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第十一話【リンカ王国の隆盛と滅亡:主教来訪】〜傾国の鉄宰〜

ラルバとブリッズの話に出てきた。

滅びし国の物語です。

 赤竜大陸南東端の国リンカ王国。


 王都マウリ・ピ・シュルは大陸から南に突き出た半島の西の付け根に位置し、大陸沿いの穏やかな海に面した港湾都市として発展してきた。

 

 リンカ国内は南洋性の穏やかで暖かな気候に恵まれ水も豊富。国土の大半を豊かな農地と牧草地が占める農業国家であった。

 その反面商業や貿易に関しては周辺諸国から大きく出遅れていた。

原因は半島の東側の外海で、南西から北東に流れる速い海流の為に外洋貿易や漁業が難しく、リンカ王国の発展を大きく妨げていた。

 そんな不毛地帯と言われた王国北東部部の山岳地帯で世界最大級の魔法白銀(ミスリル)の鉱脈が発見された。


 元々農業国家であるリンカ王国には工業技術者が少なく、その上魔法白銀(ミスリル)の利権を狙う列強諸国の妨害もあり鉱石の精錬後の中和作業は遅々として進まなかった。

 ミスリルの精錬後に残る廃材は吸血鉱と呼ばれ中和をせずに置いておくと周りの魔力を吸い続け人を死に至らしめるという恐ろしい特徴がある。


「中和作業が間に合わないのであれば中和せずに捨ててしまえば良い」


 そんな中で新設された工業大臣は列強国から圧力等もあり焦っていた。

自暴自棄とも思える大臣暴言。

しかしそれを止めるものは誰もいない。

皆がこの国が置かれている状況に危機感を持っていたからだ。


 不毛の外海の必要性を感じる者は為政者だけでなく国民の中にも皆無で廃棄物の外海への投棄はさして問題視されずに始まった。

 吸血鉱の投棄された海は不自然な程に透明度が増した。空を見上げているような錯覚に陥るほど何もなく、生命の気配も全く感じない。

まるで大きな桶の中に浮かんでいるようで気味が悪いと廃棄船の乗組員は口を揃えて語った。


 吸血鉱の投棄はリンカ国内に悪影響を与えず、中和費用も不要で精錬加工に注力出来た為に魔法白銀の増産は加速する。

後に魔法白銀熱狂(ミスリルラッシュ)と呼ばれるそれは国家に空前の好景気を齎した。


 しかし吸血鉱投棄の影響は正に水面下で始まっていた。リンカ王国より東の海域で魚介類の極端な減少が起こったのだ。

魚介類の減少と海水内の魔力の減少は屈強な肉体と魔力持つ魔物にさえも悪影響を与えた。

 ある程度の知性を持った魔物は吸血鉱の影響が少ない外洋のより南へと生息海域を変更した。

結果として外洋の南に強力な魔物が密集。海洋諸国連合の海産物の水揚げ量は激減、逆に魔物による襲撃被害が急増した。


 海洋諸国連合は北は赤竜大陸、南は緑竜大陸に至る、青竜の大海と呼ばれる外洋の西端に浮かぶ大小50以上の島々からなる世界初の諸島連合であった。

 豊富な海産物と熱帯性の野菜を輸出の軸としていたが魚介類の減少や魔物の増加の原因がリンカ王国の吸血鉱の投棄であると突き止めると吸血鉱投棄の即刻停止をリンカ王国に求めたが国王も国民もこれを受け入れる事は無かった。


 海洋諸島連合は吸血鉱投棄の即刻停止に応じないリンカ王国に対して海産物の輸出入の停止やリンカ王国民の入国の停止など苛烈な制裁に踏みきった。

 当初リンカ王国は深刻な食料不足や物資不足に陥った。

しかし間もなくミスリルラッシュで得た巨額の資金を投入したり世界中から集まる商人達の協力を得て大陸西側から物資を陸送する等の大規模交易で食料不足や物資不足を賄うことができた。


