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ループ  作者: 星河 翼
14/14

#14 決勝戦・決着・全ては平等の世界へ・・・

 ここから先は、シーソーゲームが続いた。敵がポイントを入れると、あたし達が追う様に取り返す。その繰り返しだった。

 ここまで来ると、疲労感は返って緊張感に変わった。残り一分。三点差で、リードされている状況。これを引き分けにするには、スリーポイントシュート一本は必ず必要。そして、後は地道に攻め込むしかない。

 今、手元に有るボールをあたしは、丁寧に扱っていた。が、真が、健二が、雫が、友則が、

「打て!」

 と指示を出してきた。後は天に任せろって事?あたしは、トップでドリブルしながら残りの時間を考えていた。既に一分を切っている。

 一歩引いた所にスリーポイントラインが有る。あたしは、スッと跳ねるように下がると、ボールを掴み、素早く構えた。審判の指が三本立っている。

 ボールを丁寧に放った。四番があたしの前に立ちはだかろうと飛び出してきたのが見えた。しかし、その腕の中にボールは入らなかった。空中にゆっくり上っていくボール。まるでスローモーションの様だった。ここだけ時間の流れが違わない?そんな事が頭を過ぎった。あたしは、四番の身体でボールの行方が分からない。このままじゃ嫌だとフェイクを掛けた。そして、ゾーン内に入り込む。皆が、スクリーンアウトをして、リバウンド体制に入っている。ボールは、フッと下降して来た。入れ!多分みんなそう思っている筈だろう。

 願いは、天に届いた。スパンとネットの中に入る音が響いた。

「おっしゃ〜!守り抜くぞ!」

 雫が、既にディフェンスに入っていた。

「守るんじゃ無くて、攻めるわよ!」

 このまま引き分けなんてごめんだった。ここまで来たら、春樹達の分も汚名返上したい!だって、日本での試合では、あたし達の一敗が有るんだもの!

「了解!」

 何の表情も見せないヒューマノイド。エンドラインから投げ込まれる、四番に渡るボールに飛びつく。カット成功。あたしは、ゴール下まで入り込むと、レイアップシュートを放った。 これで、勝てる!そう思った。

 しかし、八番が、後ろからそのボールを押さえ込んだ。

「ピピー!」

「白、八番、ディフェンスファール!フリースロー!」

 やった、これでフリースロー!

 そう思った瞬間あたしは、気を緩めてしまっていたのだろう。床に脚を付いた瞬間、捻ってしまったのである。鈍い痛みが走った。あたしは足首を抱えて(うめ)いた。痛い……(うずくま)ったまま立てなかったのである。

 審判が駆け寄ってきた。

「レフリータイム!赤!」

 既に人間だとバレてはいるけれど、ここであたしが試合放棄したら、負けだ。冷や汗が背中を伝う。痛いのに、勝ちたいという気持ちが先走った。

 雫があたしの所に来て、

「これ以上は無理だな。リタイアしよう」

 と真面目な顔をして言った。

「じょ……冗談じゃ無いわよ!勝たなきゃ意味が無いでしょ!あたし達の今までは何だったのよ!くっ……」

 口だけは達者だった。でも、痛くてズキズキと足首が疼く。

「無理するな……」

 健二が、あたしの腕を取った。そして、運ぼうと身体に手を回してきた。

「待って!嫌よ!」

 あたしは、頑固に否定し足首を押さえながら、健二の肩に手を回して、腰を上げた。このまま終わるなんて、死んだって嫌!

「雫……肩貸して!」

 雫は、何も言わずに肩を貸してくれた。

「……フリースロー。あたしがやるから、サークルまで運んで頂戴……」

 何も言わずに、フリースローラインまで運んでくれた。審判は、続行の合図を送る。会場は沸き立っていた。フリースローレーンに選手達は並ぶ。

 左足に負担が掛からないように、あたしはボールを握った。こんな中途半端な体制でシュートが出来るだろうか?そんなこと今までやったことが無い。でも、やらなきゃ!周りはシーンとしていた。誰も居ないかの様に静まり返っていた。瞼を閉じて、集中する。足の事を考えないようにしなくちゃいけないから。

 そして、一本目を放った。ボールがリングを回るように、何周かしてコロリと零れ落ちた。外れた!足がズキズキ痛むのが分かった。   

 後一本。これは入れたい。時間は後、二十秒。反撃されてもおかしくない時間が残っている。審判がボールを渡してくれた。あたしは、再び瞼を閉じた。そして、リングをキッと睨み付けた。この一本入れ!

 ボールを投げた。それは、放った瞬間判った。入る!

「守って(ディフェンス)!」

 まだ入ってもいないのに、あたしは声を上げていた。皆があたしを見ていた。

「了解!」

 まだ動くことが出来ないから、ラインにいるけど、皆承知してくれた。ボールは、ネットをすり抜けた。一点差であたし達『南風』のリード!

