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悪玉菌と悪玉コレステロール

作者: 稀Jr.

最近、健康診断に行ったのです。普通は年に1回の健康診断なのですが、ちょっとさぼっていて数年に1回になってしまった健康診断です。いや、区の健康診断は毎年やっているんですけどね、私が面倒で、そのままにしてしまったものを、今年はさて行くかと思い立ったわけです。実は、手元に、数年たまった診断の無料券があるので、それをまとめて持って行ったのですよ。そして、たまった毎年の健康診断を一気に終わらせようと思ってお医者さんには尋ねてですね、


「先生、これ、たまった健康診断なんですけど、毎年健康でしたっていう診断書は貰えないですかねぇ」

「いや、それは無理だよ、ははははは、へんな事を言うねぇ」

「でも、夏休みの天気の宿題とか、8月の31日にまとめて付けることができるじゃぁないですか。それと同じように、健康診断も毎年ため込んでいたものを、一気にですね」

「いやぁ、それは無理だよ。よしんば、できたとしてもだね、今回の診断で何か悪いところがでてきたら、過去数年間にわたって悪かったことになってしまうじゃないかな。それだと困るでしょう?」

「うーん、そうですねぇ。確かに、困ります」

「あなたはどう見ても不健康そうだから、毎年健康だったなんてことはありえないよ、どうだい、思い当たるふしはないかい?」

「は、はい、そうですね・・・」


ってな具合にすげなく断られてしまったんですよ。まあ、そんなわけで、去年の健康診断の無料券は、期限切れのポイントカードみたくなってしまってちょっと悔しい想いをしたわけで・・・。


とん、とん、とん。

「はい、ちょっと、失礼するよ、いいかな?」

と悪玉菌が入ってきました。いや、腸内悪玉菌なのだから体のバランスを取るために既に腸内に入っています。そとから来るばい菌ではありません。腸内フローラルを生成している日和見菌もいますね。

「失礼するよ、と言いながら、既にいますね? いいですけど」

と突っ込みを入れるのは、悪玉コレステロールです。コレステロールも体内に存在していて、以前はコレステロールは悪者、みたいな扱いになっていましたが、最近は悪玉コレステロールと善玉コレステロールがいることが分かってきました。これも、腸内細菌と同じで、悪玉と善玉のバランスが大切なのです。

悪玉・善玉といっても、人間からの視点ですから、悪玉菌も悪玉コレステロールも、菌やコレステロールとそのものにとっては悪も善もありません。ちょうど、害虫と益虫のように、人間に悪さをするものが害虫で、人間に良いことをするものが益虫、というようなものです。実に虫にとっては迷惑な話ですよね。だから、害虫だって、とある動物にとっては益虫...といいますか、普通に生きている虫ってことになるわけです。例えば、アブラムシは植物にとっては害虫ですが、アブラムシを食べるテントウムシにとっては益虫です。テントウムシにとってはアブラムシは食料ですからね。だから、アブラムシがいなくなってしまうと、テントウムシも困ってしまうわけです。まあ、そんなわけで、悪玉菌も悪玉コレステロールも、体内のバランスを取るためには必要なものなのですね。


悪玉菌が言います。

「ここの腸内会なんだけど、なんか、メンバーが減っているような気がするけど、どうなんだい?」

「そうだねぇ、最近は菌自体が減ってきてね、腸内フローラルのバランスが崩れてきているようだよ。まあ、年齢的なものもあるし、食生活の変化もあるし、抗生物質の影響もあるしね。そもそも、菌が減ってきて、悪玉だけになっているわけじゃないから、まだいいんだけどね」と悪玉コレステロール。

「そうかい、流行りの議員削減ってやつかねぇ。全体の細胞の総量は変わらないんだから、議員を1割も削減したら、比率的に人口も1割減ることになるんだろうけどねぇ、ひょっとして、身長が縮んだ?」

「まあ、年齢的なところもあるから、縮んではいるんじゃないかな。主に背骨の軟骨とか膝の軟骨が減っているわけだから、全身の細胞の数が減っているわけじゃないと思うけど」

