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俺のターン、相手のカードを破壊するたびに幼なじみの恥ずかしい秘密が一つずつ暴露されるR

※この作品は、2017年に投稿した短編のリライト版です。

設定・描写などを現在の文体に合わせて大幅に加筆修正しています。

原作はこちら → https://ncode.syosetu.com/n2381du/

 今、俺たちの学校では、あるカードゲームが爆発的に流行っている。


 名前は『アドヴァンスド・ディープ・ヴァイタル』――通称ADV。  直訳すれば 「進化した深層生命力」……みたいな意味らしいが、正直、意味はよく分からない。


 でも、このゲームが面白いことだけは確かだ。 教室で、廊下で、昼休みになれば至るところでカードバトルが始まる。ADVはもはや、うちの学校の“第二の授業”みたいなものだった。


 うちの学校は“思考投影型学習”が導入された先進モデル校のひとつで、 授業はすべて脳内チップと連動して行われる。 教科内容は思考空間に直接投影され、生徒は脳内操作でノートの記録や課題提出をこなす。


――というのも、今の時代、生まれてすぐに“脳内チップ”を埋め込むのが当たり前になっていて、

このチップがVRやAR、思考操作デバイスとの連携に使われているのだ。


 ADVもそのチップを使った“体感型カードゲーム”。 視界全体に仮想空間を展開し、実際にカードを召喚したり戦わせたりできる超人気コンテンツだ。


 ただ――。 このチップ、実は誰でも持ってるわけじゃない。 金銭的な事情でチップを埋め込めなかった子も、クラスには何人かいる。 そういう子たちは、VR対応の授業は“簡易モニター”で参加したり、 ADVが始まると静かに席を立って“図書室”という謎の空間に向かったりしている。


 教師たちは平等だと言ってるけど、実際にはチップ組と非チップ組の間に、見えない壁がある。 チップを持っている俺たちには、その“図書室”がどんな場所なのか、正直よくわからない。 ただ、そこへ向かう彼らの背中は、どこか遠く見えて。 誰も表立っては言わないけど、俺はそれを少しだけ気にしてる。


――とはいえ。 今日も昼休みのチャイムが鳴れば、そんな壁も忘れるくらいに教室が沸き立つ。 ADVバトルの時間だ。


「ケータ! 今日は私と勝負してよっ。昨日のリベンジ!」


「ん〜? お前、昨日もボコられたのにもう忘れたのか?」


「ふふん、今日は新デッキだから! マジで負けないから!」


挑戦状を叩きつけてくるのは、俺の幼なじみ――赤田心音。通称、赤ダコ。 俺は笑って、自分のデッキを机の上に置いた。


「おっ、赤ダコ夫婦のバトル始まるぞー!」


 クラスメイトの颯太が野次を飛ばす。


……その呼び方マジでやめてほしい。 否定しても逆効果ってわかったから最近はスルーしてるけど。


 その一言で教室の空気が一変。ぞろぞろと野次馬たちが集まってくる。


「……ま、いいか。んじゃ、やるか」


「うん! いっくよーっ!」


「「ゲーム・スタート! バトルフィールド、オープン!!」」


俺たちの声と同時に、教室が一瞬で変化する。

背景が切り替わり、草原のバトルフィールドが現れた。


「今日のフィールドは草原か〜」

誰かがそんなことを言うのが聞こえた。


「じゃあ、私のターン! カード・オープン! フィールドに『丸トカゲ』三体を召喚! 全員でアタックーっ!」


いきなり全力かよ。

俺のライフが3点削られる。けど、これはむしろチャンスだ。


「……ターンエンド!」


 心音がドヤ顔でターンを終える。


「じゃあ俺のターン! ドロー、ドロー、追加でドロー。

『ダブルヒキガエル』召喚! 効果発動、さらにドロー! ……『岩ガメ』きた! アタック! 特殊効果で相手のカード使用封印!」


 完全に俺のペースだ。


「甘いっ!! 私のターンっ! 丸トカゲをデッキに戻してコスト回復! 禁断魔法――召喚、『国語辞典』!! ケータにダイレクトアタック!!」


「は? なにそれ……うわっ!?」


 突然フィールドに現れたのは、見たことのない分厚い四角い物体だった。 全体がやけに重そうで、カバーの表面には金色の文字でこう書かれている。


《KOKUGOJITEN》


「……じ、辞典……? それ、なんだよ……?」


 俺が思わず呟くと、心音は得意げに笑った。


「ネットで調べたらね、百年以上前に“人間が情報を紙に印刷して保存してた”っていう文化があったんだって!」


「……え、紙? えっ、あの物理的に破れたり燃えたりするやつ?」


「そうそう! しかもこれ、辞典っていう“情報のかたまり”を全部冊子化してたんだって! “現物”があれば超レア! 禁断魔法カードの素材にぴったりって言われてたの!」


