#12 決勝戦(前半)
決勝戦。それは一時間経過後になる。
あたしが泣き止み落ち着いた頃に、雫達は入って来た。
「アイーシャ?パス遠慮せずに投げろ!お前時々敵を気にし過ぎる時が有るぜ?」
友則が、試合を振り返って言った。あ、成る程。こうやって話を逸らせてるんだと思った。きっと、真辺りが考えて話を切り出したんだと思う。
「ごめん。決勝は気を付けるよ。他に気づいたこと有る?言っておいて!」
あたしは、気遣っている事を念頭に自分を奮い立たせる方向に摩り替えた。その方が、皆も気が楽だろう。
「あとは〜体力が無い!」
それって悪口ですか?雫〜!
「却下!」
思わず噴き出してしまった。
「疲れたら、俺にボールを回せ!ポイントガードの経験が有るの忘れたか?」
雫は仕方ないなと、今度は真剣に言った。
「任せる時が来たら任すよ。多分、次の試合に見合う体力は無いから」
素直に言えた。少しは本音を伝えることも必要。そう言う事だ。
「真は何か無い?」
あたしは、ロッカーにもたれ掛かって話をしている。皆は椅子に座り込んでいた。
「今度は、スリーポイント狙って行きたいから、上手くボール回してくれ」
あ、そうだな。真にボールが集められなかったよ。
「うん。分かった。健二は?」
「お前、シュート打ちたければ打て!後は俺に任せろ」
リバウンド。今度はしっかり取りに行くつもりでいるみたいだった。あの背の高いヒューマノイド相手に。
「取り逃したら、ビンタ一発!覚悟しておいてね〜」
あたしは冗談を言ってのけた。皆笑っていた。良かった。こうして話が出来て。
そんな所に、春樹達が入ってきた。英治、亮、薫、陸。皆、目が真っ赤なのに、晴れやかに笑っていた。
「俺らの分も、決勝戦頑張れよ!」
鼻を擦りながら、英治が一発気合を入れてくれた。春樹は、
「相手はかなり手強い。特に四番は気をつけろ。かなりなプレッシャー掛けてくるから」
アドバイスしてくれた。
「そんじゃ、俺らは着替えて、人間になるよ。で、観客席で観てるな!」
亮がそう言ったら、
「俺達は、人間さ!」
後の、薫と陸が突っ込みを入れた。そして、笑って去って行った。
皆、ありがとう!
「さて、準備するわよ!『南風』〜ファイト!」
「おう!」
勢いのままに、あたしが大声を上げたら、雫達はそれに応えてくれた。そして時間まで、各自ストレッチを行ったのである。
時間が来たあたし達は再び、コートに立つ。
今度は、縦にコートが敷かれていた。一面を堂々と使う様に……そして、光り輝くライトの下にあたし達は整列した。
さっきと風景が違うので、一瞬勘が鈍ってしまったが、その内慣れた。ラインの色が変わっている。こっちがそうかと確かめるように見た。
敵は、高いのは分かっていたが、かなり頑丈そうな体系をしている。「特に四番」と言う事でその選手を見た。まるで、プロレスラーかと思うような体つきだった。ぶつかったら、か弱いあたしはヨレヨレ〜って倒れそう。でも、身長的にはこいつはポイントガードだと直感した。あたしの相手だ。力ではまず負けるのは判る。なら、それを利用させてもらい、上手いことやるしかない!
今、あたしは両親の造り上げて来たヒューマノイドと相対している。と、言う事は、何処かであたしの事を観ていると言う事だ。バレないだろうか?ちょっと心配だったりもする……
審判が一礼を促した。始まる!緊張で胸がバクバク言っている。落ち着けよ〜アイーシャ?自分に言い聞かせた。今はそれしか出来ないのだから!
