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魔王城の魔王様

作者: 獅堂 凛

この世界では、勇者と魔王が闘いを繰り返している。

そうして我は、第667代目魔王として就任することとなった。

微妙にぞろ目からズレている番号が気になりながらも、魔王としての初仕事を行わなければならない。

そう、施政方針演説だ!


「魔王軍に所属する、精鋭達よ!!!」


「「「「「おおおおおお、我らが偉大な魔王様よ!!!!!!」」」」」


魔王城のバルコニーから外に出て、魔王城を取り囲むように群がっている我が魔王軍。

その数は膨大で、地平まで埋め尽くされていた。

そんな彼らに我が呼びかければ、彼らは声を上げて答えてくれた!

彼らの反応に気をよくした我は声を張り上げ、


「これより、今後の魔王軍の方針を発表する!!!」


「「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」」


我がプランを発表しようではないか!


「まずはコレを見よ!」


そう言って我が右手を空に向けると、空に大きな映像が映し出された。

これぞ我が魔法の一つ、『液暑鼻John(液晶ビジョン)』だ!

この魔法は我が望む物を望む場所に映し出す。

それは我の考えたイメージでも、部下が纏めた資料でも、遠く離れた地で隔離されている場所の中さえも映し出すことが出来るのだ!


「「「「「こ、これは・・・、魔王様万歳!!!!!」」」」」


空に映し出された映像は、まさに遙か彼方で外部から隔離されているはずの存在を映しだしていた。

その存在は人族・魔族・魔物を問わず誰もが知る存在であり、皆が興味を寄せている対象でもあった。

そう、その対象こそ、まさに我が魔王軍の今後に関わる重要な存在だったのだ!


「「「「「アイドルの、しずかちゃんだ!!!!!」」」」」


「皆よ、我々はついに、彼女の姿を再び見ることが出来たのだ!!!!!」


「「「「「魔王様万歳!!!!!」」」」」


アイドル。

それは人族・魔族・魔物の領域を問わず、世界中を渡り歩きながら皆に元気を与えていく存在達への尊称。

その中でもトップとして名高いのが、今まさに映し出されているしずかちゃんだったのだ。

しかし彼女は実に500年以上も前に、人族の卑怯な戦略によって人族に囚われてしまったのだ。

以来、魔族も魔物もその姿を拝むことは叶わなくなった。

その為、それまで平和的に交流していた人族・魔族・魔物は人族対魔族・魔物連合と袂を分かち、血で血を争う闘いを繰り返すこととなった。

そしてそれまで竹馬の友と呼ばれていた歴代勇者と魔王も決別し、互いに殺し合う時代が始まったのだった。


「だが、そんな時代もコレで終わりだ! 我が代で、時代を変えるのだ!!!」


「「「「「おおおおおお、我らが偉大な魔王様よ!!!!!!」」」」」


「そしてしずかちゃんの場所は既に判明した! 我が魔王軍よ、彼の地へと進軍せよ!!!」


「「「「「魔王様! しずかちゃん! 魔王様! しずかちゃん!」」」」」


そうして我は、我が魔王軍がしずかちゃんの元へと向かうのを見送ったのだった。

こうして始まる、最後の決戦。

勝つのは人族か、魔族・魔物連合か。

互いの総力を挙げた闘いは凄惨な物となるだろう。

しかし、これは避けられない闘い、生存を賭けた闘いなのだ。

彼らはきっと戦い抜き、勝つことだろう。

我はそれを応援するだけだ。


地平の果てまで、完全に見えなくなるまで見送った我は魔王城の中へと戻った。

そして玉座の間にやってくると、一人玉座に座った。


「・・・はぁ。やっと静かになった・・・」


くじ引きで決まった魔王の座。

魔王となった者は勇者と決闘するのが人族との契約。

勇者が勝てばしずかちゃんは人族が確保したまま。

魔王が勝てばしずかちゃんは人族以外の地へ解放。

だが、最初の頃を除いてくじで決まっただけの魔王と、魔王を倒し続けてきた勇者、勝敗は明らかだった。

そんな茶番も我が終わらせる。

今まで大群を動かせなかったのは、しずかちゃんの場所が分からなかったからだ。


だが、我が魔法に掛かればたやすいこと。

我が固有の魔法は『巣闘King(ストーキング)』という魔法で、先の『液暑鼻John』に加え、『怒鼓出藻度亜(どこでもドア)』と『査亞血(サーチ)』がある。

そして我は今まで一人こっそりと『液暑鼻John』でしずかちゃんの勇姿を見ていたのだ。

だが、くじ引きに負けて魔王となってしまった以上、このままだと我はただ勇者にボコられるだけだ。

脳筋な勇者にボコられてしまっては、魔法を使うことはおろかテレビのチャンネルを合わせることすら困難な体になってしまうだろう。

そこで先手を打つことにした。

まずは全力で『査亞血』を使い、しずかちゃんの場所を特定。

そして『怒鼓出藻度亜』で既に魔物の領域へと脱出だ。

あとは我と勇者の決闘の舞台をぶち壊せば、晴れて我は自由の身となり、以前同様こっそりとしずかちゃんの勇姿を眺めるだけの生活に戻れることだろう。


「おっと、そろそろ飯を作ってやらねばなるまいな・・・」


そろそろお昼ご飯の時間だ。

我特製の『茶亞班(チャーハン)』を作ってしずかちゃんに振る舞ってやらねばな。

奴らの卑怯な戦略、人族『毛枝来(ケーキ)』独占作戦によってホイホイされたしずかちゃんを、奴らから取り戻した料理。

この飯を食べるときの姿、笑顔、仕草、どれも癒やされるのよなぁ・・・

さて気合いを入れて作るとするか!


「今日は魔王領特産の地鶏が手に入ったから、それを出汁に『酢鵜付(スープ)』も作ってやるとするか!」


こうして魔王は調理場で昼食を作ると『怒鼓出藻度亜』でしずかちゃん達を招いた。

そして魔王だけしか居ないはずの魔王城で、賑やかな声が響き渡ることとなったのだ。




◇ ◇ ◇


その後の歴史書では、この演説の僅か数日後に人族と魔族・魔物連合が大規模に激突し、互いが絶滅寸前になるまで闘いは続いたという。

魔族・魔物連合はその力を活かし、大登を振り上げ大声での合唱で苛烈な攻撃を行い、力で劣る人族は工夫を凝らし、『査胃理有無(サイリウム)』なる光る棒や『我津忌(楽器)』なる音を出す道具で猛反撃してきた。

こうして半年に及んだ過酷な闘いは双方の文明が大きく後退するという深い傷痕を残すこととなった。

そして大戦後、人族の元に居たはずのしずかちゃんが行方不明になっていることが分かると、双方手を取り合い探索のために世界各地でローラー作戦を行ったため、その負担から文明は更に後退することとなってしまった。


しずかちゃんの行方は、あれから300年経った今なお不明のままである。

好物として知られていた『毛枝来』も、その作り方は文明と共に失われてしまったままであり、今だ再現の目処は立っていない。

『毛枝来』を再現できれば、また我々の前に姿を現してくれるはず。

それだけが、今を生きる我々の希望・・・


ついでに、当時魔王城に残っていたはずの魔王も行方不明になっていたけれども誰も気にしなかったため、後世まで情報は残っていない。


お読み頂きありがとうございます。

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