死化粧殺人事件 2
探偵。私はそう呼ばれる職業に就いていた。
きっかけはただ楽しかったから。難解な事件の真相をパズルのように解くのが、私の生きがいだった。
周りも私のことを必要としていたし、そういう物なんだと思いながら仕事に打ち込んだ。
でも……秘密を解かれて嬉しい人なんて、一人も居なかった。
某警察署 会議室
そこには、どこか緊張した顔つきのミハヤが教科書の朗読をするかのように上司にたいして事件の状況を説明する。
事件は高速道路で起こった。ナンバープレートのない車の中の後部座席で顔のない3人の遺体は薬物によって殺されていた。3人は鋭利な刃物で口から上の皮膚を引っ剥がされており、なぜそのようなことをしたのかは不明。
「で、被害者の身元は割れたの?」
「いえ…なにしろ損害が酷かったので…女の子ということしかわかりません。」
「…じゃあ、その車を運転していたっていう女性については?」
この事件で運転していたのは女性である。
ミハヤが発見してた時は気絶していたが、その女性を車から下ろそうとした時に目を覚ました。
ポケットから車のキーとは別の鍵が見つかったが139という文字と世良と書かれたこと以外、不明。
「実はまだ何も…今、取り調べ室で事情を聞いていますが、何も覚えていないの一点張りで…」
「はぁ…」
興味なさそうに聞かれたあとにため息をつかれる。
この時はまだいいが、機嫌が本当に悪い時の彼女の口の悪さは胃に悪い。
「まぁいい。さっさと取り調べ室の女性から話を聞いてきて。」
「わ…分かりました。」
この場から離れられるありがたさをかみしめ、取り調べ室に向かう。
「やぁ、ミハヤ。その顔、またクルスに何か面倒なことを言われたね?」
「えぇ…まぁ。尋問は今どうなってますか?」
「見てみるといいよ。僕も今見る所だから。」
彼、リクト刑事はミハヤの3つ上の先輩である。
刑事にしては覇気がなく、プライドとは縁がなさそうな見た目をしているので、並んでいる2人はミハヤの方が先輩に見える。
しかし、刑事としては優秀で出世のライバルからは嫌われているが、それ以外からはかなり慕われている。
ミハヤも慕ってる内の一人だ。
取り調べ室では2人の刑事がこれ以上言う事がないという困り果てた顔をしてなんとか情報を引き出そうと女性に詰め寄っていた。
「だから、何も覚えていないなんて嘘をつかないでくれ!君はあの車を運転していたんだろ?それでなにも知らないわけないだろ!」
「ですから何度も言いました。私は何も覚えていないんです…!」
「あんたねぇ…」
女性の印象歳は20代前半。かなり若々しい印象を与え、綺麗な顔立ちをしている。
しかし、かれこれ1時間くらい続く取り調べにより疲れた顔をしていた。
「や、お疲れさま。交代しよう後は僕達がやっておくよ。」
「リクト刑事。お疲れ様です。では、これで」
そう言うと2人の内1人、ミハヤと同期で出世争いに負けたやつがミハヤの耳元に顔を寄せ
「期待してるぜ。まぐれで出世したお前があざやかに取り調べをする所をな」
正直こういったことも慣れていたが、さっきクルスさんからの件もあったため口を開く。
「感謝するよ。こういった部下の嫌味を聞くのも……上司の役目だな…」
「……あ?」
「ササヤマ!行くぞ」
「……ちっ!」
二人が出ていったことでリクト刑事が俺に捜査資料を渡してくる。
そこには、俺が事件の写真が3枚。3人の遺体写真だ。
その1枚には、ユーリや、他の車も写り込んでしまっている。
急ぎすぎたな。
次から落ち着こう。
「こいつで彼女を取り調べしてみてよ。」
「俺がですか?」
「君しかいないじゃない。」
先輩の命令なら聞くしかないな。
女性の向かいの席に座り、捜査資料の写真を見せる。
「あぁ…君は、この写真の人物に心当たりは…」
そう言うと、彼女は何かを思い出したをような希望をもった顔をして
「H総合病院です!」
「は?」
「BH病院!なんで忘れてたんだろう…いや、今でもほとんど覚えてないんですが、そこからあの車で移動しました…!」
なんなんだ……今までほとんど口を聞かなかったのに、突然べらべらと喋りはじめた。
もしかして、リクト刑事…あの写真さっき取り調べしたやつらに渡してなかったな!?
「なぜ、車の少女達を運んだんだ?何か理由がはるはずだろ?」
「それは……すいません。覚えてなくて……運転していたのは覚えてるんですが…その他のことは……」
「………っ!」
くっそ!なんなんだこの女!思い出したかと思えば急に忘れやがって…!これが仕事じゃなければ、今すぐぶん殴って吐き出させる所だ!