 エンドラインから、投げ込まれるボール。それを、雫が追い掛けた。あたしは使い物にならない。只居るだけの存在。そして五対四の構図。残り、十秒!守りきって!あたしは、その場から足を引きずるように、自分達のコートへと足を向けた。

 皆、頑張ってくれている。一人欠けた中、一点を守り切る為に、走り回っている。

「真!右サイド空いてるから、スペース空けないで!」

 とか、

「友則、腰が引けてる!」

 とか、

「健二!もっとプレッシャー掛けて!」

 とか叫んでいた。そんな中、六番がスリーポイントライン外にいることに気が付いた。

 嫌な予感がする。

「雫!六番!打ってくるわよ!」

 残り、三秒。六番の手にボールが渡った。シュートの構え。やはり打つつもりだ。でも雫に声を掛けたのが幸いした。雫は、シュートを打ったそのボールを弾き返した。そこで、試合終了のブザーと、笛が鳴ったのである。


「うわーっ」

 観客席が会場内に響くような歓声を上げた。あたし達は、お互いを見て、そして抱き合った。勝ったんだと喜び、お互いを讃え合った。

「アイーシャ!来いよ〜」

 雫が、あたしの腕を掴み、そして皆があたしを胴上げした。上下に放られて身体がふわふわ浮く。

「もう〜やりすぎだってば〜」

 それでも、まるで気にしていなかった。勝った事の喜びで、皆、舞い上がっていた。あたしもまた嬉しくて、床に再び足を着けるまで痛みを忘れ去っていた。

 そんな中、英語(こうようご)で放送が入った。賞の授与についてである。時間は、今から直ぐとの事だった。あたしは、ギョッとして、その放送に聞き入った。人間であるのに、表彰を受けることが出来るのかと言う疑問。皆は、平然としていた。何?その表情は?雫が、

「お前が、ちゃんと受け取るんだぞ?」

 と言った。まるで遺言の様だった。


「只今より、表彰式を行います」

 各チームが縦一列に並んで、その時を待った。あたしは、松葉杖を借りて立っていた。

「優勝、『南風』チーム」

 放送が流れると、あたしは前に出た。

 お偉いさん?何だろうか?確か何処かで見覚えがあるような気がする……あたし達の前にその身を晒したその人物。貫禄のある、長い白髭がトレードマークだった。

 表彰台の所で受け取った賞状。そして、賞金。あたしは代表としてそれを受け取った。

「おめでとう(コングラチュレイション)」

 一言そう言って、その人はあたしに握手を求めてきた。あたしは不思議な感覚でその手を握り締めた。

 それから、放送が聞こえてきた。

「観客席の皆さん。僕は、日本の総理大臣です。この大会を無事開催出来て、大変嬉しく思います」

 この声は、八神監督?あたしは来賓席を見た。するとそこで、マイクを持ち、英語で話しているのが目に入った。

「皆さんには、人間の価値を判ってもらえたでしょうか?この試合は、この日の為に極秘で進められてきました。アメリカ、日本と言う二国の極秘計画(プロジェクト)だったのです。そして、一つの賭けをやったのです。どちらが人の心を掴むのか?その賭けを!」

 観客席はざわめいた。当たり前だ。極秘計画だとか、賭けだなんてそんな事を言われて、誰が肯定できるだろうか?

「そして、今この時点での見解を求めたいと思っています。ヒューマノイドが悪いと言うわけではありません。肯定派、否定派。それは皆さんの心にあると思います。過去の過ち。それを振り返る人もいると思います。しかし、人間の手でこれ以上のヒューマノイドを完成させられるでしょうか?感情の無い。ただ、頭脳(ブレイン)だけで動いているヒューマノイド以上を!」

八神監督は、ここで一区切りつけた。会場内は、シーンと静まり返った。

「ヘイズさん?あなたの口からお聞きしたい。これ以上のヒューマノイドは可能ですか?」

 あたしの父がマイクを持っていた。

「『ニュー・ウェーブ』のエンジニア、ヘイズです。この場を持ちまして断言させていただきます。不可能です。感情は、人間特有の物。これ以上の物は、神の領域に達します」

 父はそう言って言葉を切った。

「ヒューマノイド開発チームの、長たる方のお話でした。さてここで、皆さんに意見を聞かせて頂きたい。この試合で、大切な何かを感じ取った事と思われます。ヒューマノイド制をこれからも続けていくか?それとも、新しい人間らしさも含めた世の中を創り上げていくか?その返答が欲しい。これは、国際ネットで放映されています。そして、それを判断する為の処置を施しています。手元のボタンを押して下さい。イエスが先を、ノーが後です。それで、全てが決まります」

 八神監督は言い切った。国際?でも、日本はテレビさえないのに……他の国だって有るかどうかなんて判った物ではない。有るとしたら、このアメリカだけでは?そんな事を思っていると、パッと会場が暗くなった。そして、天井に光が差し込んできた。ざわめきが起こる。イエスとノーのライトが点滅していた。あたしは固唾かたずを呑んでそれを見上げていた。

 光は、ノーに灯った。

「皆さん、ありがとう……」

 八神監督の声が聞こえたその後、大きな銃声が響いた。真っ暗闇の中、何が起こったか判らなかった。が、直ぐに元の通りライトが灯った。

 来賓席から、悲鳴が聞こえた。八神監督が、胸から血を流して手すりからずり落ちた。あたし達は、必死でその場に走って行った。

「八神監督!」

 誰?打ったのは誰!