 そう言うなり、心音はその“古代の情報塊”を俺に向かって――投げた。


「うわ、ちょっ……ぐはあぁっ!!」


 ずしん、と腹に衝撃。 思ってたより重い! 硬い! 物理!! 俺は膝から崩れ落ち、床に手をつく。


「フフン、どう? 知識の塊って、案外重たいでしょ?」


「いや……武器じゃねぇか、これ……」


 俺が腹をさすりながら呻くと、心音はテーブルにどかっと腰かけて、満足そうに語り始めた。


「ねぇ、聞きたい? これ、どうやって手に入れたか」


「……聞いてあげるから、ちょっと黙っててくれ。お腹痛い……」


「実はね、このカード――いや、この本体自体! 夢桜市の骨董市で見つけたんだよ!」


「骨董市……?」


「うん、週末におばあちゃんち行ったときに連れてってもらったんだけど、そこで“人類が知識を紙に印刷してた時代の本物”っておじいちゃんが売っててさ!」


「……そのおじいちゃん、絶対ヤバいやつだろ」


「しかもね? 最初は“これ、どうやって使うんですか?”って聞いたの! そしたら、“使い方じゃなくて重さを感じろ”って言われて! もうそれ、絶対バトル用じゃん!?って思って!」


「バトル用じゃねえよ!!」


「それで即買いしたんだけど、重くて持ち帰るの大変だった~。でも頑張ってデータ化してADVに登録したの! どう? 偉いでしょ? 私、超努力型ヒロイン!」


「自称すんな……というか登録できんのかよ、それ……」


「ふふっ、ADVってほら、カードの内容はチップに個人登録されてれば反映されるじゃん? 本はスキャンして、そのまま“知識の物理塊”として申請したら通っちゃった! やっぱり運営もロマンに弱いんだよねぇ〜」


「運営、なんとかしてくれ……」


「くっ、俺のターン……最終奥義発動。カード破壊魔法『悪魔の囁き』ッ! スキルカードが出るまでドロー無制限ッ! さらに、スキルを引くたびに相手のカードを一枚破棄ッ! 加えて、『岩ガメ』の特殊効果で……破棄するたびに、相手の恥ずかしい秘密が一つ暴露されるッッ!!」


「はぁっ!? ちょ、それ説明聞いてない!!」


「ドロー! ……スキルカード! 心音は七歳までオネショしてましたー!」


「ぎゃーーっ!!」


「ドロー! ……スキルカード! 家ではいつもパンツ一丁!」


「ちょ、やめてぇぇぇ!」

「ドロー! ……スキルカード! 幼馴染のケータと十歳まで一緒にお風呂入ってた――って、それ俺じゃねーか!!」


「ば、ばかーーーっ!!」


「ドロー! ……スキルカード! 心音は幼馴染のケータのことが、す――」


「わあああぁぁぁ!! それ以上はダメーーッ!!」


 突然、俺のほうがダメージを受けた。精神的に。 顔を真っ赤にして俯く心音。 ……え、なに今の。ちょ、どういう意味だ?


「……この勝負、なかったことにしないか?」


 俺がそう言うと、心音は顔を真っ赤にしたまま、ちょこんと頷いた。


「……うん。ありがと……」


 その声がいつもより小さくて、やけに胸に残った。


 俺はそっと彼女の顔を見た。心音はまだ顔を伏せたまま、耳まで真っ赤だ。


 あの“暴露”……最初は冗談かと思ったけど。 あの顔、あの沈黙。 ……もしかして、あれって本気だったのか?


 そう思った途端、胸の奥がざわついた。 じわじわと、何かが込み上げてくる。


「……さっきのカードのこと、俺、聞かなかったことにするから」


「……でも、忘れなくても、いいよ。少しだけ……嬉しかったから」


 小さな声で、でも確かにそう言った心音の表情は、どこかいつもの明るさと違っていて。 俺はその顔を直視できなくて、思わず窓のほうを向いた。


「ったく……ズルいよな、お前」

ぽつりとこぼしたその言葉に、心音が小さく笑った。


 教室中から「赤ダコ夫婦〜!」の野次が飛んでくるけど、今日はなぜかムカつかなかった。 むしろ――ちょっと、悪くない。


「心音」


「なに?」


「……また勝負、しようぜ」


「ふふっ、次は本気出しちゃうからね!」


 そう言って笑う彼女の横顔に、少しだけドキッとしてしまった俺は、今度こそ誤魔化さずにちゃんと目を見た。


――俺たちは、たぶん、ちょっとずつ変わり始めてる。

そんな昼休みだった。


「……じゃあ、最後。私のターンだよ」


「へっ? なに急に――」


 心音が、すっと顔を近づけてくる。 その距離はあまりに突然で、頭が真っ白になる。


「ちょっ……おま……」


 言葉をさえぎるように、心音の唇が、俺の頬にふれた。


 それは軽くて、あったかくて、でも確かに“攻撃”だった。


「はいっ、私の勝ちー♪」


 満面の笑みでそう言う心音を前に、俺は完全に言葉を失った。


「……反則だろ、それ……」


  顔が熱い。 ライフが残ってたはずなのに、今のでゼロになった気がした。




――――おしまい――――



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