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まつ毛のせい

作者: 耳

電車に揺られ、気付くと書いていたメモ作品です。

地下鉄を降り地上に出て、ふと見上げた空が空洞だった。

あまりの空洞さに私は慌てて辺りを見渡し、周りの人達の様子を伺った。

こんな恐怖は感じた事がない。あっという間に血の気が引くのがわかった。手の指先と足が震え始める。

そして、私は更に言葉を失った。

道行く人は皆、まつ毛が胸辺りまで長かったからだ。

は?心の中の私はもう一度口にした。は?…

絶対夢!!これは絶対夢!!はっきりしすぎだけど、絶対夢!!

取り敢えず落ち着こう。私は上がってきた階段を下り、地下鉄へ戻る事にした。

夢だとしても気味が悪すぎる。

身体全体に鼓動が伝わるほど、静かに、そして激しく取り乱している。

ああ、私は極度の未知との遭遇時にはドタバタするタイプではなく、静かに取り乱すタイプなんだな。てか、未知との遭遇時ってなんやねん!

心の中の独り言は止まらない。

階段を下りきり、改札に向かう。

さっきは少ないながらもチラホラといたはずの人の流れはなくなっており、地下通路は眩しいほど綺麗になっていた。

怖いくらいにどこまでも白い。

夢なら覚めてくれ。

以前、うたた寝をして起きても起きても夢の中でうたた寝をしている夢をみた事があるが、あの時も生きた心地がしなかった。

だが、今は、もしかして私はもう既に死んでいるのではないかとさえ少しだけ思い始めている。

ここは黄泉の国なのかも。

だとしたら私はどこで、どのタイミングで死んだのだろうか。

眩しい地下通路をトボトボ歩きながら、私は今日を振り返ってみた。

今朝は、出かける私を妻が優しい声で「行ってらっしゃい」と見送ってくれ、、、、

記憶の中で私は2度、3度見した。

優しく微笑む妻の顔には、胸まである長いまつ毛があった。しかもリボンをつけている。

いやいやいやいや、あり得ない。

しかし、まつ毛のない妻を思い出そうとしても思い出せなかった。


たどり着いた改札には人がいなかったが、電車は通常通り動いていた。この電車が無人の自動運転である事は知っている。

もともとあまり利用者のいない地下鉄だ。誰ともすれ違わない事もあり得る。

ここが黄泉の国だとしても、自宅はあるだろうか。どっと疲れた。望みをかけて私は電車に乗り、自宅のある駅へと向かった。

自宅は駅から徒歩2分だ。少し田舎だが我ながら良い場所を選んだ。事を少し悔やむ。

誰ともすれ違わない。

不安と期待に応えるように自宅はそこに建っていた。

私は恐る恐るインターホンを鳴らした。

中から「はーい」と、玄関へ小走りする妻の声が聞こえた。

ドアが開いた。

「あなたおかえりなさい!どうだった?

わあ!!すごい!!」

胸まであるリボンで束ねたまつ毛をファサファサと揺らし、妻が感嘆の声を上げた。

私は妻と目を合わせず靴を脱ぎ捨て、慌てて洗面所へ駆け込み、鏡を見た。

そこには、ありえないほどクルクルとロングカールされたまつ毛を、よく見ないとわからないほどの細いワイヤーで眉に吊ってあるまつ毛の、多分私であろう私がいた。

へなへなと座り込む私を他所に

「まつ毛パーマなんて限られた芸能人くらいしかやってないのにあなたが、やってみたいなんていうから、どうなる事かと思ったけど。素敵やん!!」と妻が玄関の靴を揃えながら言った。

電車に乗っている時の妄想です。

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