第五話
焼け焦げた街や王都は酷い異臭を放っていた。鼻を劈くようなその臭いは鎧を覆ったその顔でも、強打を受けたような強い刺激が襲ってきた。
さすがのウィザードでもこの任務だけは早々に終わらせて、さっさと帰還してしまおうと思ったほどだ。
辺りを見回すと酷い光景だった。建物たちは全壊し、地面という地面は全て焼き払われ黒々と焦げ付きがびっしり覆い隠していた。まばらではあるが人体の死骸も見受けられた。ほとんどが焼き捨てられた街の人々の中で原形を保っていたものは少数しかいなかった。
それらに近づくだけでも、人死体特有の異臭が鼻を襲った。事件が起きてから結構時間も経過しているのだろう。人骨が所々の皮膚を貫通し、痛々しく外気に突起している。眼はもはや腐った卵のようにドロドロと溶け出していた。
あまりの気持ちの悪さに途中吐き出しそうになるのを必死に堪えながら、ウィザードは特に傷が深い王都に向かって歩み続けた。
ここまでの道程、かなりの距離は歩いただろう。だいぶ背負った刀身が軽く感じてきた。足腰も相当自然に鍛えられたはずだ。今ならば、楽にとは言わないが、両手でもしっかりとこの大剣を支えられるだろうとしみじみ感じた。だが、重いものには変わりはなく、足には相当の負担が掛かっていた。ここずっと休憩はしていないが、この物凄い死臭の中、立ち止まる気も起こらず、機械のように歩き続けた。
比較的被害が軽い建物が目の前に現れようとしていた。王都だった。意外だった。最も害が及んでいるだろうと思っていた都は、さすがに他に比べて強度は高いようだ。
もうしばらく歩くと、王宮が近づいてきた。ちょうど正面玄関が見えるほどの距離だ。
そこに来てウィザードはピタリと立ち止まった。異臭はもはや気にもならなかった。ただ呆然とその元々は風格があったであろう正面入口を見据えていた。
「なんだこれは……」
ぽかんとする中、自然と頭の中で描いた言葉が飛び出してきた。彼は兜を取ってさらにその光景を凝視する他なかった。