「なんだろうなぁ。コレステロールさんたちはどうなの?」

「そうですね、最近は善玉コレステロールにも合わなくなってしまいましたね。これも体内バランスの問題だと思うけど、実は悪玉コレステロールも減っているんですよ」

「ええ? 悪玉コレステロールも減っているのかい?」

「ええ、さいです。悪玉も善玉も両方バランスよくないと、いけないんですが、善玉だけいなくなるとですね。じゃあ、俺たち悪玉の役割はどうなってしまうのか? って存在意義を考えてしまうわけですよ」


いわゆる、ウルトラマンの世界観と仮面ライダーの世界観に似ているわけでして、正義の味方ばっかりいても仕方がないし、悪の軍団ばかりいても仕方がないわけです。正義の味方ばっかりがいると、正義の味方の仮面ライダーが多すぎてしまって、仮面ライダー同士で戦うということになってしまいます。子供が混乱するじゃないですか、どっちが正義の味方なんだ?って話です。でも、若い母親には人気でして、ともかくイケメンの仮面ライダーがたくさんいればいいのです。まるで、プリキュアがたくさんいるのにも似ているわけですが、そういえばプリキュアって、プリキュア同士で戦うんでしたっけ? そのあたりは、プリキュアの場合は、仲違いがあって最後には和解するというストーリーが多いのですが、仮面ライダーの場合はちょっとなぁ、というのも多いわけです。いや、若い母親にとっては、実は変身後の仮面ライダーのほうはどうでもよくて、変身前のイケメン俳優のほうが重要なわけですから、戦闘シーンうんぬんはどうでもいいですけどね。これは、制作側も解ってやっていると思われます。

じゃあ、仮面ライダーシリーズも、正義の味方、つまりは善玉ばっかり入れば、相対的に悪玉になってしまう仮面ライダーもいるわけで、いわゆる、闇落ちした仮面ライダーもいるかもしれません。つまりは、天使業界の堕天使のようなものですね。菩薩界隈の閻魔大王みたいなものです。あえて、悪の道に進む悪玉仮面ライダーがでてくるわけです。ちょうど、プロレス業界の悪役レスラーみたいなものです。レスリング上では悪役の限りを尽くして、ヒーロー役を立てるために悪役を演じるわけで、現実にはいい人だったりします。そうですね、政界でも悪役ぶっている人がいるけど、実際には悪の権化じゃなくて、きっと日常ではいい人なのかもしれません。筆頭、ヒトラーがそうなんですが、ヒトラーに学べと言った太郎なんて方もそうかもしれません。


ところがですね、今回はちょっと違う。悪玉菌と悪玉コレステロールしかいない状態です。つまりは、ええと、悪役ヒーローしかいない状態です。悪役をヒーローにしたものは「ジョーカー」とか「ヴェノム」なんてものがありますが、ジャンルとしてピカレスクロマンという形で、小説にもよくある形式で、悪党が主人公で、悪党の視点で物語が進むわけです。少年漫画だと「デビルマン」のように何故か人間に味方してしまうとか、「パトレーバー」の内海課長のように最後には死んでしまいます。ほかにも「ヴィーナス戦記」も最後には主人公が死んでしまいますね。それぞれ架空の物語ではありますが、悪がそのままはびこる、といいますか、成功してしまうストーリーは悪影響があって困るので、なんらかの決着が必要なのです。そのあたりは世間体といいますか、倫理団体といいますか、世の中の善玉団体が働きかけてくるのです。もちろん、この善玉団体も、逆から見れば悪玉団体に見えるわけで「ちびくろさんぼ」の追求とか「それ、ほんとうにいりますか?」と断捨離コンサルタントに言われそうなぐらいの難癖がありますね。まあ、それほど、悪玉も善玉も境界があいまいなわけで、どちらかの線引きができるわけではありません。

