馴れしいんだよ!」
「そんな硬いこと言うなよ〜。コリーナ先生の情報は高く売れるんだよ。だからさ....ね?協力してよ〜」
何も悪びれる事も無く抜け抜けと話す阿蘇弥に、軽蔑の眼差しで睨みつける。
「阿蘇弥君がこんなに頼んでいるんだから言ってあげてもいいじゃない。ほんっと器がちっちゃい奴!」
「だよねぇ〜。ウチらだったらソッコウ話してるし。だから、あんたも早く阿蘇弥君に教えてあげなよ。」
ヒステリーの真奈美とバカの美玲が何か言っている。
「は....早く行こ!相手にしちゃダメだよ!」
と言って僕の腕を引っ張るのはいつの間にか後ろに回っていた真由美だ。阿蘇弥陣営に落ちたと思っていたが.....女神よ!!!!
「は?裏切る気?どうなるかわかってんの?」
「裏切るも何も...私は比呂彦君を心配して待ってたら阿蘇弥君達が後から来ただけで...」
「いやマジ意味わかんないし、裏切るとかマジありえないし」
リーダー格の望がリーダーのそれらしいそれっぽい事を言ってる。
女同士の戦いに発展して少したじろいだ僕だが、阿蘇弥がニヤニヤと、この状況を楽しんでいるのを見て、早く今直ぐにでもこの場を離れる決心をした。声もかけずに真由美の手を取り、とにかく早く、真由美の制止する声も振り切って走り、阿蘇弥の気持ち悪さが抜けるまでさらに走り続けた。
「ハァ..ハァ...ハァ....ハァ。ありがとう。あの....いろいろ」
「ごめん」と謝らなかったのは昨日サラに何度も指摘されたからだ。
「ハァ..ハァ...ハァ......いや....ごめんなさい余計な事しちゃったみたいで。またお母さんっぽい事しちゃったかな」
「ん〜、お母さんっぽいかどうかはわからないけど、すごく嬉しかったよ!ありがと!」
すっかり空は暗くなり星が点々と瞬いている。比呂彦達は学校区域から住居区域の狭間にある農業区域の途中で息を吐き、ポツポツと旧時代の電灯が等間隔に設置してある整備された農道を、勢いそのまま!手を繋いで!!歩いていた!!!なんとぉ!!!!
「あの....今日のあれで...前で発表した話って...比呂彦君が考えたお話なの?」
日頃の何気ない話の区切りが一つ着いた所で、真由美は比呂彦を顔色を伺うように質問してきた。
「え?あ!その....まあ...考えたというか..夢で見た事を言ってみただけかな」
深く突っ込まれたくないせいで、歯切れの悪い返事をしてしまう。
「そうなんだ。えっとね...実は私ね.......小説を...書いているの」
「私ね、皆にママとかお母さんとか言われてるけど、....その...小説家にね、なるのが夢なんだ」
勇気を出して告げてくれたであろう事がヒシヒシと伝わってくる言葉に、比呂彦は少し泣きそうになっていた。
比呂彦は真由美と繋がっている手を両手で取り
「本当に!?絶対なれるよ!応援する!僕にできる事なら何でも協力するから!頑張って!」
比呂彦は、子供特有の根拠の無い声援を送る。しかし真由美はその言葉が嬉しかったらしく泣きながら両手で僕の手を握り返してきた。
「ありがとう...。話して良かった。初めてが比呂彦君で良かった......グスッ」
その言葉に比呂彦の涙腺も崩壊し、田んぼが広がる景色の中で二人で両手を握り合い、少しの間泣き合った。
「送ってくれてありがとう、比呂君。えと..大丈夫?お父さん呼んで送ってもらうね」
二人はあの後、お互い本気で泣き合った事を恥ずかしく思ったのか、無言で歩いていた。雰囲気で真由美を家の前まで送る事になっていたので、現在真由美の家の高さ1.2m程の鉄製の門扉の前にいる。真由美の家に限らずほとんどの家が一戸建ての住居である。
「いや、いいよ。家すぐそこなの知ってるでしょ?大丈夫だよ!」
比呂彦はそう言った後、家までの道順を思い出し、以外と距離が結構ある事に気付いたが、真由美に有無を言わせない為に「じゃあね!」と手を振った後走って家に向かった。そして、後ろから聞こえる「また明日ねー!」と言う真由美の声に、僕は後ろを向いて走りながら手を振って答えた。
「怒られるだろうなー」
比呂彦は自宅の玄関の前にいた。周りは既に街灯も灯りを消して真っ暗闇である。満月も一週間前に過ぎ、その鈍い光は輝きを失っている。
「はぁ〜。手ぇ握っちゃったな〜。えへへ」
と落ち込んだり浮かれたりと情緒不安定な比呂彦は、怒られても本望と逆に吹っ切れてドアのノブを回して思いっきり引いた後、大きな声でただいまと自身の帰りを告げた。
「........おーい」
何の反応も無い。と言うより比呂彦の声以上にリビングから盛り上がっている声が聞こえる。
一瞬ホッとしたが次の瞬間には苛立ちを感じていた。
(全く心配してなかったの!?そんなのってないよ!)
憤慨した比呂彦は、靴を脱ぎ捨てリビングに向かい勢いよくドアを開け放った。
「何で誰も心配して無いのー!!!」
「あら、遅かったじゃない。何?また泣いてたの?あなた本当泣き虫ね。んふふ♪」
そこには姉の膝の上に座るサラの姿があった。




