第32話.
後ろから、僕が穴に飛び下りるのを止めようとした声が聞こえたような気がする。
だけれど、僕の“碧を助けたい”という思いに勝るものはないから。
目の前の穴へ落ちる。
瞬間、今まで感じたことのないような浮遊感が僕を包んだ。
「 ッ、 」
初めての感覚に、恐怖を覚える。
けど、少し上を見上げれば、僕と一緒に穴へ落ちてきてくれたみんながいる。
だから、僕はひとりじゃない。
そう思うと少し気が楽になった。
フワッ
と、羽が舞い落ちるように着地する。
そこには、角柱を積み重ねたような四角い石のオブジェがあった。
不思議に思ってそれを眺めてみる。
すると、誰かにズボンの裾を引っ張られた。
「 オイッ!! 危ねぇだろ、先に進むのはもっと慎重にやれ! 」
「 えっ、あっ、ごめん…。気をつけるよ 」
僕が危機感もなしに穴へ飛び込んだのが、相当気に入らなかったらしい。
後から来たたこきれからのお叱りを受けた。
「 素直じゃないね。1番心配してたのに 」
「 …そうなの? 」
珍しく饒舌なたこすん。
そのことに驚くも、その内容の方に気を取られる。
たこきれの目をじっと見つめると、少ししてから目をそらされてしまった。
自意識過剰かもしれない。
けれどたこきれのその様子が、照れ隠しをしているようにしか見えなくて。
なんだか嬉しくて、胸がいっぱいになった。
溢れる嬉しさを抑える。
僕は今、とても幸せそうな顔をしているのだろうな。
そう思いながら、小さな笑みをこぼした。