 リンカ王国の政治的な孤立は決定的になったが圧倒的なミスリルの産出量と廃棄物にかかる費用の放棄により王国は目覚ましい発展を遂げる。

 ミスリルの過剰な生産は周辺諸国からの交易制裁も招いたが皮肉にも大陸西部とリンカ王国を食料と物資で強く結びつけ東西交易路は商隊で溢れ、大陸随一の賑わいを見せた。


 吸血鉱の海洋投棄が始まって5年が過ぎたある日の事、リンカ国王の下に聖火教からの使いが訪れた。

使者が主教(聖火教の最高位である総主教に次ぐ高位職)ということもあり国王は速やかな謁見を認めた。


「これは主教殿。遠路遥々よくお越し下さいました。歓迎致しますぞ」


「国王陛下におかれましては、お変わりなくお過ごしでしょうか。突然の訪問にも関わらず、このようなご厚情をいただき、誠にありがとうございます」


 その後当たり障りの無い会話が暫し続いたが国王の話から流れが変わる。


「此度は大司教殿は一緒でないのかな?」


「大司教はあくまでもリンカ王国内の布教責任者で御座います。私が此度参じましたのは聖火教の代表としてで御座います。故に私1人での拝謁を願いました」


 主教の言葉に緊張を覚えながらも国王は素知らぬ顔で話を続ける。


「聖火教の代表とな?如何なる用件で?」


「その前にお聞きしたいことがございます。宜しいでしょうか」


「構わん。申されよ」


主教は聖火教の謝意の一礼をしてから話始めた。


「貴国は最近大陸東部からの食料品の輸入が顕著だと聞き及びますが如何なされました」


「主教殿は貿易に興味がお有りですかな? ご存知かも知れませんが我が国と海洋諸国連合との間に不幸な見解の相違がございましてな。不足物資の補完目的で大陸東部との貿易を拡大しております」


「それは拙僧も聞き及んでおります。しかし大陸東部との貿易拡大は5年程前からでごさいましょう。

これは私の言葉が足りませんで申し訳ございません。

私がお聴きしたかったのは、ここ1年程で急増したワインやエール、それに貴国の主食食材である小麦の輸入拡大についてです」


主教の言葉を聞いてリンカ国王の眉根が一瞬歪む。


「中々に優秀な()()()()()()だ。流石ですな。ただ…目的は分からぬが貴殿の物言いは内政干渉にも聞こえるがな」


語気を強める国王に動じず主教は答える。


「陛下それは誤解にございます。聖火教(われら)が気に掛けているのは精霊様の御心です。

 率直に申し上げます。リンカ王国国内におきまして上級精霊様もしくは大精霊様が関わる事案や異常現象はございませんでしょうか」


先程の剣呑さなど無かったかのように好々爺然とした国王が答える。


「どうであったかのぅ。儂も忙しい身ゆえ市井の()()とした事案までは報告も受けぬし、縦しんば報告を受けたところで一々覚えはおらぬ」


 リンカ国王は政治的な孤立を深めながらもギリギリを潜り抜け国家を繁栄へと導く為政者である。軽々には本心を晒しはしない。


 飄々と答えるリンカ王を見やりながら主教は穏やかな口調のまま語りかける。


「国王陛下、聖火教は精霊様の加護と導きを教義としております。故に加護持ちも多く、【精霊の囁き(ささやき)】を聴く者も数多居ります。その中でリンカ国内の水の精霊様が何時になく騒がしいとの報告を受け主教(わたくし)が状況確認に参じた次第です」


主教は穏やかな口調はそのままに視線をに力を込めた。


「総主教猊下から託された()()()もございますので、多忙の折とは存じますが、国王陛下に置かれましては何か思い出されることがございましたら、()()()()頂けませんでしょうか」


「それは総主教様からの託宣と言う事かな?」


「はい。総主教猊下と主教(わたくし)しか扱い得ぬ御言葉です」


主教は聖火教の最高幹部である。

その主教が最高位の総主教の言葉を携え謁見を求めた事の意味は重い。

国王は飄々とした雰囲気をなんとか保ちながら言葉を発する。


「おぉ、そう言えば大臣の1人が内務報告書に精霊様の事案を上げていたような気がするのぅ。

 疲れのせいか、いや齢のせいか最近は物忘れが酷くてな。

早速大臣を参内させて確認させよう。

申し訳ないが二刻程貴賓室にてお待ち頂けるかな」


「貴国の発展は目覚ましく、陛下のお疲れもご尤も御座います。お声が掛かるまで別室にて休ませて頂きます」



貴賓室へ向う主教の背中を睨みながら国王が小姓に告げる。


「宰相と農政大臣に精霊の案件の資料と共に参内するように伝えよ」


「はい。速やかに」


 謁見の間を出た小姓が裏回廊を駆け出す。本来王宮内を走り回ることは許されないが緊急の通達に関わる場合、小姓の疾走は認められていた。

王宮、宮廷内を疾走する小姓の姿は周りの者達に不安な空気を伝播させていった。


繁栄を極めたリンカの空に暗雲が漂い始めた。


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