第六話
ウィザードはもう既に、城の目の前まで来ていた。
彼の視界は、おおよそ鉄素材で作られたであろう城門で一杯になっていた。その景色に彼は凝視した眼を離せなかった。
この世のものが行ったとは思えないほどの大穴がぽっかりと顔を見せていた。頑丈に築造された城門を貫通し、それは城壁をも貫き、そろそろ日が沈み行く空が裕に見えていた。
数日前に彼自身を襲った者の仕業だとウィザードは確信するほかなかった。
足の進むほうへと向かった。さらに近づくと荒んだ光景はさらにひどくなって彼の瞳に映った。
足を止め、ほぼ原形のない鉄門をまじまじと見つめてみる。焦げが非常に進み、酸化していた。多少時間は経っているようだ。城壁の方にも目を移す。どちらも素材や強度、関係なく同じように焼け焦げていた。熱で溶け始めているところさえある。それに加えて、鉄棒も所々の城壁から突き出ている。周りを見渡すも人影も、動物の死骸すら見当たらない。
それだけでなく、そこら一帯には吐き気が襲うほどの死臭や鬼気が充満していた。ここに滞在しているのはまずいとウィザードはすばやく判断した。やがて夜が訪れ、闇がこの場を支配した時、何が起こってもおかしくない雰囲気だった。
ウィザードは向き直り、来た道をそそくさと引き返そうとした。
その時だった。
背中にぞっと悪寒がはしった。今までに感じたこともない冷気だ。血筋が一瞬凍りついた。すぐさま振り向く。真丸に開いた風穴のおかげで、空は見渡しやすかった。
夕闇に染まる空に見覚えのある蒼白いシルエットが浮かんでいた。間違いなくあの竜だった。そのとき彼は自分自身を死神だと思ったことは胸の奥底にしまいこんでおいた。ウィザードにはまるで気付かないように小さき竜は彼が元来た路を飛び去っていった。
「――これはまずいことになった……」
すぐさままだ滅ぼされていない我が都に帰還しなければ、という思いを募らせた。そして重い足腰を無理やり引っ張り、もう既に遠のいている蒼い影を追いかけながら、全速力で走った。空の化け物には手も足も出ないスピードであったが、無我夢中で走るしかなかった。周りの荒んだ景色もあれほど嫌った異臭ももはや彼の感覚には届かなかった。