第一話 光の裏に立つ影
主役の名前は、誰もが覚えてる。
でも――その隣にいた脇役のことを、君は覚えてるだろうか?
これは、誰にも気づかれなかった脇役の、最後の語り。
ほんの少しだけ、耳を貸してくれ。
ねえ、君は知ってる?
物語には主役と脇役がいるって、よく言うけどさ。
じゃあ、“脇役”のことを、最後まで覚えてた人はどれくらいいた?
──昔、俺は勇者パーティの一員だった。
そう言えば聞こえはいい。でも、実際はただの飾りだ。
戦えないし、癒せないし、魔法も撃てない。
ただ、人数合わせで、そこにいた。
それが“レク・シュタール”という人間だった。
あの日もそうだった。
王都での凱旋。
民衆は「カイン!」「我らが勇者!」と声を張り上げていた。
隣にいた俺の名を呼ぶ者は、ひとりもいなかった。
宴が開かれた。
金色のシャンデリアが輝く中、仲間たちは楽しそうに笑っていた。
聖女ミリアも、賢者ジークも、盗賊ライナも。
みんな、カインの周りに集まってた。
俺? 俺は隅で、スープを啜ってたよ。
誰にも呼ばれず、誰にも話しかけられず。
でも、笑ってた。そういう“役”だったから。
……今思えば、あのときからだったのかもしれない。
俺の中に、主役になりたいっていう毒が染み始めたのは。
勇者カインは、完璧だった。
強くて、優しくて、眩しくて――
憎たらしいくらい、誰からも好かれていた。
夜風に当たりに裏庭へ出たとき、ふと思ったんだ。
**俺がいなくなったら、誰か気づくのかな?**って。
……バカみたいな話だろ?
でも、その問いの答えを、俺はずっと探してたんだ。
それが、どんな代償を払うことになるのかも知らずにさ。
──そうだ。
これは主役になりたかった脇役の末路を、俺自身が語る物語。
地の底で、すべてを終えたあとに。
誰にも見られることのない舞台の上で。
せめて、俺が俺に語るための、独り語り。
拍手はいらない。
賞賛も、記憶も、もう望まない。
ただ君だけが、
「そんな奴もいたな」って、少しでも覚えててくれたら――
俺の物語は、それで充分だ。
ありがとう。