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Blue Light

作者: 三枝 義輝

最後までできたらよんでください<(_ _)>


調布で開かれたコンテストに出すのが間に合わなかったので、ここで掲載します。


 「僕とつきあってもらえませんか?」


 「はい。」


 この夏は暑かったな・・・・・・ホントに暑かった。



 澄んだ水が流れ、豊かな緑が生茂る深大寺。しかし、深大寺内部での客引き戦争はすさまじきものである。それぞれの店の看板娘が次から次へと店の外に出ては観光客に声をかける。けれども、日々の忙しい板前職業から逃れたかった僕は美しい自然が目当てであったので、店の売り子の女など少しの興味もわかなかった。

 少し進むと人通りの少ない場所に出た。緑が豊かで、鳥の綺麗なさえずりが聞こえてくるほどの自然に囲まれている場所に出た。


 すると、


 1人の老人に出会った。なにやら薔薇を植えているようだ。


 「こんにちは。めずらしい色ですね。」


 「おぉー。いらっしゃい。碧い薔薇をみるのは初めてかね?」


 「はい。素敵な色ですね。」


 その薔薇は見ているだけで生命力が溢れてくるものだった。

 

「これの価値がわかるものはきっとこれから頑張れる。」


 と老人は意味深なセリフを残して薔薇と共に消えてしまった。


「あれ?どうしたのかな?」


きっと日々、店のオヤジさん怒られて疲れているのだと思い、章男はこの観光で多くの自然に触れて疲れをとろうと考えた。そんな時。見た目、20代半ばの女の子が僕に声をかけた。


「いらっしゃいませ!」


 と声が聞こえてきた。


彼女は元気な声で辺り一面に声が通っているのだが、ウグイスが鳴いたのかと思うほど、どことなく上品な声の持ち主だった。



「何にします。うちには盛り、おろし、天ぷらなどなんでもあります。どれにいたしますか?」


「ここで働けませんか?」


「・・・・・・えっ?」


 「ここで働きたいんです!」


 「少々お待ちください。おかあさーん。」


 僕はなんでいきなりそんなことを言ったのか理解できなかった。でもこの人と一緒に働きたいとおもったのは確かなことであり、ここで、動き出さなければいけない気がした。


 少しすると、明らかに病衰しているであろう女性が顔をだした。


 「聞こえているよぉ。敦子。働きたいんだってぇ?いいじゃない。うちは猫の手も借りたいくらいじゃないかぁ。」


 「そうね。おかあさんが言うことなら私は別にかまいません。えーと・・・・・・。」


 「あっ!申し遅れました。章男です。玉井章男です!」


 「では章男さん。いつからはたらいてもらいま・・・・・・。」


 彼女の声が店の窓が割れる音で途切れた。


 「おいおい。女将さんよ~。」


 ガラの悪い男たちが店に押し入り、客の蕎麦を蹴っ飛ばす。


 「ぅうぅうー。」

 と言って、女将さんは地べたに顔を伏せた。

 

 「おかあさん!」

 女将さんのもとに駆け寄る敦子。

 敦子は女将さんを抱きかかえながら、男たちに声をかける。


 「もう。止めてください。母は病気なんです!こんなひどいことなんて、もう止めてください!」


 敦子の必死な声は男たちには届かない・・・・・・。


 「オラオラ。ははははははははは。」

 笑いながら店の中を男たちは荒らしていく。


 喧嘩なんて生まれてから1度もやったことがないがボク。


  だけど・・・・・・


 このままでは初対面の僕を雇ってくれた彼女と女将さんに申し訳なかった・・・・・・。

 

 気がつくと叫んでいた。


 「おい!」


 「なんだお前。いきなり絡んできてんじゃねぇーよ。やっちまえ!!」


 その後の記憶は無かった・・・・・・。


 ふと、気づくと僕は病院のベッドの上で目を覚まし、アザだらけの自分の体を見て自分自身に苛立ちを覚えた。


(くっそ。)


 暗い闇の穴の中に落ちたような顔の敦子が部屋に入ってきた。


 「すいません。敦子さん。僕が不甲斐なくて。」


 「お母さん。死んじゃった・・・・・・。」


 「え?」

 