「もういいですよ。分かりました。」
リクト刑事が間に入り、俺の怒りを忘れさせる。
「ミハヤ。僕がもう少し色々聞くから、君は病院を調べるんだ。
取り調べ開始10分。全国取り調べ速さランキングで記録が残るくらいの速さで俺は席を立った。
「あ……」
「え?」
今この女が何か言った気がするが気のせいだろうと無視する。その声は何かを訴えるようにも聞こえた。
警察署を出ると、車の中で制服に着替えたユーリが頭を抱えていた。
「う〜ん。」
「どうした?」
「なんか私…頭痛いんだけど。風邪じゃないしな…」
酒飲んだからだろとは言わない…言っても無駄だから。
「さぁな。今からお前を家まで送って俺は仕事に戻るから、そこで休めよ。」
「そうだね。」
車の中でラジオをつける。その内容は今日起こった事件について流れていた。
さっき家に送るとは言ったが家には寄らない。あいつが必要だからな。
「しかし、被害者はロリータ服で、顔が無いか。かわいい服着ても顔がないんじゃ、色々台無だね。」
「そういった趣味なのかもな。女の子に服を着せて……ってこんな話するわけにいかないだろ。」
「ってか兄さんさっきドレスって!流石にあれはない!」
「うるさいな。」
「ハハハ!」
「くっそ…おっとユーリ。すまんな今お前を送ると、かなり遅くなっちまう。病院までいいか?」
「いいよ。適当に待ってるから。」
この苦しい言い訳もいったいいつまで続くのやら…
「今、院長はいらっしゃいません。お引き取りください。」
「そんなこと言われましても…」
看護師というのは昔っから好かなかった。職人気質ってイメージがあって、あまり良い印象もない。
これのせいで更に嫌いになったよ。
BH病院というのはこの街の片隅にある、かなり規模の大きい病院だ。
10年前の旧病棟の隣に建てられたものでかなり新しく
建物だけで、ここなら治療を任せられるという安心感がある。
「ここが殺人の手掛かりなのかもしれないんです。どうか……ん?」
病院の、入院棟入り口から2人の見覚えのある男性が歩いてくる。
「ちっ…なんだよなにも無いじゃねぇか。」
「ササヤマ?なんでここに!」
俺の呼びかけを無視してササヤマは、今話している受付にカッコつけながら話しかける。
「いやー捜査のご協力ありがとうございます。おかげでいい情報が手に入りましたよ!」
「そうですか。またいらしてください。」
どういうことかと見てみるとその看護師の手にはお札が数枚握られている
その後ササヤマは俺の方を見て…
「………へっ!」
ササヤマを見送った後、気まずそう看護師は
「あの……見ていかれますか?」
「はい…」
「とは言ってもな…こんなだだっ広い所、俺一人じゃなぁ…」
あの女性と鍵について色々聞いてみたが、ここ勤務で知ってるやつは今の所いない。ユーリにも手伝わせているが、まだなんとも…。
「なんなんだろうな…この鍵。」
「あら?ちょっとあんた。」
「え?」
「それ、旧病棟の鍵でしょ?」
俺に話しかけてきたのは、この道30年はいきそうなおばあちゃん看護師だ。
「ほんとですか?なら、この女性は?」
「?その女性は知らないけど、その鍵は知ってるよ。」
「あそこに勤務してた時は良かったよ…男にモテテ、
看護もやりやすくて。今じゃ、機械が難しくて、給料が減ってしまいそうよ。」
「あぁ…この世良という苗字は?」
「え?あぁ…それはね、少し前に勤務していた医者のことよ。」
「医者?」
「なんかやばいやつでさ、近寄りたくないし、近寄ってほしくない雰囲気があって…あそこで勤務してた時も、なんか黒い噂もあったのよ。」
「はぁ…噂とは?」
「なんか、人体実験してたーとか、臓器売買してるーとかそんなやつ。まっ…結局そんなことなかったけど。」
「ありがとうございます。」
ユーリを見つけ、一緒に旧病棟の方に足を運ぶ。立ち入り禁止と言う割には、通りやすかった。
「ねぇ、兄さん。私なんで手伝わされてんの?」
「人手が足りないんだ。最近、突入部隊との訓練が行れるーとかいうニュース見たろ?」
「あぁ…なんとかってやつ…」
一文字も分かってないじゃないか。
「それで、ベテランの刑事とかが勉強会みたいなのをして、出張してるんだ。」
だから、あそこから出てきたのもササヤマ一人だけなんだ。
「それで…」
中はかなり薄暗かった。電気も一応ついてはいたが、弱々しい。あのおばさん看護師から教えてもらった世良の部屋を見つけ鍵をあける。
「特になんの変哲のない部屋ね。」
「あぁ…よく分からん医療の書類、薬。それだけだな。」
「すまんな。こんな手伝い」
ファイルを持ちながらユーリは、答える。
「あぁ…いいよ。小遣い貰えればね。」
「現金なやつ…」
「ハハハ。この歳でタダ働きは嫌だからね……」
ファイルが落ちる音がする。
「聞きたいんだが…今、君はなんの事件をやっているのかな?」
あぁ…始まった。タイミングは分からない。原因も分からない。ただ一つわかることはこいつはユーリじゃない。
「お前か…」
「さっさと話してくれないか?僕が解決してあげよう。」
そう…こいつは探偵。
そして、俺の出世道具だ。




