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急転とアブナイ執事。


「ふぅ〜……。超・満・足」


「はぁ……どうしましょう。アン様、たまにで結構ですので、シオン様を貸して下さらない?」


「ぇっ!? えっと、あ、あの……」


「う、旨すぎる……。紅茶は正直分かんねぇけど、サンドイッチとお菓子がえげつないレベルなのは俺でも分かったぞ……。ヤベェ、ヤベェよ!? 俺サッカーしか取り柄無いんですけど!?」


「……シオン殿。貴殿は元の世界で、一体どれほど厳しい主人に仕えていたんだ? 王宮の料理人や執事長でも、これほどの食事や茶は用意出来んぞ……」


「そんな大袈裟な……。以前の主人も寛大な方でしたよ。寧ろ、何故かいつもやり過ぎだと怒られてばかりで、仕事を無理矢理減らされる事の方が多かったくらいです」


 思い思いの反応示す客人たちに、アン様と俺は戸惑ったり辟易したりと、アフタヌーンティーだと言うのに無駄に騒がしかった。


「お代わりのご用意は一応ございますが、そろそろ本題に入った方がよろしいのでは? まさかとは思いますが、ディナーまで召し上がっていくつもりですか?」


「え!? 良いのぉ!? シオちぃのディナーとか超楽しみなんですけど!」


「皮肉ですよ……」


 仕切り役のセビア王子まで半ば放心状態になってしまったので、仕方無く俺から本題を促すものの、アホなギャルのせいでまた脱線しかける。何故少しマシな茶を淹れただけでこうなるんだ……。


「っ……!」


 ……と、そんな緩い空気が流れる応接間へ、急接近する複数の気配を感じた。


「お嬢様。失礼致します」


「シ、シオン……?」


 俺はお嬢様の前へ移動し、不測の事態に備える。


「っ、何だ……? 護衛は外で待機を命じていた筈だが……」


 ドタドタ慌ただしい足音が聞こえて来れば、俺だけでなくセビア王子や他の面々も身構える。


 すると、間も無くして扉が無遠慮なノックの音を響かせた。


「殿下!! 緊急事態です! 離宮の周囲に民衆が群がり、抗議の声を上げております!」


 こちらが扉を開けるのも待たず外から聞こえた大声は、昨日セビア王子の側に控えていたルード・べキア近衛騎士団長の物だ。


 俺はクリスに目配せし、扉を開けさせる。昨日とは違い、立派な鎧に大剣を下げたルードが、ガシャガシャと音を立ててセビア王子の前まで歩み寄り、その場にひざまずいた。


「ルード。詳しく説明しろ」


 先程までの呆けた様はどこへやら、セビア王子はいつの間にか表情を引き締め、冷静に事態の説明を促す。


「そ、それが、何者かがこちらにダールベルグ侯爵令嬢とシオン殿が居ることを市民に漏らしたようで……その、集まった民衆は国に災いをもたらす『氷縛の魔女』と『黒き神の使徒』を追放するか……処刑せよ、と」


「「「っ!?」」」


「ちっ……」


 俺はすぐに窓辺に駆け寄り、僅かに隙間が出来る程度にカーテンを開け、外の様子を伺う。……すると、城壁の向こうにおよそ数百人から千人程の民衆が詰めかけ、門扉の前で大声を上げたり罵詈雑言を並べ立てた木の板、元の世界で言うところのプラカードのような物を掲げていた。ある種のデモと言えるだろう。


 腑抜けていたな……。城壁があるからと油断して、外の警戒を怠っていた。これは大きな反省点だ。


「くっ……彼女と使徒召喚の事は口外を禁じていたと言うのに。強硬派は、余程私の邪魔をしたいらしいと見える。それにしても、民衆の扇動までして来るとは。こちらが嫌がる手を良く分かっているな」


「………」


 事態を悟ったセビア王子は、外に集まっている民衆の黒幕が強硬派、グロランス卿等だと既に断定しているようで、皮肉げに口元を歪めている。


「な、何でそんなことになってんだよ!? アンさんとシオンは別に何も悪い事なんてしてねぇだろ!」


「そうだよ! アンちゃみは大人しくて良い子だし、シオちぃなんて私達と一緒に昨日この世界に来たばっかじゃん!」

 

