霊気
尻尾の鍛錬をして、もう三週間が過ぎた。
だが、未だに霊気を使いこなすには至っていない。
午前の鍛錬を終え、再び狼狩りに向かう。
ネズミや兔じゃもう霊気の上昇を感じ取れないのだ。
狼の群れ相手はまだ厳しい。
はぐれ狼を探す。
「中々いないな……」
森をかき分け進んでいると、ようやく一匹の狼を見つける。
背後から近づいていると、狼が俺の気配を感じ取ったのか走り始めた。
「ばれたか……!」
身体能力が強化されたのもあり、なんとか追いすがる。
もう少しで、追いつく。
そう思った瞬間、背後から殴りかかられる。
「えっ……⁉」
間一髪で躱した俺は、背後を向き尻尾を出す。
そこには何度か見たことのある赤い猿が立っていた。
「キキッ!」
周囲の木々を見渡すと、枝の上に乗っている赤猿が他に四匹居た。
囲まれている。
夢中で追っていたから気付かなかった。
まずいな……。
五匹の猿の中で一匹だけ大きい個体が居る。
おそらくあれが群れの長だろう。
長と目が合った瞬間、俺はぞくりと感じる。
奴は霊気を使える。はっきりと見える訳じゃないけど、奴は何かを纏っている。
他の個体より上だ。
赤猿の長は手に持っている石を、こちらに放ってきた。
その石は当たることなく、俺の少し前の地面に突き刺さる。
凄い速度だ。
当たるとまずい。
俺は槍を構えると、他の猿達が一斉に襲い掛かって来た。
猿の蹴りを俺は尻尾で受け止める。
尻尾なら止められる。
けど、体にくらったらまずい。
俺は尻尾を猿の腕に巻きつけると、そのまま振り回す。
「キキイーーーーー⁉」
パニックになった赤猿をそのまま、別の猿に投げつけると囲いから脱出する。
「キキッ! キキー!」
長の命令を聞き、他の猿が追ってくる。長はこちらをただ静かに見つめていた。
背後から追ってくる猿の方を振り向くと、槍で突きを放つ。
それを猿は簡単に躱すと、勝ち誇ったように笑う。
馬鹿だな……それは囮だよ!
俺は尻尾を猿の首に巻き付けると、そのまま地面に叩きつけた。
首がへし折れる音がする。
その光景に他の猿の動きが止まる。
その隙に俺はもう一匹の猿に全力で突きを放つ。
「キイイイ!」
小さな悲鳴と共に、猿が吹き飛んだ。
よし、今なら!
俺は必死でその場から逃げ去った。
しばらく走るが、追ってくる気配はない。
どうやら逃げきったようだ。
一匹なら勝てるけど、複数なら厳しいな。
赤猿の長は自分が動かないのが不気味だったな。
けど、得るものはあった。
あの時、俺は確かに猿の長から霊気を感じ取った。
あの感覚を忘れないうちに練習しよう。
霊気は体に纏えるのだ。
体を霊気で包むようにイメージする。
だけど、できない。
イメージが悪いのか。
なら、尻尾を霊気で纏うイメージする。
表面を霊気で覆うように。鱗一枚一枚を霊気で包むよう想像する。
できた!
尻尾に触れると、尻尾と指の間に何かを感じる。
霊気で覆うと明らかに硬度が上がっている。
尻尾自体が霊気でてきているのなら、霊気を二重で消費していることになる。
その仮定は当たっていたのか、尻尾は十分も持たずに消えてしまった。
「まだ実践での使用は難しいな。けど、これなら更に威力があがる」
攻撃の瞬間だけ、霊気で覆うことができるならまだ実践で使えるはず。
その後何度も試したが難しく実践で使うには程遠い出来だった。
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