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第十三話【リンカ王国の隆盛と滅亡:再謁見】〜傾国の鉄宰〜

 これは交渉決裂でしょうか。


 貴賓室に下がって二刻後、再び拝謁したリンカ国王の表情を見た瞬間、私は最悪の結果が近づいている事を確信した。


 主教わたしが霊託を携えてリンカ王国へ赴く事で現状を打開出来ないかとう淡い期待は露と消えた。

 

 お二人が無駄になる様に願った構想は速やかに実行すべき最終局面に入りつつある。


「待たせて済まぬな主教殿」


 穏やかな気品を纏って話し出す国王陛下。だがその瞳の奥底に宿る力強さは先程の謁見時とは比べ物にならない。

 やはり覚悟を決められたか…。


 聖火教の教団内でも知る人間は少ないが私は闇の上級精霊の加護を受けている。


 闇の精霊は別名『死告霊』や『幻視霊』と呼ばれるれ死を連想させる否定的な状況で現れることが多い。

 皆が死への忌避感から距離を取りたがるからか、闇の精霊の加護を持つ者は非常に少ない。


 私が持つ特殊スキル(ギフト)は、その闇系統のスキルの中でも稀なもので相手の感情を読み取る事が出来る。

 ただ感情の起伏や現れ方は人それぞれので読み解くには相応の経験が必要になる。

 リンカ国王は本当の感情を表に出す事は皆無で眼の深奥や声音の端に僅かに漏れ出るだけだ。

烈国や諸外国を巧みな外交手腕で手玉に取る一流の政治家だ。

 教団内では私以外に感情を読み解く事など不可能だろう。


「とんでもございません。速やかにご対応頂き有難く存じます」


 私は情熱と覚悟を眼の深奥に滲ませるリンカ国王に答えた。


「うむ。早速じゃが精霊の案件の報告をさせよう。農政大臣」


「御意。主教様、お初にのお目に掛かります。リンカ王国にて農政大臣を務めております……」


 それまでの曖昧なリンカ王国の対応が嘘の様に簡潔明瞭な大臣の話は続いた。 

 精霊事案の中から隠蔽が難しい広範囲な事案、聖火教(我ら)が把握している案件のみを抽出した様な回答である。

 回答は詳細な精査がされており、リンカ王国が精霊の事案をどれ程注視して来たかが分かる。

 併せて聖火教を含め諸外国の動向にも細心の注意を払っている事も感じ取れた。

 それでも尚、魔法白銀(ミスリル)の生産計画を見直さず、強硬な外交姿勢を貫く王国。落とし所は何れにあるのか。


「…以上が農政大臣としての対応です」


 膨大な報告書に殆ど目を落とさずに地名や数値を交えて話し終える農政大臣。

有能で民を思う誠実な人物であることが()()()()()


「大臣殿のお話を聴いただけでも()は差し迫っております。速やかな対応が肝要です。陛下…」


 大臣の話を聞いて早急な対応を促し、尚も言い募ろうとすると。


「主教殿。リンカ王国にて宰相を務めます…」


 宰相殿は感情の起伏が少なく本心が分かりにくい、国王によく似た気配を漂わせるお方だった。

 

 挨拶一つで会話の機先を制される、中々に有能なお方のようだ。


「おや、会話に割り込む様な形になってしまいましたかな?