 耳を疑うような言葉を彼女が僕に対して発した。


 「心筋梗塞で病院に着いた時はもう手遅れだったの。」


 彼女の顔は泣き疲れ、崩れ果てていた。


 「元々、お母さんは病気だったの・・・・・・それなのに! 店を閉めたらいけないと言って大きな手術は受けなかったの。」


 「・・・・・・。」


 「だから、お母さんは、投薬治療でずっと治そうと頑張っていたんだよ。」


 あの連中と自分への怒りで腹の辺りに大きな黒い渦が生まれた気がした。


 「あいつらー!」

 

 握り拳をベッドに突き刺した。

  

 「さっきの連中いたでしょ。アイツらは、深大寺内で幅を利かせている大黒グループのヤツラで、売り上げの悪い私たちの店を潰して、大黒グループの店舗を拡大させようとしているの。ほぼ毎日毎日・・・・・・。」


 「そんな・・・・・・。地主さんには相談しなかったんですか?」


 「地主は動かないわ。大黒グループは地主に大量のお金を納めているから。」


 お金を貰っているから許されるだと、そんなことがこの由緒正しき深大寺の内部でまかり通っているのか・・・・・・。

 


 この自然が美しい神社の中で・・・・・・。






 その2日後、僕は退院した。この2日間、女将さんの御通夜や葬儀で店は閉じていた。


 さすがに、人が1人亡くなっているので大黒グループはこの数日は静かにし、店への責め立ては無かった。


 敦子さんの店に向かう途中、またあの老人に出会った。


 「やぁ。またあったね。」


 「そうですね。えっそれ!」


 老人の足元に闇夜を照らす美しい碧い薔薇が咲き満ちていた。


 「ほほほほ。綺麗じゃろぉ。この花はどんな苦難にも負けない強い花じゃ。いずれお前さんにも必要になるじゃろ。いくらかわけてあげよう。」


 老人から花を両手いっぱいにもらった章男は足元がよろめいた。


 再び、老人の方に視線を移すと足元に咲いていた薔薇と共に姿を消した。


手に抱えた薔薇だけが残った・・・・・・。

 

 店に向かうと電気も付けずに、敦子さんが机に頭をうずめていた。


 「ただいま戻りました・・・・・・」


 「・・・・・・」


 その後ろ姿を見た僕は彼女に何の声をかけることも僕にはできなかった。


 「また来ます。」


 とだけ言い残して、老人に貰った薔薇の1本を花瓶にさして、残りは枯れないように洗面所の水につけてから蕎麦屋を離れた。


 「敦子さん、立ち直ってくれないかな・・・・・・。」


 その晩は風も吹かず、獣の鳴き声も聞こえない、寂しい夜だった。




 翌朝。

 昨日の敦子さんの態度から、少しばかりお店に行きづらかったが、今日は敦子さんを元気づけようと意を決してお店に向かった。


 「章男くん!!」


 店に着いた途端、生気に満ち溢れた顔の敦子さんがそこにいた。手を両に合わせて、


 「えぇ。そうだわ。昨日、章男くんが飾ってくれた花を見て元気がでてきたの!」


 (あの碧い薔薇の花は生気に満ち溢れていたもんなぁ。)


「薔薇は美しかったですよね。ある老人の方にいただいたんですよ。」


 薔薇の話で盛り上がっている最中に郵便が届いた。内容は来月に深大寺蕎麦屋全店でどこが1番おいしいかというものであった。これで優勝すると、うちの蕎麦屋も経営が安定するのではないかということで僕と敦子さんはこのイベントに参加することに決めた。


 元々、僕は板前として働いていたので、蕎麦を作ることには何の造作もないことであったのだ。しかし、大黒グループの職人は蕎麦というジャンルに徹底的な強さを持ち合わせている職人だらけだ。このグループに勝たないと優勝どころか女将さんの仇がとれない。なんとか策を練ろうとこの1ヶ月考えた。試行錯誤の末、蕎麦を作る際にハーブを切り刻んでそば粉に混ぜ合わせると風味が出て、おいしい!という方法にたどり着いた。


 「よし!これで優勝するぞ!」


 敦子さんと2人で修業を積み、とうとうイベントの日になった。


 このイベントは真夏の日に行われていて、色んな意味でぼくにとってアツイと感じられた。


 イベント会場は深大寺内部で行われた。このイベントには10個の店が店舗をだしていた。その中でも私たちの屋台は本堂前に建てることができたのだが隣には大黒グループの屋台が建ててあった。


