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第二話

両者の目は非常に殺気に満ちていた。だが、男はまだ少しこの状況が掴めないでいた。それもその筈、突然襲ってきた物体が、遥か彼の地で存在していると噂される竜で、なぜそれがこんなところに存在し、自身を狙っているのか。

 男は意に介したようだが、一時それを断ち切り、無理やり大剣を持ち上げた。ほんの少しだが、それは軽く感じた。だがそれだけで十分だ、少なくとも今は。第一このような格好をし始める時から、死は覚悟のうえだと自分自身に強く叩き込んだ。今もそれは破っていない。この状況で自らの剣が重いなどとは言っていられないのである。

 しばらく鬼気を放ちながらこちらの様子を窺っていた蒼白の竜は、一旦その場を飛び低飛行でこちらに向かって突進してきた。男に辿りつく瞬間竜は喉を唸らせ、体色に似合わぬ真っ赤に染まった炎を吐き出してきた。それを後ろに飛んでかわすも地面に燃え移った竜の吐瀉としゃ物はそこら一帯に炎の壁を作り出した。それによって男の動きも少なからず限定されることとなってしまった。

 竜の追撃は続いている。炎を吐きながら突進した来たものだから、炎に気を取られた男は反応が遅れ追撃に間に合わなかった。まして全身鎧を覆い、先程まで持ち上げるのにも苦労していた大剣を持って俊敏に動き回れるわけもなかった。彼も人間である。

 竜が目の前に来た刹那、何とか体を仰け反らせるも、どこぞの部分が確実に鳩尾みぞおちに入った。溢れんばかりの血が口から地面に流れ落ちる。それと共にとんでもない吐き気が襲った。すぐに崩れ落ちた。意識がとびそうだった。そうなればそれまでだ。何とか耐え抜いただけでもまだいい。鎧がなければ即死だったかもしれない。この場は自分の反応と、鎧の強度を何度も褒めぬいた。

 竜は男がもがいているのを他所に未だ空中を飛び回り、ぎろりとこちらを睨みつけ、それを確認した後、その場を優雅に旋回し、再度こちらに向かってきた。

 それを見た男はフラフラと剣を杖に立ち上がり、竜を睨み返した。微弱に震える手を気合いで抑えつけ、大剣を腰の辺りまで持ち上げた。外界に晒されていない彼の眼は死んではいない。

 お互いがお互いの殺気を物ともせず、正面を切った。

 その刹那、男の目の前にはもう竜の牙が迫ってきていた。人間一匹まるまる飲み込めそうなその口が男を襲った。

 男は自らの剣の刃を寝かせるように前方に突き出した。それと竜が衝突した瞬間、男の腕に凄まじい衝撃が走った。腕が捥げそうになる程の重圧が脳、精神ともに伝達され、再び吐き気が襲いそうになった。必死にそれに耐え抜き、地面に足を踏ん張らせた。

 それでも竜のパワーには耐え切れず吹っ飛ばされてしまった。手を放した自分の剣をよそに後方の岩壁に背中から直撃した。

「ぐぁぁ……」

 どろりとした液体が口の中に溢れてきたのが分かった。抑えきれず咄嗟にそれを吐き出す。地の表面に赤い染みができた。

 尚も、一直線に男に突っ込んでくる竜に対し男は地面に尻餅をついて沈んでいた。頭ではわかっていても体がそれを抑制していた。

 眼前ももはやぼやけてきていた。最後に竜を確認したのは、自分の鎧に覆われた体を岩盤もろとも噛み砕こうとしている場面であった。もうすでに彼の眼、体では竜自体にはついていけなかったのだ。

 鎧は何とか耐え抜いていた。だが時間にも限りがあった。音を立てて砕けそうな鎧の悲鳴が体に響き渡った。

 だが彼の眼はまだ死んではいなかった。震える手を必死に自分の腰辺りまで伸ばす。いつも装着している鋭利なナイフにその手は何とか届いた。今残っている渾身の力でそれを竜の大きな眼に突き刺した。震える手にしては上出来だった。

 それは奥深くまで抉り、ぬめっとした液体がそこから噴出した。悶える竜は男から牙を放し大きく後ろに退避した。

 出血は少量。だが、その化け物を追い払うのには充分だった。

 竜は怒り、痛み、憎悪などを交錯させながら、空の彼方に消えていった。


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