~迷い子~ 001話
何時の世代からこの樹は光を遮るようになったのだろう。
目の前に高層ビルのようにそびえ立つ樹にそっと手を添えて答えのない疑問に思考を巡らせる。
辺りにはそのような樹々で視界の全てを埋め尽くし、次の樹に移っては自問自答という行動を繰り返している。
つまるところ迷子だ。
現実逃避も加えて。
「……どこだここは……?」
返ってくるわけもない問いを口から漏らすが、当然の如くその言葉は辺りの空気に溶ける。
目が覚めたのは恐らく約3時間程前。
目が覚めた俺は目を見開いて唖然とした。
見覚えのない景色。見覚えのない生物や植物。
見覚えのない服装。
どんな素材でできた服かは分からないが素朴な服装だ。
こんな服装で町中を歩いてりゃ笑いの的だ。
小一時間自問自答した挙げ句得られた成果はゼロ。
何故こんな所にいるのかも、ここに来た経緯も動機も分からない。
記憶を何かの拍子に失ったのか、はたまた本当に何も知らずしてここにいるのかは分からないが、少なくとも俺は地球にいた。
家族もいたし、友達もいた。
それはしっかりと記憶に残っている。
とりあえず羞恥も承知で人混みを目指したのだが……何だここは?
こんだけ歩けば森を抜けれてもいいと思うのだが。
何の代わり映えもなく続く木々が生い茂る空間にいい加減嫌気が差す。
「……空が飛べたらなぁ~……」
この短期間で何度この台詞を呟いたか。
この世界に来た経緯や動機を調べる前に餓死してしまうかもしれない、そんな予感が頭を過る度に首を横に振りその思考を外へと追いやる。
「……ん?何だあれ?」
回りは先程と代わり映えの無い木々。
まるで同じ場所を無限ループしているような錯覚にさえ陥ろうとしていた俺の目に初めてその思慮を消し去る光景が映った。
回りと然程変わらない木の根元に腰を下ろし、幹に背を預けて眠りに付いている少女。
何でこんな所女の子が寝てんだ?
――もしや出口は目前にまで……?
目に見えない出口に途方に暮れながらただひたすらに歩みを進めていた俺はここへ来て初めて安堵の表情を浮かべる。
寝てる人を起こすのは忍びないので、恐る恐るその人に近付き様子を伺う。
歳は俺と同じくらい。つまり16歳に相当近いはずだ。
時折頬を撫でるように吹く風は、その少女の濁りの無い澄んだ翠の髪を小さくなびかせる。
閉じられた瞼に乗る長い睫毛、桜色に染まる潤いのある唇、恐らくすれ違う人々の大半がが思わず目を吸い寄せられてしまう程の可憐な美少女だ。
ただそれだけに服装には違和感を感じざるを得ない。
少女が身に付けるには少し大きめの純白のコートに鮮やかに刻まれた翠の刺繍、そして腰の辺りから除かせる棒。
「……剣!?」
それは漫画等でよく目にする剣の柄に類する。
何者だこの子は……?
日本で剣を腰にぶら下げていたら確実に銃刀法違反だ。
――ここはやっぱり日本じゃないのか?
物騒ながらも少しあどけなさを感じるその少女の姿を見つめていた俺は、その少女の瞼が微かに動いたことにも気付かなかった。




