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"名のない英雄"  作者: 莉月 暁星
【 名前 】
38/39

第38話.

 

 “何もないのに、この世の全てのものが存在する”


 そんな矛盾した感覚があった。


 光を反射しない。


 光を吸収し尽くすような黒曜石。


 真闇の石で形成された神殿は、まさにブラックホールだ、と。


 例えるならそれが一番あっている。


 そう思わされた。




 ここは世界の狭間に沈んだ神殿。


 だからこそ、空間の裂け目を生み出すことができるのだろう。


 それを利用して、僕は碧を助ける。


 その意志を胸に、僕は神殿を進んだ。




 崩れた黒曜の柱。


 なぜだが生成された暗黒のクリスタル。


 “運命の断片”―――それを、僕は初めて見た。


 少し歩いて、神殿の中心にあるもっとも神聖な部屋へとたどり着く。


 外観よりも一回り小さい四角い部屋。


 巨大で荘厳な神の像が、そこにあった。


 神像の瞳に埋め込まれたブルーサファイアの深い青に吸い込まれそうになる。


 それを目にした途端、誰かが僕に語りかけた。



『 代償を捧げよ 』



 その言葉が、僕の脳内で反響する。


 この一言だけじゃ何を言いたいのか分からない。


 きっと、それが普通だと思う。


 けど、僕はこの一言だけでも理解してしまったんだ。


 誰かの声の言う“代償”が、僕と碧2人にとって1番大切な思い出のことだということを。





 ―――理解したくなかった。


 いつかはこの瞬間(思い出の喪失)がくると決まっていた。


 僕がタコスファミリーと冒険に出たあの瞬間には、もう決まっていた。


 それはわかっていたはずなのに。


 現実を受け入れられない。


 辺りの闇が僕を覆い隠す。



 “碧を助けたい”



 けれど、同時に



 “碧との思い出を失いたくない”



 そんな思いもあった。


 もし神様がいるなら、お茶目で、お転婆で、意地悪なところがあって―――そんな人なんだろう。


 なんて考える。


「 ッ、 」


 息をするのも苦しかった。


 けど、僕は“碧を助けたかった”からここまできたんだ。


 と、その強い意思を思い出す。


 大きく息を吸って、吐く。


 その行為を繰り返した。



「 …代償は、______ 」


 ついに覚悟を決めて口を開く。


 そう口にした途端、視界中が眩い光に包まれていた。


















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