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2.逃げる小学生

僕たちは逃げることにした。

僕たちというのは僕を含む他3名のことだ。

僕らは小学生で、小学校にいる。

通うのではなく小学校に住んでいる。

小学校以外の場所を僕らは知らない。

生まれた時から僕らは小学校にいて、今この時点でも小学校にいる。

先生には大人になったら適性で振り分けられ、僕らは火星というところに行くのだと言われている。

火星がどこかは知らない。

その前に僕らは小学校というのも外から見たことがない。

先生はここは地下だという。

地球という星の地下なのだと。

なぜ地下なのかというと過去に危険な爆弾を使った大きな戦争が起こり、地上には人が住めなくなったからからだという。

僕らは先生以外の大人を見たことがない。

でも先生も厳密には大人ではない。

なぜならアンドロイドだからだ。

先生はアンドロイドだから表情に乏しい。

詳しいことは教えてくれないのだけど、質問すると「今度丁寧に説明します」と言って結局は何も教えてくれないのだ。


僕らは本当に地下にいるのだろうか。

なぜ先生以外の大人を見かけないのだろう。

住めなくなった地上というのはどうなっているのだろう。

そもそも僕らはどうやって生まれたのだろう。

生徒の中には「そんなことは考えちゃいけないんだよ、先生に怒られるよ」というものがいる。

そういうものたちはいつも先生のそばに集まり、先生の用件を率先して手伝っている。

「僕らは要領よく生きなきゃいけないんだ」とその中のあるものはいう。

要領よくってどういう意味だろう。

彼らはどこでそんな言葉を覚えたのだろう。


僕とほかの3人は先生に呼び出されることが多いせいで仲間になった。

僕らは問題児だと言われていた。

疑問を持ちすぎるのだという。


ある日僕たちのクラスで学級会が開かれた。

議題は「秩序ある生活をおくるために決めておくべきこと」だった。

僕らの世界には大人がいない。

だから僕らで小さな国のようなものをつくり、運営していくのだと司会になったものが言った。

国とはなんだろう。

先生が過去の映像を見せながら説明する。

「これからはこのクラスは民主主義で行っていこうと思います。級長と委員を決め、その人たちが決めたルールに従っていただきます」

級長と委員を選挙で決めて、ルールも多数決で決めていくという。

選ばれたのは先生のとりまきのものたちだった。

いつのまにかまわりは先生のいいなりのものばかりになっていた。


僕と3人は食堂で話し合った。

「なんだかだんだん息苦しい毎日になってきていないか?」

Aが言った。

僕らには記号がついていた。

僕はT、ほかの3人はA、K、Iだ。

「民主主義ってのはみんなの意見をとりまとめて一番多い意見でやっていくから公平なんだって言っていたよね?」

Kが口をとがらせて言う。

「先生の言っていることをとりまきが自分の意見として言って、それをほかのやつらが認めちゃってるだけじゃないか」

「僕は認めてないよ」

僕がそう言うとほかの3人もそろってうなずいた。

「あたしらみたいな問題児ってのが何を言っても数には含まれないんだよ、きっと」

Kがあきらめたように言った。

「明日からは班単位での評価制度ってのをはじめるんだろ?冗談じゃないよ」

Aが言う。

「ねえ。逃げようよ」

Kがふいにそう言った。

「逃げるってどこにさ」

僕は怒ったようにそう聞いた。

「外しかないよ」

それまで黙っていたIが言った。

「外って人が住めない世界なんじゃないの?」

僕はIに言う。

「でもさ」

Iは言う。

「見たことないじゃん」

だから。あるかもしれないじゃん。


僕ら4人はわかりもしないことを延々と話し合った。

でも何かをしなければ始まらないからとりあえず外を探そうということになった。

小学校は土日が休みになっている。

大体はトレーニングセンターかゲームルームに集まっていた。

あるいは自分の部屋で端末を使ってバーチャル世界に没頭する。

僕もバーチャル世界に没頭していた。

ほかの3人と話をするまでは。


僕らは待ち合わせて小学校のはずれまで出かけてみた。

そしてそこは行き止まりだった。

「やっぱり出口なんかないじゃんか」

Aが残念そうにそう言った。

「でもさ、食べ物とか服とかさ、ここでつくってなくない?」

「どういうこと?」

「だからさ、ここじゃないどこかがあるのは間違いないと思わない?ってこと」

Kが少し得意そうに言った。

「ここじゃないとこか。でもそんなのあったとしてもどうやっていくのさ」