何分宰相の職を拝命してから日が浅く、無作法は御容赦頂きたい」


 王太子(次代の王)の補佐をする為の経験を積ませるべく先んじて宰相位に就いたと聞いたが既に一角の人物のようだ。


「さて、ここからは宰相(わたくし)から話を進めさせて頂きます。

リンカ王国としても吸血鉱の()()()()が周辺諸国に影響を及ぼしている()()()()()()との認識を首脳陣は共有しております」


 この状況となっても基本姿勢を変える気はないようだ。嘆息を何とか堪える。


「我が国と致しましても周辺国の懸念払拭と精霊様方の安寧の為、吸血鉱海底貯蔵を順次削減致します。

3年以内にミスリル精錬時に全てがレーエルアイゼン中和法を行えるよう直轄の中和所拡大を急進させております」


 今までの王国の対応からすれば格段の前進だが、それでは間に合わない。


「宰相閣下。ご英断だとは思いますが、ことは一刻を争います。

海底貯蔵の即時中止、中和が間に合う範囲でのミスリル精錬への切り替えをお願い致します」


「それは出来ません。現状でミスリルの生産をやめれば瞬く間に我が国は立ち行かなくなってしまう」


 感情を抑えた宰相の言葉からは憂いが漏れ出た。

苦虫の決断なのだろう。

しかしここで話を収める訳にはいかない 。私は尚も言い募る。


「今まで生産したミスリルの収入は膨大な筈です。今生産を止めても周辺諸国への賠償や保証の調整が上手くいけば十分豊かな国家運営ができるはずです。必要とあれば 私達(聖火教)がお力添えを致しますれば」


宰相が視線を強めて言葉を返す。


「周辺諸国との調整は上手くいくことでしょう。聖火教の合力が有れば尚更、成功に疑いはございません…本来で有れば。問題は当事国として顔を出さず暗躍する烈国(者達)です。

聖火教(そちら)もお気付きでしょう」


烈国(そちら)にも大司教から話を進めます。必要とあらば我ら三主教が訪問致しましょう。

ですから吸血鉱の海底貯蔵の即時中止を再考をお願い致します」


おそらくこれが最後の機会だ…自分の語気が強まった自覚はあるが止められない。



「主教殿そなたの鬼気迫る言動…総主教猊下からの【霊託】の内容を聴かねばなるまいな」


 閣僚2人に場を任して沈黙を続けていた国王が口を開いた。


 霊託(それ)は他国の内政に圧力を伴って干渉する内容で、教団の穏健な外交方針と大きく矛盾するものであった。

私は霊託を公開することで、教団の信頼が失われるのではと危惧した。


「主教殿の懸念は分かるつもりだ。

これまでとは比べ物にならないほど強い文言が書かれておるのだろう。

それを持って教団の外交姿勢を非難しようなどとは思ってはおらぬ。

 我等は国の舵を取る者の責任として霊託(その)の内容を知らねばならぬだ」


私を見る3人の視線は強い覚悟と深い憂いを帯びていた。


「承知いたしました」


 初対面でほんの数刻言葉を交わしただけだがリンカ国王は尊敬と信頼に値する人物だと私は評価していた。

 言動も特殊スキル(ギフト)で感じ取った人柄も理想的な為政者だ。

 自分の選択の結果がどうなろうとも責任を放棄する方では無い。


 私は深く頷いて【霊託】の封蠟を解いた。

その瞬間、濃厚な霊気が私自身を包み込んだ。


 精霊は周辺に極端な影響を及ぼすのを嫌う者が多い。

 霊力が強大になる上位の精霊に成るほど力を抑え、隠す事に長けている。

 私を包み込むそれは、ほぼ完璧に力を抑え込み、気配を隠していた。

その気配に気付ける者などこの大陸に何人も居ないだろう。

 

 私が存在に気づけたのではなく、相手がその存在を気づかせたのだろう。

 森を丸ごと一つ隠す力を持ちながら、その香りだけを一箇所に凝縮して鼻先に漂わされたような濃厚な霊気。

それは闇の上級精霊の加護を持つ私にその存在気付かせる為なのだろう。

 

 その香りは濃厚で深い愛情と穏やかな気配を漂わせている。

忘れる訳が無い。全てを失い、死んだ様に生きる私を常闇から救い出して下さった闇の大精霊の霊力(モノ)だ。


 ()()()()()()の漆黒の翼に抱かれ私は安堵した。

 そうか私は恐れていたのだな。

自らの言動がこの国の人々の不幸の始まりとなる事を。


 この歳になっても…なんと人は弱いものか。永遠の安寧を約束するあの方に背中を押されるように、私はリンカ王国の首脳陣に【霊託】(滅びの警告)を告げた。


「滅びの時は近づいております…」









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