成長
翌日。
俺達は朝から、霊獣の群れを探していた。
「私は決して手を出さない。勝てないなら逃げろ。助けてもらえるとは思わないことだ」
「はい」
森を歩くこと一時間。
ようやく俺はコボルトの群れを見つけた。
前回の二十を優に超える四十近い数の群れだ。
中央には他のコボルトよりも一際大きい個体が見える。
この数を見ても落ち着いている自分が居た。
俺は尻尾と鱗を生み出す。
「ネロはここで待っててね?」
「ガウー……」
心配そうにこちらを見つめるネロの頭を撫でる。
「行ってきます」
俺はネロと師匠にそう言うと、木に登って群れに向かって距離を詰める。
長から狙うか?
だが、時間がかかると、袋叩きに遭うな。
周囲から削るか。
俺は音を立てずに、コボルトの群れの近くの木まで移動すると一気に飛び掛かる。
同時に尻尾をコボルトの首に巻くとそのまま地面に叩きつける。
骨が折れる鈍い音がした。
まずは一匹。
周囲の二匹が俺に気付く。
俺は剣に霊気を纏わせると、右に居る個体の首を貫く。
二匹目。
「ガウッ……!」
もう一匹が剣を振るってきた。
その一撃を剣で受け止めると、すぐさま尻尾で足を払う。
バランスを崩したコボルトの頭部を剣で叩き斬る。
三体目。
だが、これで気付かれたな。
「ガウウウウウ!」
遠くの個体が、侵入者がやってきたことを告げる。
混乱している今がチャンスだな。
俺は近くの集団に斬りこんだ。
一匹のコボルトが槍で突きを放つ。
その槍は俺の足に当たるも、キンッと澄んだ音を出して弾かれる。
よしっ、いける。
こいつら程度の攻撃じゃ俺の鱗は貫けない。
驚いているコボルトの足に尻尾を巻くと、そのまま力任せに振り回す。
そして、そのまま群れに叩きつけた。
「一気に攻める」
俺は周囲のコボルトを斬り裂いた。
激しい攻防が始まった。
だが、今までと一番違うのはその防御力だ。
尻尾の強度からも知っていたが、皮膚を獣化することで安定感が跳ね上がった。
衝撃は勿論受けるが、全身を鎧で包んだような今では、致命傷を喰らうことが大きく減る。
そのおかげで少しは無理な戦い方ができる。
俺は敵の中央に突っ込むと、尻尾で敵の首めがけて突きを放つ。
鈍い音と共に動きが止まる。
その瞬間に、剣で首を切り裂いた。
やはり剣を霊気で覆うと、素手よりの威力が高い。
今まで尻尾以外に有効打がなかったが、これだと随分戦いやすい。
「ガウウウウウウウウウウウウウウアアア!」
一回り大きなコボルトが咆哮と共に、大きな斧での一撃を放った。
剣で受け止めたが、大きく吹き飛ばされた。
「群れの長か。やっぱり他より随分力が違うな」
まともに受けると、力負けするのが今の一合だけで感じ取れた。
全長は三ヤード以上あり、他の個体より明らかに大きい。
鍛え上げられた肉体は簡易的な防具に包まれており、俺と変わらないサイズの斧を持っている。
群れの長は大きな一歩で距離を詰めると、その斧を振り下ろす。
俺は懐に潜り込みかわすと、ジャンプして相手の左脇腹を狙って尻尾を振るう。
その一撃は見事に叩きこまれ、その巨体を軋ませ、揺らす。
「ガウッ!」
だが、致命傷には程遠く、すぐさま反撃に出てきた。
周囲からも部下のコボルトが襲ってくる。
俺はそのうちの一匹を尻尾で掴むと、長にぶつける。
長はそれを鬱陶しそうに左手で弾き飛ばす。
「愛がないね」
まともに殴り合うのは馬鹿だな。邪魔も入るし。
俺は、今度はこちらから距離を詰める。
群れの長は下から振り上げるような一撃を放つ。
それを横っ跳びで躱すと、そのまま群れの長の股を潜り抜ける。
「ガウッ?」
そしてそのまま俺は群れの長の背中に張り付く。
背中を取られた群れの長が暴れはじめた。
だけど、背後に居る小柄な俺をすぐに捕らえることはできない。
すぐさま群れの長の頭まで登ると、俺は思い切りその首を尻尾で締める。
すぐに群れの長の首が鈍い音を立てる。
危険を感じた群れの長が斧を捨て両手で俺を捕まえる。
凄まじい力で俺を剥そうと必死だ。
だが、全身が鱗で包まれた俺の体は強度が上がっており、群れの長の力をもってしても簡単にやられることはない。
「その手を緩めろ!」
俺は霊気を込めた剣を、その首に突き刺した。
それにより、一瞬手の力が緩む。
その隙に一気に俺は尻尾で締め上げる。
骨が砕けた音がした。
力を失った群れの長はそのまま倒れ込む。
仕留めた!
確実に強くなっている。
霊気の扱い方、そして皮膚獣化による安定感が余裕を生んでいる。
群れの長を狩られて、他のコボルトは混乱しているのが見て分かった。
「後は、余裕そうだな」
予想通り、大して苦戦することなく全てを狩り終えた。
全滅させた後、俺は群れの長の霊胞を取りだし、喰らう。
全身が熱くなる。
ああ、この感覚。
全身が、霊気が強化させるこの感覚。
俺はまだまだ強くなれる。
「お疲れ。成長は感じられたか?」
「はい。皮膚獣化の習得を急いだ理由が分かりました」
「だろう? この島だと、怪我をしないことが普通よりも大事になる」
「頭に入れておきます」
「ガウーーーー!」
ネロが心配そうにこっちにやって来ると、俺の顔を舐め始める。
「くすぐったいよ、ネロ」
どうやら心配をかけていたらしい。
ネロはどうやら言葉を理解している節があり、言えばある程度は分かってくれる。
いつかはミラさんのように、念話が使えるようになるのだろうか?
そんなことを思いながら、俺はネロに顔をべたべたにされていた。
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