 朱鷺と天音は民衆の声が余程理不尽に感じたようで、正義感に突き動かされるまま思った事を口にする。……庇ってくれるのは有難いが、事はそう単純でも無いだろう。


「トキ様、リリー様。落ち着いて下さい。こちらの世界、と言うより、この国の事情で大変恐縮なのですが、この事態には複雑な訳があるのです」


「「っ??」」


 そんな二人を、フランネル侯爵令嬢が毅然とした、けれど角の無い柔らかい声音で嗜める。


 ……恐らく限られた場以外では存在を隠されて来たお嬢様とは対照的に、彼女は社交と言う名の貴人の戦場に赴くことも多いのだろう。落ち着いた物腰ながら相手に自分の話を聞かせる威厳が、若くして備わっていた。


 百戦錬磨。そんな言葉が頭に浮かぶ程、フランネル・スターチス侯爵令嬢の佇まいは、この緊急事態に於いても泰然自若としていた。


「セビア王子。僭越ながら、使徒の皆様へのご説明は私からしても構わないでしょうか?」


「っ! ……そう、だな。うむ。私は事態の収拾にどう動くか、ルード達と協議する。すまないが、この場はよろしく頼む」


「謹んで承ります」


 自らセビア王子に的確な分担を進言し、命じられる形にすることで体裁を整えたフランネル侯爵令嬢は、その華やかな容姿に違わぬ美しいカーテシーを見せる。やはり、彼女は侮れない御令嬢のようだ。


「聞いていた通り、すまないが、私は一度席を外す。……シオン殿。こちらの世界に来たばかりの貴殿に頼むのは忍びないのだが、トキ殿とリリー殿は、魔法の基礎も教えていない今の段階ではまだ使徒の能力を発揮出来ない。だから、万が一の事があれば……」


「分かっています。この場の護衛はお任せを。少なくとも相手があの聖堂に居た者達程度の力なら、何人来ても問題ありません」


 俺はセビア王子の言葉尻を攫い、要望を聞き終える前に首を縦に振った。どの道此処には、お嬢様が居るのだ。万が一外の民衆が陽動で、本命の敵がこちらを襲撃して来たとしても、問答無用で排除する。


「ははっ、一応、あの時聖堂に集まっていたのは非常事態も鑑みて、魔導士としても一流の者ばかりだったんだが……。まあ良い。頼もしい限りだ。その言葉を信じて、甘えるとしよう。では、私は一旦失礼する」


 空笑いしながらそう言って、セビア王子はルード達を引き連れ応接間を後にした。


「お、おいシオン、お前、どんだけ強いんだよ……? 召喚された時に何か食い違いがあって一暴れした、みたいな話は聞いたけど、王子の信頼っぷりやばくね?」


 朱鷺は若干引きながら、ビクビクと俺の肩を叩く。怯えるくらいなら近づかなければ良いものを。……それにしても、食い違い、か。また上手い事オブラートに包んだ物だ。まあ別に構わない。俺のやることは変わらないからな。


「別に、自分自身は大して強くありませんよ。鍛えても鍛えても、見ての通りの鶏ガラのような身体ですし。プロ相手に素の状態で肉弾戦をしたら、せいぜい十人転がすのがやっとですね。まあ、暗殺ならまた話は別ですが」


 俺は袖を捲って無駄に筋張った前腕を露出させながら、肩を竦める。


「バキバキやないかい! 細いっつーか異様に引き締まってんな……。軽量級のボクサーかよ」


「いやいやいや、十分ヤバいっしょ。可愛い顔してエグいこといきなり言わんで? 頭バグる」


 朱鷺はウロウロしながらイントネーションの怪しい関西弁でいきなりツッコミ、天音は見た事もない真顔で、手をブンブンと顔の前で振っている。別におかしな事など何も言っていないんだが……。


「昨日『荊姫』とは会ったでしょう。簡単に言えば、自分は彼女のような『式神』と、生まれ付き契約しているのです。何でも命令を聞く訳では無いですが、こと戦闘に於いては頼りになるので、ご安心を。どうやらこの世界の『魔法』とも、相性は悪くなさそうですし」


 まあ、荊姫を含め俺の式神は、『陰陽師』が本来使役するそれともまた異なるので、厳密には違うのだが。とは言え、他の呼び方も無いし今説明した所で意味も無い。安心して話を出来る空気になれば、それで良い。


「私は所用にて聖堂ではお目に掛かれませんでしたが、シオン様のお力は聞き及んでおります。護衛を務めて頂けるということであれば、私も安心して皆様にお話が出来ますわ」


 フランネル侯爵令嬢は流石の察しの良さで俺の意図を汲み、自然な流れで本題を切り出す。


「その前に、アン様。もうお気づきかと存じますが、これからお話しする事はアン様のこ事情も含まれます。いずれは皆様知ることになるとは思いますが、今、お話ししても構いませんか?」