先取点はあたし達が取った。これは、お得意の作戦。相手の弾いたボールを先に取って速攻を掛ける。この方法は見事決まった。
観客席はまたしてもどよめいた。こう言う方法で点を取るのは珍しい事だろうから。
さてと、問題はここからだ。守らなければならない。あたしは、早速四番をマークした。
来るなら来なさいよ〜止めて見せるから!出だしから闘志が漲っている自分を感じた。四番はそれを気にせずに、一気に突っ込んできた。よっしゃ〜あたしは、その前にはだかった。手を出さずに。すると、四番は、あたしの作戦に引っ掛かってくれた。
「白、四番、オフェンス、チャージング!」
あたしは思いっきり後方に吹き飛ばされ、お尻から倒れこんでいた。痛い。けれど、これで敵はファール一つだ。そして、あたし達の攻撃で始まる。
スローインで、ボールはあたしの手に収まった。さて、どう攻めようか?相手はオールコートのディフェンスで、しつこく付き纏ってくる。四番は特にプレッシャーを掛けてくる。一回離れないと……雫が、敵を振り切り、前方に出て来ている。パスを出したい。あたしはステップバックで、一方後方に引く。見事に引っ掛かってくれた。相手との距離が少し出来た。あたしは、その隙を観て、雫にパスを出すのと同時に、四番を抜いて、敵陣のコートへと走り込んでいた。四番は追いかけてくる。雫は、パスを受け取りドリブルで相手を交わし、前方へと走りこんできた。あたしは少しだけフリー。友則も、敵の五番にフェイクを掛けてフリーになっている。
雫!友則が空いてる!声に出したいが、出来ない。早く、気付いて!そう思った瞬間、雫は、友則にパスを出した。
「よし!」
あたしはかすかな声を出していた。友則に渡ったボールは既に敵陣のゾーン外。
流石に、チェンジして来た六番が友則に付き、五番がすかさず真に付いた。ここで止められた。
ここからが正念場。三十秒ルールがある。早く攻め込まなければ!
友則はピボットで、暫くボールをキープしていたが、苦しくなってドリブルを始めた。敵はゾーンディフェンスに変わる。さてどうしたら良い?背の高さを利用した形でディフェンスが固まるとややこしい。友則は、トップにいるあたしへとボールを回してきた。取り敢えず、真を使ってみるか?
あたしは、右サイドにボールを運ぶ。ディフェンスの重心は右に傾いた。あたしはスクリーンして、スリーポイントライン外にいる真に手渡した。真はすかさず、ジャンプシュートをした。相手は知らないだろう。真の持ち味を。スパンとボールはネットの中に納まった。完璧!真には恐れ入るよ!
これで、五点リードした。
相手のエンドラインからのスローインは、早かった。こっちが喜びでホッと息を付いている間に行われた。しまった!あたしは、四番をマークしなければならない。しかし、四番は既にあたし達のコートへと入り込んでいた。必死で追いかけた。ボールは縦長にポーンと投げられ四番の手に渡っていた。速攻?後ろから追い掛けるが、追い付くことが出来なかった。そして、シュート体勢に持ち込まれていた。しかし、健二が戻っていてくれた。健二なら止められる!そう願っていた。ボールはバシンと弾かれた。そして、転がった。拾わないと!それをカバーしてくれたのが、雫であった。ライン際ギリギリで追い付いていた。そのボールを取り上げると、あたしに渡した。
「ホッとしてるなよ?相手はヒューマノイドだ!」
ボソリと零した。
「悪い!」
あたしは一言返した。雫は聞かない内にさっさと敵陣へと走っていた。それを見てあたしも勢い良く駆け出し、敵コートへとドリブルして行った。
相手は、ゾーンディフェンスに切り替えてきた。先程の失態を挽回する為に、真に七番が付いている。流石、社会人が造ったヒューマノイドだけある。機転が利くプログラミングだ。そしてこの形式はボックスワン。
さてと、どう攻撃すべきか?あたしは、トップでドリブルしていた。健二が何やら目配せしている。何?ゾーン内は危険だ。健二にはボールを入れられない。が、何かを言いたげだった。首をゴールへと向けた。あたしにここから打てって?首を縦に振った。リバウンドは任せろ?って事なのか?ふーん。真ほど腕は無いけれど、やってみますか?ビンタ覚悟しておきなさいよ?