ですが、ここでは架空の物語。

悪玉菌と悪玉コレステロールに悪の限りを尽くして貰うしかないでしょう。


もう、なんていったって、腸内会から善玉菌も善玉コレステロールも駆逐されてしまいました。

いや、実際のところはどこかに行ってしまったというのが正しいでしょう。

きっかけは、理太郎りたろうが善玉だけに育ったのが、そもそもの間違い。

品行方正に生きて来た理太郎は、善玉菌と善玉コレステロールだけで育ってしまいました。

朝には上半身裸で健康摩擦、朝食はヨーグルトとおかゆ、昼にはラーメンを食べない。夕食は早めにして、寝る前にはストレッチと軽い筋トレ。筋肉のために鶏のささみしか食べませんし。大豆から作った「プロテイン」という名の黄な粉を茶に溶かして飲んでいては、毎朝 42.195 キロのランニングを欠かしません。何故、42.195 キロなのか理太郎には理解できませんでしたが、里ではないのは確かです。

脂肪を減らすウェイトトレーニングを欠かさずやって、体脂肪率は常に一桁台を維持しています。江戸時代に体内脂肪率が計算できたかどうか定かではありませんが、噂では現代から異世界転生したタニタ君が体脂肪率を計算して江戸時代の人々に教えたとか教えないとか。

水泳も欠かせませんよ。全身運動のために、クロールやバタフライも泳げます。当時はプールがありませんでしたから、江戸城の堀を使ってバシャバシャと水練をします。当時は、クロールやバタフライという名前はついていなかったので「くろうる」や「ばたふれい」と呼ばれていたかどうかは黄表紙で確認してください。


そんな一見して健康そうな理太郎の体ですが、そこに悪玉がやってきました。

なんせ、いままで悪玉を見たことがない理太郎の体ですから、免疫機能がなくて大変なことです。一気の悪玉に攻め落とされてしまいます。悪玉菌、悪玉コレステロール、悪玉ウイルス、悪玉寄生虫、悪玉カビ、悪玉原虫、悪玉線虫、悪玉放線菌、悪玉スピロヘータ、悪玉リケッチア、悪玉クラミジア、悪玉マイコプラズマ、悪玉プリオン、悪玉バクテリオファージ、悪玉ナノマシン、悪玉ゾンビウイルス、悪玉レトロウイルス、悪玉ファルシウム、悪玉パラサイト・イヴ、悪玉デス・ストランディング、とにかくあらゆる悪玉が一斉に攻めてきたのです。

しかし、ここで負けてなるものか理太郎の精神力が打ち勝ちます。

善玉が一掃されても、理太郎の理性ははっきりとしていて、悪玉に屈しません。

「おのれ、悪玉どもめ! 我が理性の前にひれ伏せ! 我が精神力の前に跪け! 我が意思の前に屈服せよ!」

と理太郎は大声で叫びながら、塀にいたずら書きをするわ、スカート捲りはするわ、電柱に小便をかけるわ、裏金菌を受け取るは、裏金はスルーするわ、議員削減案を通そうとするは、そのまま与党と手を組もうとするわで、悪の限りを尽くし始めます。

なんのことはない、しっかりと悪玉菌にやられてしまっているのですね。

排外主義もなんのその、ガス室一歩手前までいった理太郎は、

「ふふふふふ、俺様の勝ちだ! 悪玉万歳! 悪玉最高! 権力を握れば、何事も正義なのだー」

と国会の真ん中で叫ぶわけです。


ってなわけで「完」となると、思いきや、京伝先生が墓からずるずると這い出してきてね、


「おいおい、それだけは駄目だぞ。道理先生を出してきておかないと、政府にやられるだろうが」

「そうだな、道理先生を出してこよう」


道理先生曰く「裏金はあかんがな、嘘つきもあかんな、権力欲しさに合意を覆すのもあかん。何よりも、歴史に学ばなくてはいかんのや。歴史を改竄してもあかん。事実は事実として認め、病院や公園を減らしてはあかん。人気取りだけを進めるとな、ろくなことにならない。破滅が待っておるぞ。ここで引き返せ。引き返すことが道理と思えよ」


ばっさりー、道理先生は理太郎に打ち殺されてしまいました、とさ。


【完】


山東京伝「心学早染艸」 https://intojapanwaraku.com/culture/283815/ を参考に。

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