 あたしの頭の中はパニックだった。何故打たれなきゃならないの!あたしはまだ御礼言ってないのに……涙が溢れ出てきた。

「……アイーシャ?僕は過去の幻影なんだ。嘆くのはおよし……何千年も生きてきて、そして、やっと眠りに就くことが出来るんだ。それを判って欲しい……それから、君に一つだけ嘘を付いていた事を謝りたい。日本は、海の底に沈んでいる。もう無い国なんだよ?それじゃ……また会おう……」 

 静かに目蓋を閉じた。銃が、八神監督の手に握られていた。あなたが選んだ道がこれだったんですか……悲し過ぎますよ……目に溜まった涙で視界が滲む。でも待って?日本が海の底なら…… 

 あたしは、周りを見回した。健二、真、雫、友則、春樹、英治、陸、薫、亮は?

 皆が、あたしの周りでにっこりと微笑んでいる。

「さよならだ!アイーシャ?」

 健二!

「足、早く治すんだよ?」

 真!

「また一緒にバスケやりたいぜ?なあ、アイーシャ?」

 友則!

「お前、凄かったよ!」

 春樹!

「イビキ、気をつけろよ?」

 英治!

「寝言も凄かったっけ?ははは……」

 陸!

「ま、アイーシャらしいけどな?」

 薫!

「もう少し、女らしくしろ!」

 亮!

「そう言う訳だ。目に見えるものが真実って訳じゃ無いんだよ?前にも言っただろ。大切なのは、心のつながりだぜ、アイーシャ?それより、泣き虫……直せよ!みっともない。じゃあな!」

 雫!

 皆、煙のように、跡形も無く消えてしまった。さっきまで血を流して倒れていた八神監督までも……あたしは、大声で泣き臥せってしまった。

 一年……その間、あたしに幻を見させたのか?こんな残酷な別れって有るのか?

 しかし、この終わりは、皆の目にちゃんと焼きついていた。静かなざわめきが、起こっている。

 そして、泣き崩れているあたしを、さっきの白髭の男性が抱き起こしてくれた。

「え……?」

 そして、松葉杖を拾い、あたしは立ち上がった。

「全て、この日を想い実行してきた計画(プロジェクト)だった。私達は、過去の日々を繰り返してはならないと言う意見と、それ以上を求めてきた。そして、今は無き日本の幻影と話をして来た。信じられないかも知れないが、これは、現実だ。誰も幻影だと思わなかっただろう?目に見える物を信じた。これが、現実なのだ」

 そして知事は、あたしの肩に手を乗せて言った。

「民衆の諸君?ここに、私から偉大なる日本人達が残してくれた者を紹介する。彼女の名前は、アイーシャ・ヘイズ。そして、カリフォルニア州知事より、もう一度この者を讃える!」

 あたしに、拍手と、あたしの名前を讃える声が沸き起こった。それは、人間としての誇りを取り戻した歴史的瞬間でも有った。


 あの日からどれだけの年月が過ぎたのだろう?あたしは、日々執筆を続けていた。とある小学校のバスケットの監督をしながら、過去と今のエッセイを書き続けてきた。

 本当は戻るべき日本に、残してきた日記を取りに行きたかったが、どんなに調べても日本は海の底で、その希望は適わなかった。

 だけど、今でも鮮明に思い出す。あの短かった日々を……確かにあたしは日本に居た。そして、皆と一緒に生活をした。それは、あの試合を見た人々が信じてくれた。だから、もう今はそれだけで十分だった。

「アイーシャ!そろそろ時間だぜ?用意しろよ〜」

 夫のジョンが、あたしを呼んだ。

 彼はあの運命の試合後、罪にさいなまれて、州知事に懇願したと言っていた。でも、あたしが生きていた事を一年後の試合で知り、胸をなでおろしたとか。試合後、あたしに泣きついて来た事は今でも忘れられない。

 日本国籍を持ったアメリカ人、アイーシャ・ヘイズ。あたしは、今ロサンゼルスの平和な光溢れる街並みに囲まれて幸せに暮らしている。皆が残してくれた言葉を噛み締めながら、人間とヒューマノイドが平等な法の下で……


FIN

あたし自身、学生の時バスケットをし、試合を数多くやってきました。個人プレイの多い選手でしたが。そして、今の今でも愛しています。

いつか、バスケ小説を書きたいなと考えておりました。なので、専門用語の多い小説になりましたが、特にバスケを愛してくださる方に読んでいただければ幸いです。

キャラクターに関しては、実際こういうキャラ達がいたら、チームとして楽しいだろうな。何て感じで作り上げました。

アイーシャ。彼女を主人公にしてみたのは、かなり自分でも楽しかったです。紅一点。てのは良いですね。

また違った形でバスケに関係のある物を書ければ良い名と思います。

過去の産物となりえた、アイーシャ以外のキャラ達に愛をこめて、これにて締めくくります。

ここまで読んでいただいて大変ありがとうございました。


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