蒼 五話
「うーん…」
『2056年6月23日、天気は引き続き快晴。地球の平均温度は約21℃を推移しております。』
『今日も一日、有意義な生活を…』
「うるさい!」
流石に耐えかねて、ガチャンとスピーカーの電源を切る
もう少し寝かせて…
寝返りをうつ
‥あれ?
私のベッドって、こんなに狭かったけ?
それになんだかいつもより温かい
薄目を開けて周囲を見渡す
「すぅ‥すぅ‥」
「え‥?え?」
なんで、セラちゃんがいるの?
「すぅ‥うぅん‥」
とっても気持ちよさそうに寝てる
もしかして‥事後だったりするのかな?
「いやいや!」
セラちゃんは確かにいい子だけども!
そんな記憶は一切ない
「うぅん‥どうしたの、おねぇちゃん‥」
「うわッ‥」
起きてしまった
「いやいや、なんでも無いよ!?そのまま寝てていいからね?」
「‥そう?」
「‥ぐぅ」
まだ寝足りなかったのだろうか
目を瞑ると再び夢路についた
「うーん…」
思い出せ…私
なんでこんな自体に…
「あ‥」
‥‥‥
‥‥
‥
8時間前
「チクショーッ!オヤジの奴!」
「まあまあ、ゼラちゃん、落ち着いて…」
「落ち着いてられるか!あのなぁ…無抵抗の女を殴るなんてどうかしてるぜ」
「確かに、おじさんらしくはないよね」
あんなにも幼気な女の子を殴りつける姿は初めて見た
今でも、あの光景が夢ではないかと疑いたくもなる
「いいや、違うね。元々ああだったんだ」
「とんでもないサイコ野郎だ」
ゼラちゃんご立腹…
「もう寝る!じゃあな!」
そう言うと自分の部屋に戻ってしまった
「うーん」
『そうだよ、私がわるいの。私がいけないこで、わるいこだから‥』
セラちゃんが呟いたあのセリフが頭の中で反芻する
あのセリフ…まるで自分がそうであるかのように受け入れてるような言い方だった
おじさんに殴られることも躊躇せず、もはや恐れてもいないように感じた
おじさんもそうだ
ゼラちゃんが言うように『サイコパス』ならば、もう少し表情があっても良い筈
でも、おじさんは完全に無表情で手を下していた
どちらも、何かを演じるように、自分に信じ込ませるように、振る舞っていた
何か、私達の知らないところで2人は確執があるのだろうか…
「うーん…わからぬ」
「私も寝よう」
………
……
…
部屋に戻り、まさに寝床に着こうとしたその時、ドア越しにノックがする
…こんな時間になんだろう
「夜分遅くにすみません」
「えーと…どなたですか?」
澄んだ声で、白衣を纏った女の人が立っていた
「はい、私、M-01から派遣されました、通信・技術・産業省事務次官の者でございます」
「事務次官…?」
「ええ、一応。M-01における省のリーダーらしきものをやっております」
「省のリーダー!?」
ということは…?
この人、こんなに若そうな見た目しといて、実質コロニーのナンバー10以内に入ってるってこと…?
なんなら、M-16の所長してるおじさんよりも立場が上なんじゃないかな
「えーと、事務次官様、私に何か用ですか?何か悪いことしました?」
「まだ死にたくないんですが」
「ふふ‥何を仰るのやら」
「それは内務省の仕事であって私の管轄外ですね」
うぅ‥否定しない所がまた怖い
「それで‥逮捕とか暗殺じゃないなら私に何の用ですか?」
「一応私、善良な市民のつもりなんですけど‥」
「えぇ、知っております。識別番号M-16-4107491、性格は非常におおらかで柔和、他者との関係構築能力に秀でている‥このようなパーソナリティを持っている貴女に依頼したいことがあるのです」
「依頼‥?」
「ほら‥おいで」
「あ、おねぇちゃん」
手招きの先に居たのはなんとセラちゃんだった
「あ、セラちゃん」
「昼間は大丈夫だった?もう痛くない?」
そう言って、頭を撫でる
「えへへ‥だいじょうぶ」
「あの事務次官様、もしかして‥」
「えぇ、ご想像の通りです。M-16所長が貴女にこの子を委ねたいと仰っておりました」
「別に大それたことは要求しておりません。ただ、この子の良き友人になるように‥と」
「それは‥おじさんが言っていたんですか?」
「えぇ、そうですね」
「そうですか‥」
「ねぇおねぇちゃん、もしかして今日は一緒にねるの?」
「うん、そうみたい」
「やったぁー!」
おじさん‥どういうこと?
セラちゃんを殴る割には、この子こと、心配なんだね