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詩 理科室に忘れ物をしてしまった

作者: WAIai
掲載日:2026/06/20

「理科室について来て」


私が思いつめたように言うと、彼が子どもと接するように、優しく言ってくる。


「どうした?」

「それが、その…」


私は指をもじもじさせてから、意を決して言う。


「忘れ物をしてしまって。それを取りに行きたいの」

「忘れ物? 何を忘れたんだ?」

「黄色いマーカー。人に貸して、そのまま忘れちゃったのよ」

「誰だ、そいつ。文句を言ってやる」


彼がそう言い、席から立ち上がったので、私は慌てる。

殴り合いの喧嘩にでもなったら、彼がボコボコにするに決まっている。

加害者になるのだけは、避けなければならなかった。


「大丈夫。取りに行けばいいだけの話だし」


両手を前に出し、落ち着かせるようとすると、彼が「ちっ」と舌打ちする。


止めないほうが良かったかなと少し思ったが、彼が訴えられるようなことはしたくなかった。


私は彼の腕をぽんぽんと叩く。

凶暴な馬を宥めるようにし、それから恥ずかしそうに言う。


「理科室って、何か怖くて。ほら、ホルマリン漬けとか人体模型とかあるでしょう? 何か出てきそうで怖いのよ」

「そうなのか?」

彼は笑わずに聞いてくれ、私はほっとする。

ようやく彼の怒りがおさまったようで、手を繋いでくる。


「よっしゃ。一緒に行ってやるか」

「ありがとう」


私は心から礼を言うと、一緒に教室を後にする。

ランチタイムなので、皆、楽しそうにすれ違っていく。


私といえば、彼がいるとしても、どうも緊張してしまう。

霊感があるわけではないのだが、ぞわりとするのだ。


「着いたぞ」


彼はそう言い、先に入る。

理科室はしんとしており、冷たい雰囲気を感じる。


早く教室に戻ろうと、私は焦る。そんな私に対し、彼は怖がらせないように言う。


「どこの席だ?」

「えっとね…。あ、そこの席だわ」


彼を引っ張る形で席に行き、机の上を探してみる。

しかしどこにもマーカーはない。


「そんな…!! どうしよう」

「待て。よく探してみろ」


彼に諦めるなど言われ、私はうなずく。

机の上が駄目なら、机の下かと屈むと、彼がいきなり止めてくる。


「ちょっと待った!! 俺が探す」

「え…? 何で?」

「いいから。手を離すぞ」


彼は私と交代に机の下を探してくれる。


どうか、ありますように。


祈っていると、彼が明るい声を出す。


「あったぞ!! これか?」

「そう、それ!! どこにあったの?」

「机の端のほう。あって良かったな」


彼が笑いかけてくれ、机の下から出てくる。

私はマーカーを受け取り、嬉しさから背伸びして、彼の頬にキスをする。


彼はびっくりしたようだが、私は誰もいないので、知らん顔した。


「その、お礼だから」


一言だけ告げると、時計を見つめる。

そろそろ教室に戻ったほうが良さそうだった。


「早く戻ろう?」

「おう。もう理科室は怖くないだろう?」


彼が頬を染めたまま、言ってくる。

私は「うん」と答えると、手を繋ぐ。


「良かった、見つかって」

「もう失くすなよ?」


2人の足取りは軽く、教室に向かったのだった。



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