 「おー。敦子ちゃん綺麗になったね。」


 「ありがとうございます・・・・・・」


 大黒グループの会長が声をかけてきた。


 「今日は正々堂々勝負しようね。」


 ニンマリとした不気味な笑みを浮かべてその場を去った。


 「今日は絶対勝とうね!」


敦子の眼光は大黒グループの旗を睨みつぶしていた。


 「女将さんのためにもこの大会でなんとか結果を出そう!」


 (そうだ・・・・・・そうだ)僕がなんとかしなきゃいけないという言葉を頭の中で反復させた。


 「あっ!」


 敦子が屋台裏に行ったときに事件は起きていた。


 気づくと屋台の中のダンボール箱に入れておいた僕たちの隠し味のハーブが泥だらけになり、使い物にならなくなっていた。


 「くそ!ヤツラだ・・・・・・。」


 顔を手で抑えて膝から崩れる敦子。


 「いったいどすれば・・・・・・。」


 ふと本堂の中を見上げると例の老人が立っていた。


 言葉は発しないが負けるなと言っているのが老人の碧い眼光からひしひしと伝わった。


(そうだ!薔薇を使おう。) 


僕は走った。


 「章男くん!! 」

 

 僕たちの蕎麦屋まで僕はひたすら走った。今度はあの老人からいただいた薔薇を持って敦子さんのもとへ走った。


そして、僕はこの夏をただただ走った・・・・・・。



 屋台に着くと敦子さんが水場でハーブの泥を泣きながら洗っていた。


 「グス。ううぅぅ・・・・・・。」

 

敦子はさっきまでは洗っていたハーブを今度は破り始めた。

 

 「くそ。くそ。くそ・・・・・・。」


 章男が狂い散った敦子を後ろから抱く。


 「もういいから。もう・・・・・・。」


振り返って敦子は言葉をだす。


 「章男くん・・・だって、私たち負けたじゃない。」


 その時の敦子は肩をワナワナ震わせていた。


 「これを使おうと思って。」


 「え?コレって・・・・・・薔薇?」


 「そうだよ。僕もよくは解らないんだけど、この薔薇には人に力を与えてくれる。闇夜を割く、碧い光のように・・・・・・。」


 「そうだね・・・やろう!」


 僕と敦子は屋台に戻り、再び士気を高めた。


 ハーブをそば粉に練りこんでいたのと同じ要領ですり潰した状態にして碧い薔薇の花びらをそば粉に練りこんだ。この蕎麦は綺麗な碧色がかっており、生きるという想い(生命力に似たもの)がにじみ出ていた。


 「はい!お待ち!」


 蕎麦を食べた審査員は目の色が変わったのがはっきりとわかった。


 「これは・・・・・・。」

 「うまい。」

 「食べたことがないぞ。」

 「ウマイネコレハ。」


 間違いなし。という表情で審査員皆が顔を見合わせた。


10人いた審査員が一人5点ずつ持ち点があるといったルールだった。

審査員全員が5点の札を挙げた。僕たちのお店は満点の50点を採ることができた。


結果、僕たちはこのイベントで優勝することができた。


「天国のおかあさんも見ているかな。」


「みてるさ。だって・・・・・・。」


本堂を見上げると例の老人と女将さんが笑ってこちらを眺めていた。


(そっかぁ、女将さんにはかなわねーな。)


「え。どうしたの?」


と敦子は不思議そうな顔で僕を見つめる。


 「何でもないよ。」


 「秘密はよくないなー。」


 敦子は不満げに僕を見るがその目はなにやら僕は誘っているようだった。


(この娘にも、かなわねーのか。)


 僕はこの家族にはどうやらこの家族に完全に負かされてしまった。


「僕とつきあってもらえませんか?」


「はい。」


10年後、この店は全国の観光地の中でも名が知れていて、全国各地から客が来る店となった。この店にくる客は元気が無い人がほとんどだったが来る人は皆、イキイキして帰っていく。生まれ変わったかのように。


 碧い薔薇が咲き、闇夜を照らす店が調布にはある。この店の名前はブルーライト。

最後まで読んでいただきありがとうございます。ご覧いただいた方は感想ください<(_ _)>

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