あたしは、スリーポイントラインまで下がると、静かにボールを放った。ボールは、綺麗に回転が掛かり、ゴールへと向かった。入るか?健二は既にスクリーンアウトの体勢に入っている。長い時間が過ぎている気がした。
ボールはリングに当たり、跳ね返った、それをスペースを上手く作っていた健二が取った。健二はそこから直ぐにジャンプシュートした。決まった!これで七点差!
時間はまだまだ有る。出だしは快調だった。
それから、前半残り一分。得点は三十対二十五。取り敢えず、あたし達のチーム『南風』のリードのまま試合は流れていた。相手も、負けてはいなかった。ドンドン攻めてくる。時間が経つにつれて、慣れてきたのであろう。あたし達のチームの動き方と、弱い所を突いてくる。真がプレッシャーに弱い所。健二が背の割りにジャンプ力に欠ける所。友則の繊細さが無い所。あたしの、体力が無い所などをばっちり捉えていた。だから、攻め込む所は決まっていた。真と友則の所。穴が見つかってしまった。だけど、それをカバーしてくれたのは、雫だった。無鉄砲だけど、カバーに入るだけの余裕があった。それで助けられている。八神監督の人選に感謝だ。
さてと、残り少ない前半戦。今二点敵は入れてきた。三点差まで詰め寄られている。ここはやはり五点差に戻しておきたい。皆限界に近い。後半戦に持ち込むには後二点は欲しい所だった。
エンドラインから、雫が投げ入れたボールを引き継ぐ。相手はやはりゾーンディフェンスでいる。ハーフコートまであたしはドリブルで駆け込んだ。
そして、やった事の無い、ダックインで一か八か?切り込んでみた。力で勝てるとは思えないが、どうしても点が欲しかった。
「ピピー!」
敵は、まさかあたしが突っ込んで来るとは予測してなかったらしい。足を動かさず、あたしを腕で止めようとした。あたしは、後方にかなり跳ね飛ばされた。
「白、四番、ディフェンスチャージング!」
審判の声が聞こえた。これで、四番はファール二つだ。後三つで退場。そして、ゲームオーバー!あたしは心の中で呟いた。
スローインから始まった。時間はまだ三十秒ある。友則があたしにボールを集めた。真はしっかりガードされているし、健二はガードを外し切れていない。雫は?あたしは雫を捜した。あいつなら何とかしてくれるかも?
トップから、雫がいる左サイドへと動く。中に入って!雫はそれを汲み取ったのか?一つフェイクを掛けて、健二と摩り替わるように中に入った。あたしは、小さなスペースを見つけた。ここなら!小さなバウンドパスを放り込む。それをカットし切れなかった敵の七番は、後方に手を伸ばした。が、取れずに雫の手の中にボールは納まった。雫は上からかぶさるような高いディフェンスを潜り抜けて、下からレイアップシュートをした。入れ!あたしは心から願った。
リバウンドする為に健二と、真がゴール下へと入り込む。でもその必要は無かった。ボードに当たったボールは綺麗にリングの中へと収まった。
どよめきが、会場内を揺るがせた。まるで、こんなことあり得ないと言った風に。それもそうだ、社会人相手にこういう試合をしている子供なのだから。
ここで、前半戦は終了した。五点差でリードしているあたし達は、ゆっくり控え室へと足を向けた。かなり体力を消耗していて、上手く歩けない。けれど、まだ後半戦が残っている。後二十分。それがどう転ぶか?分からないけれど、全力で当たらなければならないのだ。