~迷い子~ 002話
ゆっくりと重い瞼を起こしたその少女は薄目のまま俯けていた顔を水平の位置まで戻す。
しゃがみながらその顔を覗き込んでいた俺と、眠りから目覚めたばかりのその少女の視線がぶつかる。
あっ、と呆けた声を漏らす俺に対し、少女は目をこれ以上無いくらいに見開いて俺を凝視している。
――綺麗な瞳だな。
濁りの無い翠の髪と同じく、長閑な自然を思わせる澄んだ翠のそれは俺の視線の全てを吸い寄せる。
その姿に見入っている俺とは相反して、目の前の少女は見開いていた目に殺意を宿しその場から左へと勢いよく飛び退いた。
「――うわっ!びっくりした~……」
能天気と思われても仕方無いような場に不釣り合いな俺の発言に、少女は警戒の色を宿した瞳を俺に据える。
完全に俺を敵視しているようだ。
「……あんた誰?奴らの仲間?」
右手をゆっくりと左腰に備え付けられた剣の柄へと近付ける。
柄をグッと握り締め、抜刀の時に響く金属の摩擦音は、戦争もなく平和に暮らしてきた俺を怖じ気付かせるには十分だった。
まるで自ら光を放っているかのような白銀の輝きを放つその細剣、レイピアとも呼べるそれの切っ先を俺へと向けてくる。
「て、敵?いやいや違うって!俺はここで迷子になって……」
慌てふためきながら紡いだ言葉で少女の警戒を解かせられる訳もなく、むしろ見苦しい言い訳として取られたらしい。
少女は更に眉根をひそめて俺を睨み、柄を握った右手を肩の位置まで持ち上げ左手を添える。
切っ先をこちらに向け肩の位置まで柄を上げて刃を水平に構える。
「そんな嘘が私に通用すると思わないで!!」
その敵とやらに何をされたのかは定かではないが、相当印象的な恐怖を身体に植えつけられたのだろう。
身体は微かに小刻みに震え、高く荒げられた叫び声には恐怖の色が見てとれる。
「嘘じゃないって!!俺は本当にここが何処かも――」
分からない、という言葉は半ば強制的に打ち切られた。
弁解始めた時は確かに俺から五メートル程の位置にいた。
更に例え弁解中とはいえ、あんな物騒な鉄の塊を片手にしている少女から目を離す訳がない。
ちゃんと見ていたのだ。
――なのに何で今その少女は俺の顔に髪が掛かるほど接近しているんだ!?
胸元一センチ辺りで止められた切っ先。
怒りに染められた瞳を俺へと向けてその少女は忠告を付け加える。
「……今正直に話したらここでは殺さないであげるわ。またさっきみたいな事を言ったら、今度こそその胸に風穴を空けるわよ」
感情を必死に堪えて言葉を口にしている分、耳に入ってくる言葉の一つ一つに身震いさせるほどの怒気がある。
だが、声が震えているのはどうやら怒気だけでもなさそうだ。
先程の恐怖も何処かへ追いやられた訳ではない、ただこの状況は少女に有利な状況であり、それ故に追いやろうとしているのはひしひしと伝わってくる。