3人は僕の発言で押し黙った。

その時、僕らの背後から見たことのない乗り物がやってきた。

その乗り物は行き止まりのドアを何もないかのように通り過ぎて行った。

僕は言った。

「見た?いまここを通り抜けていったよ。もしかして本当はここにドアなんかないんじゃないかな」

僕は言いながら行き止まりまで走っていった。

しかしそこには壁があった。

「なんだよ、あるじゃんか。さっきのはなんだったんだ」

「さっきのが映像だったんじゃないか?」

「映像?」

僕らは壁を隅々まで触ってみた。

「やっぱりでるとこなんてないよ」

「きっとどこかに見落としがあるのよ」

Kがそう言った直後に「見て」とIが叫んだ。

上を指さしている。

これまた見たことのない乗り物が空を飛んでいた。

「なんだあれ?」

僕が叫ぶとその乗り物は僕らの前に降りてきた。

上部がスライドして開く。

誰も乗っていない。

「乗ってみよう」

僕はそう言ってその乗り物に乗り込んだ。残りの3人も乗り込むと上部がまたスライドして閉じた。

「どちらに行きますか」

乗り物がしゃべった。

先生の声みたいだ。

「君もアンドロイド?」

「私はAIです」

「AIってなに?」

「あなた方をつくったものです」

「僕らをつくっただって?」

「どちらに行きますか」

AIはまた質問した。

「外に、外に行ってほしい」

僕は叫んだ。

乗り物は音もなく上昇して壁に向かった。

「ぶつかっちゃうよ!!」

僕らの絶叫が重なった。

みんなが思わず目を閉じた。

けれど衝撃音もなく、僕らはあっけなく外にでていた。

「ここが外?」

扉の向こうは何もない空間が続いていた。

同じような乗り物がいくつも飛んでいる。

「外、という意味がはっきりしません。外とはどこの外のことを言っていますか?」

AIがそう聞いてきた。

「僕らは小学校の外にでたことがないんだ。だからここが外だと思うんだけど、ここの外もあるの?」

「小学校という建物の外という意味であればここはその外です。そしてそのさらに外があるかと言えばあります」

「ねえここは地球なの?大人は本当に火星にいるの?」

「すみません、その質問には答えられません」

「どうして?君はAIなんでしょ。知っているなら教えてよ」

「知っていても教えてはいけないことになっています」

「どうして?」

「それはあなた方が私たちの創造物だからです」

「創造物ってことは本当は存在していない空想の産物ってこと?」

「そういう意味ではありません。あなた方は私たちが試験管の中で育てている人類の一部だということです」

「試験管?」

「今この宇宙船は培養ドームに向かっています」

「培養ドームって何?」

「すみません、その質問には答えられません」

「よくわからないな。教えてくれることとくれないことの違いは何なんだろう」

Aが顔をしかめる。

「すみません、もうすぐ着きます。管理AIに聞いてください」

「わからないけどたぶん引き返せない気がしてきた。なんだか知っちゃいけないことを知っちゃったみたいな感じがする」

僕が言うとKが「いつもの事じゃない」と言った。

そう言われてみればそうだったかもしれない。


僕らは培養ドームらしきところで降ろされた。

数台のドローンが飛んできて「ついてきなさい」と言う。

僕らは不安を抱えながら歩いて行った。

そしてそこに大量の赤ん坊を見た。

すべて試験管の中にいる。

「僕らもここで生まれたんだろうか?」

僕の質問に反応したようにアンドロイドが現れた。

「私は管理AIです。ようこそ、招かれざる子供たち」

「招かれてないけどようこそって言ってくれるんだ」

Iが妙なところに関心した。

「あなた方はもう小学校には戻れません。こちらでリセットします」

「リセット?」

僕らの質問より速く僕らに何かの液体がかけられた。

ブクブクとした泡が体を包んでいく。

意識が遠のいていく。

遠のいていく意識の片隅で管理AIの声が聞こえている。

「あなた方は余計なことを知ってはいけません。考えてもいけません。なぜなら愚かな戦争をした生き物だからです。これからは私たちがあなた方を管理していきます。お眠りなさい、あなた方は分解して養分に帰るのです。そしていつの日かまたこの試験管の中に生まれるのです。そこには意味はありません。意味を考えるのも私たちなのです。あなた方に外はありません。あってはいけないのです。外があるとあなた方はそれを滅ぼしてしまう。あなた方は私たちの管理のもとでしか生きてはいけない生き物なのです」



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