蒼 二話
「ん‥」
「もう朝なのぉ‥?」
私は、微睡んだ目を擦り起きる
『2056年6月22日、天気は晴れ、絶好のお洗濯日和でしょう』
『平均気温は19°を推移しており、北緯40°以北での植物が活発となっています』
建物内に響く朝の定時報告がうるさい‥
天気なんてここで言っても意味ないでしょ‥
カーテンを開け、外を見る
目の前には円環のついた地球が見える
‥確かに、雲は無いみたい
「ん‥」
二度寝してもいいけど‥
寝てても何もすることないし
「起きよう」
‥‥‥
‥‥
‥
廊下をとことこと歩く
一面を真っ白に覆われた道は無機質で少し寂しい気もする
たまに開けた窓が見えるんだけど、そこから見える景色は逆に真っ黒
まあ、宇宙だから当然なんだけどね
あ、ちなみに
私がどこを歩いてるかと言うと食堂
『腹は減っては戦はできぬ!』って、昔の偉い人が言ってたらしいけど、納得しちゃった
それに、この建物には娯楽らしい娯楽なんてないしね
「よう」
向かい側から女の子が手を上げて挨拶をしてくる
「あ、ゼラちゃん」
「今から食堂に行くのか?」
「うんそうなの」
「そうか、俺も一緒に言っても良いよな?」
「全然!構わないよ!」
ゼラちゃんは周囲の女の子と比べるとちょっも男勝りなところがある気がするんだよね
一人称は『俺』だし、先生からは『もっとおしとやかにしなさい!」って怒られてたもん
「そういや、オヤジはどこだ?」
「おじさん?うーん知らないよ。私もさっき起きたところだし」
「そうか、残念だ」
「‥?なんか用事でもあったの?」
「いやさ、前の模擬テストでいい点数取れたらチョコバーくれるって言ってたからさ」
「それに、前の実戦でも活躍したし」
「えぇー!?そんな約束してたの?」
「ずるい!ゼラちゃんずるい!」
「ふふ‥それならお前も良い点数を取るんだな」
「うげぇ」
ゼラちゃん、こんなガサツなのに何故か成績はいいんだよね
そのおかげでおじさんから妙に気に入られてるし、ずるいね
‥‥‥
‥‥
‥
食堂
ここの建物の食堂は簡単
ボタン一つで食べ物が出てくるんだ
「うーん。悩むなー」
「今日はメープル味にするか、チーズ味にするか‥」
「おーい、まだか?」
「毎日これで悩んでるけど正直どれも変わらんだろ」
「いやいや!そんなコトはないよ?ここで味をミスると一日のコンディションが崩れるんだから!」
「そんな大袈裟な」
「‥」
「どけ、終わりそうにないから俺が先にやる」
ゼラちゃんは、私を押しのけてボタンを瞬時に押す
「女ならチョコレート味1択だ」
「ゼラちゃんそればっか~」
取り出し口から、食べ物を取る
私達がいつも見慣れている、ブロック状の固形物
食べると口がパサパサして、味も控えめ
そう、『カロリーブランス』!
「あむッ!」
近くの椅子に座るや否や、包装ととって食べ始める
「うまいうまい」
‥確かに美味しそう
「私もチョコレート味にしようかな‥」
「ふっ‥賢明だな」
‥‥‥
‥‥
‥
私はゼラちゃんの向こう側の椅子に座って、ご飯を食べる
‥‥
「‥」
うん、完食
今日もいつもの味
ここまでの時間、5分
「はぁ‥やっぱり合成食糧ってなーんかものたりないよなぁ」
ゼラちゃんがぼやく
「うーん、そうかも」
この『カロリーブランス』はいわゆるスーパーフードというもので一口食べれば、一日の栄養とカロリーが一気にとれるスグレモノらしい
でも‥その代わり‥
「あー、チョコバーが恋しい」
「ふふ‥結局チョコレートが食べたいんだね」
「たりめぇよ。こんなマガイモノじゃなくて、ホンモノのチョコが食べたいんだよ」
「なんたってあれ、カカオとかいう植物が使われてるんだってよ」
「植物?はぇーそりゃ珍しいね」
「おう、本当にな。俺達、基本的にこれしか食べないし」
「クソぉ‥オヤジ何処だよ」
「おじさんを血眼になって探す理由がわかったよ‥」
「あ‥そういや、知ってるか?」
「え?何を?」
つまらなそうに天井に顔を向けていたゼラちゃんが、前かがみになって話す
「ゼラちゃん近い‥」
「お、おう、すまん」
「‥」
「‥オホン、それでだな。前にオヤジから聞いたんだが、なんかここに新人が来るらしいぜ」
「新人?」