「っ……は…はい。申し訳、ありません……。ほ、本来で、あれば、私が、皆様に、お話しする、べき、こと、ですのに……」


 フランネル侯爵令嬢に労るような声音で確認されたお嬢様は、震えながら俯き、いつも以上に言葉を詰まらせながらも、懸命に頷いて見せる。


「お嬢様……ご負担でしたら、別室に行かれますか? この場には式神を残して行きますので」


 俺はお嬢様の側に寄り添い、退室を提案する。話など俺はいつでも聞けるのだ。主人に無理をさせてまで今聞く必要は無い。


 だが、お嬢様は首を横に振った。


「……い、いいえ。わ、私の、お話し、なので」


「お嬢様……かしこまりました。では、気分が悪くなったら、すぐにお申し付け下さい。クリスさん。先ほど教えた、気持ちが安らぐ効能のお茶を淹れて来て頂けますか?」


「へっ!? ちょ、それじゃ私一人になっちゃうじゃないですか!?」


 当たり前のように自分も護衛対象に入っていると思っていたのか……。同じ使用人の立場なのに図々しい奴だな。


「大丈夫ですよ。もう油断はしません。城の外まで含め、今は全方位警戒しています。多少無理はしなければなりませんが、怪しい者が近づけば此処からでも城内に入る前に仕留めます。それに、そもそも貴女は使徒どころか要人ですら無いでしょう。狙われる理由がありません」


「怖っ!? ……い、いやでも、もしかしたらシオン様の警戒をすり抜けて、たまたま私と会っちゃったら人質にされるとか……」


「想像力豊かで結構ですが、貴女に人質の価値なんて無いでしょう。ここに居るのは貴人と神の使徒ですよ? 客観的に見て、天秤にかけるまでもありません」


「その通りだけど正論過ぎて酷いっ!!」


 いつまで駄々を捏ねるんだこの無能は……。まあ良い。この手の馬鹿は恐怖で言うことを聞かすよりも、餌を撒くに限る。


「はぁ……仕方ありませんね。ちゃんとお茶を淹れられたら、今日出したお茶菓子を、またクリスさん用に作って差し上げます」


「!!! ……ほ、本当ですか?」


 クリスは俺の真意を窺うように上目遣いでこちらを見る。その瞳には、期待の色がありありと浮かんでいた。チョロ過ぎだろ。


「ええ。何度も言いますが、安全は保証します。なので、さっさと行って来て下さい」


「くっ、お菓子で釣るなんて、なんと卑怯な……かしこまりましたぁ!!」


 文句は垂れる癖に意気揚々と応接間を出たクリスに、皆揃って何とも言えない目を向ける。


「シオちぃも厳し過ぎる気がするけど、あのメイドさんも大概だね……」


「シオン。一応聞くけど、あの子にまで手出して無いよな?」


「あの子にまでって何ですか……。生まれてこの方、女性に不埒な真似をした事なんてありませんよ」


「「いやいやいや」」


「???」


 ブンブンと首を横に振る朱鷺と天音に、俺は首を傾げる事しか出来ない。実際にそんな記憶は無いし、昨日出会って一日二日で俺の何を知っていると言うのか。


「ふふっ。シオン様は、色々な意味でアブナイ方なのかもしれませんね。ね? アン様?」


「っっ………」


 訳知り顔でフランネル侯爵令嬢がそう問いかけると、何故かアン様は頬を染めて更に俯いた。


「危ない? まあ確かに、物騒だとか危険人物だとかは昔からよく言われますが……」


「「それもそうだけど、そう言う事じゃ無い」」


「仲良いですね貴方たち……」


 イマイチ皆の言いたいことが分からず心当たりを口にして首を傾げるも、無駄に息ぴったりでハモる朱鷺と天音に、にべも無く否定されてしまった。じゃあどういう事なんだ……。


「では、シオン様のお陰で程よく緊張がほぐれましたので、早速本題に移らせて頂きます。まずは、トキ様とリリー様を導かれた『黄金の神』、そしてシオン様を導かれた『黒き神』について、お話しさせて頂きます」



 フランネル侯爵令嬢は微笑んだまま、されど厳かに、そう語り始めた。




そしてまた、説明回が始まる……。さり気なく世界観や背景を入れ込む文章力の無さが恨めしい今日この頃です。そして書き溜めていた所まで全て吐き出してしまった作者は、誰に怒られる訳でも無いのに今とても焦っています。ですが、更新頻度を守ると言う(勝手な)誓いを死守出来るよう頑張ります。


次回は月曜19時より随時更新予定です。

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