蒼 七話
『ステータス、確認』
「システムオールブール」
「残弾、問題なし」
「推進剤、95%を維持」
「テイクオフ、問題ありません」
『外部電源、パージ』
「了解、内部電源に切り替え」
「内部電源への切り替え、順調に推移」
狭いコックピットで
私の周囲は光と、電流で覆い尽くされる
画面はけたたましく切り替わり、蒼色に覆い尽くされた
「ふぅ…」
私は、小さくため息を着く
『なんだ、緊張しているのか』
「まぁね…」
スピーカー越しから、おじさんが話しかけてくる
『まあ、仕方のないことだ』
『これが初めての出撃なんだから』
「はは、そうだね」
「一応、コロニーの破片とか、浮遊物の破壊はやってたけどね」
『知っている』
『お前のお陰で、M-16は傷つかずに済んでいる』
『本当に、感謝している』
「え‥?うん‥」
昔の優しいおじさんを垣間見た気がした
セラちゃんに接するような底冷えするような感覚は無い
『もし、危なくなったら逃げても構わんぞ』
『命あっての物種だからな‥』
「仮にもM-16の所長がそんな事言ったら、ダメじゃない?私の命に刺し違えてまでもM-16を守るよ」
『そうか‥』
そんな取り留めのない会話をしていると、とあるランプが光っていた
「内部電源への切り替え、完全に完了」
『よし、安全ロック解除』
「安全ロック、解除」
エンジンを焚き、アクセルを踏み込む
「オチキス=M-24=スターファイター2号機。発進します!」
‥‥‥
‥‥
‥
『遅い!』
「ごめん、ゼラちゃん!遅れた!」
M-16を離れ、宇宙を漂って目標地点にたどり着く
ゼラちゃんの機体は既に地球を向き、こちらへやってくる『影』を厳しく見つめていた
『本当に、模擬訓練をしていて良かったぜ』
『ちょうど、奴がやってくるんだからな!』
『落ち着け、ゼラ。我々のドクトリンは、もはや彼らとの戦闘を放棄している』
『お前に許可されているのは、専守防衛、最低限度の防衛に過ぎない』
おじさんが、ゼラちゃんを諌める
『あぁ‥知っているさ』
戦闘教本にも書いてある
『奴』は、決して自分から人間を攻撃することはない
ただその鋭い眼光で、自分にとって無害であるかを確かめるために、執拗に周囲を旋回しているだけのだ
『安心しろ、M-01から既に新兵器を取り寄せている』
『お前らが奴と戦闘する可能性はほとんどゼロに等しい』
『その兵器は信用できるんだろうな?』
『そうやって新兵器を投入しても、M-17までは滅びたぞ』
『そうだな‥確かに従来の兵器は火力偏重でいささか陳腐化していると言わざるを得なかった』
『それは、M-01も承知していた』
『だからな、この新兵器ではアプローチを変えてみたのだ』
アプローチを変える‥?
どういうことだろう
『だから「あれ」を使うのか』
『そうだ』
『難儀だな』
『‥すまない、長話をしすぎたようだ』
『そろそろ奴が射程圏内に入る』
『了解』
「了解」
「スコープ表示、120mm核魚雷、20mmバルカン砲の発砲許可を求める」
『許可する。但し、その発砲は専守防衛という条件下で制約的に許可されるものとする』
「了解」
『ようやくお出ましだぜ‥悪魔がな‥』
もはや、肉眼で確認出来る距離まで奴が近づく
左右非対称の歪んだ顔、骨と皮の体躯
ところどころに裂傷が起き、皮すらついていない部位もある
それでも身体の動作が可能なのは、奴が物理法則を無視した存在であることが伺われる
最後に、奴の背中に生えている大きな羽
まるで、無秩序に成長したとしか思えない、赤黒く染まった羽は、本能的な恐怖すら感じる
「ひッ‥」
『落ち着け!奴は俺達に敵意は無い!』
‥‥‥
‥‥
‥
「おねぇちゃん、どこいっちゃんだろう?」
「あ、いたいたセラちゃん」
「およ‥?あ、おっきなおねぇちゃん!」
「ねぇ、おっきなおねぇちゃん。おねぇちゃんがどこかに行っちゃったんだけど‥知ってる?」
「彼女は、仕事に行きましたよ」
「貴女にも仕事があります」
「しごと‥?」
「貴女の言葉で言うならば、『使命』です」
「しめい‥そっか。わたしも行かないとなんだね」
「えぇ、残念ながら」
「ねぇおっきなおねぇちゃん、わたしをつれってて」